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「ストリート・オブ・ファイヤー」マイケル・パレ。60代で振り返る俳優人生。加藤雅也とのCM思い出も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2022年のマイケル・パレ(撮影/筆者)

1984年公開の『ストリート・オブ・ファイヤー』を鮮明に記憶に留めている映画ファンは多い。

冒頭で“ロックンロールの寓話”と宣言される同作は、数年ぶりに街に戻ってきた男が、無法者たちにさらわれたかつての恋人を救い出す物語が、過激なアクション、テンション上がる音楽とともに展開。そのカッコよさは、いま改めて観てもまったく色褪せていない。奇跡の一本と言える。主人公のトム・コーディを演じたマイケル・パレは一躍、トップスターとなり、現在も熱烈なファンに支持されている。しかし2022年の彼がどうしているのか、知らない人も多いかもしれない。

『ストリート・オブ・ファイヤー』のキャンペーン以来、38年ぶりという来日。11/25〜27開催の東京コミコンにやって来たマイケルに俳優人生を振り返ってもらった。

「もともと演技なんて興味なかった。マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーン、ポール・ニューマン、モンゴメリー・クリフトというスターに憧れがあった程度」と正直に打ち明けるマイケル。ウディ・アレン映画のロケ地にもなった、NYのセントラルパーク内の老舗レストラン、タバーン・オン・ザ・グリーンでシェフとして働いていた彼が、ハリウッドへ呼ばれたのは有名な話だ。

「なつかしいね。タバーン・オン・ザ・グリーンのオーナーが、ジョイス・セルズニックのいとこだったんだ。ジョイスは、あの『風と共に去りぬ』を製作したデビッド・O・セルズニックの姪で、キャスティングの仕事をしている彼女からハリウッドへの誘いを受けたのさ。ワーナー・ブラザースに紹介してくれ、今の私がある。シェフとしての経験は今も生きていて、週に3、4回は家族のためにディナーを作っていますよ(笑)」

名監督に「主人公が見つかった」と言わせる

ABCのドラマ「アメリカン・ヒーロー」でデビューし、注目された直後、マイケルの人生を変える主演映画が作られる。それが『ストリート・オブ・ファイヤー』だった。

「オーディションで選ばれたわけじゃない。『アメリカン・ヒーロー』と『エディ&ザ・クルーザーズ』を観たユニバーサルのお偉方とウォルター・ヒル監督が、『トム・コーディを見つけた』と言ったそうだ。脚本を受け取ったのは、オーストラリアで映画の撮影をしていた時で、いくつか仕事の予定が決まってたので躊躇したところ、私のエージェントから『マイケル、これはハリウッドの大作になる。絶対に引き受けるべき』と協力にプッシュされ、引き受けることにした。ヒル監督の作品はチャールズ・ブロンソンの『ストリートファイター』や、キャラダイン兄弟の『サザン・コンフォート』などに感動していたので、その監督がまさか自分を気に入ってくれるなんて……と感激したのも事実。ハリウッドでは夢が叶うと信じきってしまったよ」

エージェントから「大作」と聞かされた、初の主演映画『ストリート・オブ・ファイヤー』。それまでの現場とは明らかに違っていたようだ。

「トム・コーディの登場は、シカゴの電車の高架下をバイクで走らせてくるシーンだが、いきなりハリウッド大作の常識に驚かされた。撮影監督のアンドリュー・ラズロはアーティスト気質で、カメラにワイドレンズを付けて試したり、照明の設置にも延々と時間をかけ、私は何をやってるのかさっぱりわからず6時間も待たされたんだ。ウォルターと私は手持ちぶさたで、そのあたりをバイクで走っていたのを今でも覚えている」

1987年、最初の妻マリサと
1987年、最初の妻マリサと写真:REX/アフロ

かつての愛、そして過去の自分を取り戻すために闘うトム・コーディは、寡黙な一匹狼。そのヒーロー像が時を超え、観る者の胸を熱くする。

「ウォルター・ヒルは基本的に脚本家なので、俳優の演技にあまり口出ししない。指導してくれたのがスタント・コーディネーターのベニー・ドビンスだった。『いいかマイケル、よく聞けよ。お前はジョン・ウェインがやるような“ワル”になるんだ。シェイクスピア作品の演技はするんじゃない』とね。その直前にオーストラリアで出演した作品が時代モノで、古典的な演技をしてたから戸惑った。そして殴り合いのシーンで、ボクサーのような構えをしたらウォルターにも怒られた。『そうじゃない。ジョン・ウェインになるんだ。クリント・イーストウッドでもいい』と。それまでやってきた映画のアクションとは、まったく違う経験になった」

作品自体が強烈なインパクト、輝きを放ちながら、『ストリート・オブ・ファイヤー』がここまで広く、そして長く愛され続ける理由を、マイケルは次のように説明する。

「じつはオリジナルの脚本はもっと残酷で暴力的だった。ウォルター・ヒル監督のそれ以前の作品らしくね。オリジナル版では、ウィレム・デフォーのレイヴェンに殴り倒されたトム・コーディが、ナイフを取り出し彼を刺し殺すことになっていた。スタジオ側の強い要望で、一般観客向けに改変されたのさ。それが結果的に良かったようだね」

壮絶極める展開ながら誰も命を落とさなかった『ストリート・オブ・ファイヤー』。トム・コーディの物語は3部作になる企画もあったが、実現しなかったことをマイケルも残念がる。

「アイデアだけで終わってしまった。ジョエル(・ゴードン)やローレンス(・ゴードン)から聞いたのは、撮影後、彼らプロデューサーがユニバーサルから20世紀フォックスに移ったものの、作品の権利はユニバーサルのままだったから……ってこと。だからウォルターは続編に手がつけられなかったんだ。私自身は正直、もう一度トムを演じたかった」

あの続編は、無理な条件で自らやめた

『ストリート・オブ・ファイヤー』が1984年の6月に日本で公開され、同年の10月に主演作『フィラデルフィア・エクスペリメント』が公開。この年は、まさに“マイケル・パレ・イヤー”となった。

「『フィラデルフィア〜』は、タイムトラベルも題材になるSF映画なんだが、じつは原作を読んでいた。まだ学生の頃、エンジニアだった兄がこの本について『ここに書かれてることは未来に実現するよ』と勧めてくれた。そうしたら10年後、その映画化に私が出演したんだよ。SFみたいなエクスペリメント(経験)が現実になった(笑)。同作の監督(スチュワート・ラフィル)は、私と共演のナンシー・アレンとしょっちゅう一緒に食事をして、いろいろな話をした。俳優と深く関わらないウォルターとはまったく違ったんだ。誰かの指導を求めていた24歳の私には、ありがたかったな」

『フィラデルフィア・エクスペリメント』は9年後の1993年に、同名の主人公が登場する続編が作られたが、マイケルは出演していない。

「続編の監督、スティーヴン・コーウェルとは、その前にイスラエルで撮ったアクション映画『キリング・ストリート』で一緒に仕事をしていた。優秀な監督で脚本家だ。だから私も最初は続編に関わっていたのに、製作会社の若いプロデューサーが別の作品をオファーしてきて、それが気に入らないなら、この続編からも出てってくれと言うじゃないか。喜んで出て行ってやったよ!」

コマーシャルとは思えない超スケールの現場

この2作の主演映画の後、マイケル・パレの作品は残念ながら、それほど大きな話題を集めることはなくなってしまった。しかし1993年には日本のCMにも出演。「Speak LARK」でおなじみのタバコのCMだ。

加藤雅也さんと共演したやつだね。今回の来日では加藤さんとも再会して食事したよ。あのCMは監督が『暴走機関車』のアンドレイ・コンチャロフスキーで、カメラマンがアカデミー賞受賞者。2200万ドルの製作費で2週間かけて撮影したんだ。CMとは思えないだろう? 私はバイクのシーンは実際に自分で乗った。ジェット機も出てきたが、さすがにあれは操縦してない。かなり特殊効果も使われていたね」

2022年の東京コミコンで上映された『End of Loyalty』(C) END OF LOYALTY
2022年の東京コミコンで上映された『End of Loyalty』(C) END OF LOYALTY

現在、マイケル・パレはバリバリの現役俳優である。2022年公開だけでも、クレジットされている映画が、なんと22本! 小さな役が多いとはいえ信じがたいワーカホリックぶりである。これは、彼にオファーを出す人が今も数多いことを証明している。改めて80年代から今に至る俳優の仕事へのスタンスを聞いた。

「若い頃は自分でもカオスな気分だった。今は仕事への取り組み方もだいぶ違う。出演が決まったら、脚本を100回は読む。単にセリフを記憶するのではなく、全体を通して肉体に染み込ませるんだ。全シーンを一人で演じ切られるくらいにね。仕事がない時は今でも演技クラスに通っているし、教師もしている。そうした経験が物語を深く理解する助けにもなったし、演技の心理的なインパクトを分析できるようになった。

 同時に、俳優の仕事は監督に“仕える”ことだ。映画は自分のものではない。監督と同じ考えで作品に向き合わないことは大きな問題だ。そんな風にキャリアを積んで、賢く成熟してきた気がする。

 ミュージシャンならギターを手に取って演奏する。画家なら家で絵を描くことができる。でも俳優は、現場で演技をしなくてはならない。ひとつの仕事を得るために時には何年も待つ必要もある。それを私は続けているだけだ」

64歳の現在、肉体トレーニングも欠かさないという。

「ジムへ行って30分くらい有酸素運動をやっている。ウェイトを持ち上げ、サンドバッグを叩くのも日課だね。あとは瞑想の時間を作ること。酒やタバコ、もちろんドラッグはやりませんよ」

ジョニー・デップとの共演も大切な縁から。オスカーも欲しい!

人と人のつながりを大切にするのも信条のようで、ここ数年、『リンカーン弁護士』『潜入者』『L.A.コールドケース』と、ブラッド・ファーマン監督の作品には必ず出演している。

「ニュージャージーで撮った低予算の映画で警官役を演じたとき、取り押さえられた犯罪者を演じていた俳優が、ロサンゼルスで同じバスケットチームにいる仲間にその映像を見せたという。そうしたら見た相手が『これ、マイケル・パレじゃないか。ぜひ連絡先を教えてほしい』と言ってきたらしく、私も『いいよ』と伝えたら『新作に出てほしい』とお願いされた。それがブラッド・ファーマンとの出会いだ。ブラッドの作品では、『リンカーン弁護士』でマシュー・マコノヒーと、次の『潜入者』でブライアン・クランストン、そして『L.A.コールドケース』ではジョニー・デップと共演できたってわけさ。もともとブラッドは、私の演技に触発されて映画監督になったらしい。最高の仲間になったよ」

今回のコミコンで上映された出演作『End of Loyalty』では「悪漢を依頼されたが、あえて祖父役を希望した。これは家族ドラマでもあるからだ。孫役の俳優と会って、うまくやれそうだと監督もOKしてくれた」と犯罪ドラマながら、マイケルの新たな側面が見られる。仕事以外では、来年、息子が大学院でコンピュータ・サイエンスの修士号を取ることを楽しみにしている“良きパパ”だとのことで、そんなマイケルの素顔も反映されている。同作は片桐裕司監督で、生島翔とも共演。全米は2023年公開だが、日本での公開決定が待たれる。

そして最後に今後の夢を尋ねてみると、マイケル・パレは心からの笑顔を浮かべ、こう答えた。

「ハリウッドのウォーク・オブ・フェームに私の名前の星を加えたい。そしてもちろんアカデミー賞。まだまだ現役だから、狙っていいだろう? 私生活ではボートでの大西洋横断、そしてもうしばらく先になりそうだが、孫の顔を見ることだね(笑)」

当たり役でのインパクトがあまりに大きすぎると、その幻影にとらわれてキャリアを失速させる人もいる。しかし俳優人生を晴れやかな表情、リラックスした言葉で誠実に振り返るこのスターは明らかに違ったようだ。『ストリート・オブ・ファイヤー』を超える代表作が、もしかしたら今後、出現するのか……。そんな予感を抱かずにはいられないほど、80年代から変わらぬオーラを放つマイケル・パレであった。

東京コミコンのステージで『End of Loyalty』について語るマイケル・パレ(写真提供/東京コミコン)
東京コミコンのステージで『End of Loyalty』について語るマイケル・パレ(写真提供/東京コミコン)

マイケル・パレのほか、多くのスターが出席したコミコンは、来年、大阪でも開催される。

大阪コミコン2023」2023年5月5日(金)~5月7日(日)にインテックス大阪にて開催

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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