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日本は『すずめの戸締まり』大規模上映が話題も、同週のアメリカは「1本86.6%独占」でもっと極端!?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

11/11に公開された、新海誠監督の新作『すずめの戸締まり』は、公開の週末3日間で観客動員133万人、興行収入が約18.8億円という数字を記録し、ダントツの1位でデビューした。

邦画の歴代3位となった新海監督の『君の名は。』が公開週3日間で約12億円、『天気の子』が約16.4億円(土曜公開だったので月曜までの3日間の数字)だったので、確実に数字を伸ばしている証となった。

公開劇場の館数でも『君の名は。』が297、『天気の子』が392、今回の『すずめの戸締まり』が420と増えているので、この数字も当然といえば当然。ただ今回は公開日に前後して「シネコンの上映回数、『すずめの戸締まり』に占拠されている」などというニュースが流れた。この「420」という数は各シネコンを1館とカウントしており(IMAXは別枠)、そのシネコンでいくつのスクリーンで上映されたか、ではない。1日の上映回の多くが『すずめの戸締まり』で占められていたシネコンもあり、一人勝ちがお膳立てされた。

1例を挙げれば、11/15(火)のTOHOシネマズ新宿では

すずめの戸締まり:23回

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー:16回

その他の作品:27回

といったバランス。

ただ、この上映回数を極端に増やすのは「鬼滅の刃」「呪術廻戦」「コナン」など、いつものこと。

観客動員・興行収入としても『すずめの戸締まり』は公開週のぶっちぎりトップだが、2位の『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』も大健闘の数字で、公開3日間で動員30万人、興収4.9億円超え。通常なら軽く1位になれる数字。『すずめの戸締まり』の“独占”というわけでもなかった。

ちなみに『ブラックパンサー』の4年前の前作は、日本では公開週末の土日で3.1億円、4日間(初日が3/1木だったので)で5億円という数字だったが、この時も2位デビューだった(1位は『映画ドラえもん のび太の宝島』)。

一方で、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が同日公開されたアメリカでは、同作の一人勝ちのレベルが凄まじいことになっている。

週末のすべての興行収入のうち、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』だけで、なんと86.6%を占めてしまったのだ。

『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の週末の成績は1億8133万ドル。すべての興収が2億0926万ドル。2位の『ブラックアダム』でも805万ドルなので、『ブラックパンサー〜』に対してわずか4.4%

これまでも今年のアメリカでは、『トップガン マーヴェリック』が71.9%、『THE BATMAN –ザ・バットマン-』が81%、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』が84%と、全興収のうちデビュー作1本が稼ぐ割合が極端、という例が目立っていたが、さらに加速した印象。

日本では先週末のように、邦画の話題アニメ、ハリウッドのアクション大作、という具合に観客がある程度、棲み分けされる強力作が同時公開というケースもよくあるが、アメリカでは一人勝ちが予想される作品に対し、あえて競合をぶつけてこない、というのもある。

それにしても、この“一人勝ち”状態は異常なレベルに達していないだろうか。コロナの影響、配信の活況によって、『トップガン』や『ブラックパンサー』のように明らかに劇場の大スクリーンで観るべき作品だけに、観客が集中している。それ以外は、少し待って配信で観れば十分だという意識が広がっているのか。現在、多くの作品が劇場公開から配信まで「45日」という期間を設けているが、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』は、その期間が延長されていることも、劇場へ人を呼び込む要因だ。

アメリカに比べると日本では現在、「配信ですぐに観られるから」という意識がそこまで深く浸透していないと感じられる。しかし大ヒット作の一人勝ちは、ここ数年、常識となった。これも時代を反映した現象なのだろうが、どこかもどかしさ、寂しさを感じるのも事実である。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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