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公開3週目でベストテン入り。観た人のテンションと愛が凄まじい『RRR』。これは理想のヒット曲線か

斉藤博昭映画ジャーナリスト
このシーンはどういう状況か。それを確かめるだけでお腹いっぱいに!

社会現象になるほどの大ヒットとは言えなくても、観た人の反応、そのテンションがあまりに高く、熱が拡散するように観客数を増やしていく映画がある。

10/21に公開されたインド映画『RRR』は、まさにそのパターンだ。公開の週末こそ動員ランキング11位だったが、3週目にして9位にアップ。公開されてから評判が高まるという、ある意味、「健全」な映画興行の例になっている。とはいえ「9位」というランクは、そこまで大ヒットというわけではない。しかし『RRR』の場合は、観た人の支持が異様に高いという印象なのだ。

筆者も『RRR』のS.S.ラージャマウリ監督にインタビューしたことをツイートしたところ、2週間以上経っても、リツイートいいね!が止まらない。どこか尋常ならぬ“愛”を実感している。

実際に週末3日間の観客動員数の推移は以下のとおり。

公開1週目:10/21〜23:29,624

公開2週目:10/28〜30:23,513人(前週比:79.3%

公開3週目:11/4〜6:24,247人(前週比:103.1%

(※数字は配給会社TWINより)

2週目の落ちも少なめだったが、そこから3週目はV字回復の兆しが見られる。じわじわと評判が広がっている証拠だ。

『RRR』は、2022年3月に全米で公開された際も、インド映画としては異例の初登場3位を記録。これも業界の予想を上回る好成績だった(現在アメリカではNetflixで配信中)。『RRR』では劇中で敵の存在として描かれるイギリスでも、同様に大ヒットした。

こうした『RRR』への今回の熱狂には“助走”があった。同じラージャマウリ監督の前作、「バーフバリ」2部作だ。後編の『バーフバリ2 王の凱旋』はインド国内で歴代トップの興行収入を記録。2017年、日本でも公開され、一部の映画ファンを虜にしてロングラン。応援の言葉を発し、ペンライトを振り、タンバリンや鈴を鳴らす「絶叫上映」も盛り上がった。「バーフバリ」は基本、英雄伝ながら、インド映画らしくアクション場面などにツッコミどころも数多く、その“ありえなさ”に、苦手な人はまったくダメかもしれない一方で、偏愛する人も多数出現。その「バーフバリ」の監督の新作ということで『RRR』への期待も高まっていた。

もちろん今回も、いい意味でのツッコミどころはいっぱい……どころか、ツッコミを忘れるほどの豪快極めたテンションのシーンが、あちこちに用意されている。1人vs.1万人の戦いや、人間巨大ピラミッド肩車による縦横無尽アクション猛獣オールスターとの攻防などなど。それらをインドの2大スター、NTR Jr.とラーム・チャランが華麗にこなしつつ、お約束のダンスシーンでは彼らが完全シンクロ。ここまで気持ちのいい一体感はインド映画の中でも特上レベルで、このキレキレの“ナートゥダンス”だけでも何度もおかわりしたくなり、劇場でのリピートを誘う。

こうした数々のポイントが観た人の熱量を上げ、たまらず書いたツイートが次々と拡散。あまり気に留めていなかったライトな映画ファンの心にも火を点け始め、右肩上がりの興行になっているようだ。

かつてインド映画では、1998年、『ムトゥ 踊るマハラジャ』が日本で一大ブームを巻き起こした。渋谷のシネマライズで、なんと23週間のロングランを記録し、ミニシアター興行の可能性を広げる一作になった。結果的に日本での興収は4億円。

それから何年か一度、アクションあり、ダンスあり、コメディ、ラブストーリーの要素も詰め込んだ、インドの“マサラムービー”は多様化も進み、2013年の『きっと、うまくいく』(日本の興収1.5億円)など定期的に話題にはなっていた。しかし「バーフバリ」から『RRR』という盛り上がりは、新たなムーヴメントだと言えそう。『バーフバリ2 王の凱旋』は興収2.5億円だったが、『RRR』は間もなく2億円到達ということで、そこからどこまで数字を伸ばすかに期待したい。『ムトゥ』の数字が目標か。

近年、ハリウッドではマーベルやDCなどスーパーヒーロー映画が乱立し、アクション映像の新しさ、奇抜さもやや頭打ちになっている感もある。そのような状況で『RRR』は、まだ見ぬ地平を目指す勢いで、茫然自失レベルのアクションを提供。過剰なまでのサービス精神が、より刺激を求める観客のニーズに応えているのかもしれない。

『RRR』

絶賛公開中

配給:TWIN

(c) 2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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