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スピルバーグ自伝がトロント最高賞で、今年のアカデミー賞レースは「映画愛」作品ラッシュの予感

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『The Fablemans』 courtesy of TIFF

9/18に閉幕したトロント国際映画祭2022。今年の観客賞(ピープルズ・チョイス・アワード)は大方の予想どおり、スティーヴン・スピルバーグ監督の新作『ザ・フェイブルマンズ(原題/The Fablemans)』だった。

トロントの観客賞は、アカデミー賞に直結することで有名。昨年の受賞作は『ベルファスト』で。同作はその後、アカデミー賞作品賞にノミネート。そこから遡ると、『ノマドランド』、『ジョジョ・ラビット』、『グリーンブック』、『スリー・ビルボード』、『ラ・ラ・ランド』……と、それ以前の年も含め、トロントに観客賞作品は、アカデミー賞で作品賞受賞、あるいはノミネートされたものばかり。『ラ・ラ・ランド』のように作品賞を逃しても“本命”の位置につけていた作品も数多い。

これでスピルバーグの監督作が、昨年の『ウエスト・サイド・ストーリー』に続いてアカデミー賞ノミネートされることは、ほぼ確定的となった。

『ザ・フェイブルマンズ』は、スピルバーグが自身の幼少期から青年期をテーマにした作品。映画監督になる道筋に、家族との関係が重なっていく。つまり稀代の巨匠の“原点”が描かれるわけだが、両親と初めて映画館で観た1952年の『地上最大のショウ』の思い出など“映画愛”に満ち溢れている。スピルバーグ+映画愛、という公式は最強であるし、何より「映画」を題材にした作品はアカデミーの会員に強くアピールし、賞レースで有利である。スピルバーグは前回、『ウエスト・サイド・ストーリー』がノミネート止まりだったので、今回は追い風が吹きそうだ。業界誌Varietyの予想でも作品賞部門にトップに立っている(早すぎる予想だが)。

『エンパイア・オブ・ライト』 courtesy of TIFF
『エンパイア・オブ・ライト』 courtesy of TIFF

そして、この映画にまつわる作品、今年は他にも賞レースを賑わせそうである。やはりトロント国際映画祭で上映された『エンパイア・オブ・ライト』。1980年、イギリスのリゾート地の映画館を舞台にしたヒューマンドラマ。しかもその映画館がノスタルジックなムードなのも映画好きにはたまらない。こちらも現在、早すぎる予想だが、作品賞ノミネートのベスト10圏内にランクイン。映画館の売店で働くヒロイン役のオリヴィア・コールマンは、主演女優賞の有力候補の一人になっている。映画が仕掛ける“魔法”をテーマにしたのは、『アメリカン・ビューティー』や『1917 命をかけた伝令』など、これまでもアカデミー賞に絡んできたサム・メンデス監督で、撮影は名手ロジャー・ディーキンスというのも文句ナシ。

さらに「映画」をテーマにした傑作の予感はまだ続く。賞レースに照準を合わせ、全米で年末に公開されるのが『バビロン』。

『バビロン』 (C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.  
『バビロン』 (C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.  

サイレントからトーキーへと移り変わる1920年代のハリウッドが舞台となる。それだけでもアカデミー賞が大好きな題材。11年前に作品賞を受賞した『アーティスト』も同じ時代を描いていた(「これが作品賞?」という過大評価の声も聞いたが……)。『バビロン』は、監督と脚本が『ラ・ラ・ランド』のデイミアン・チャゼルということで、傑作の予感が漂う。「ジャズ・エイジ」と呼ばれる時代なので、ジャズミュージックも多用され、楽曲も『ラ・ラ・ランド』と同じジャスティン・ハーウィッツ。映画業界で野望を叶えようとする男女のストーリーで、主演はブラッド・ピットとマーゴット・ロビーと、あらゆる要素で期待が高まる。

『バビロン』はまだ完成前なので、今後の評価、動向に注目だが、いずれにしても今年の映画賞レースでは「映画」をテーマにした作品が重要なポジションで牽引していきそうだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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