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シリーズ最高を記録した『ONE PIECE』新作は、2022年のトップを射程にしたか?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
公式HPより。(c) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

2022年の映画で最高のヒットになるのは、どの作品か。邦画は前年末から公開されていた『劇場版 呪術廻戦0』が興行収入137.5億円、洋画では『トップガン マーヴェリック』が同109億円(8/15時点)で、それぞれトップが確実視された。しかしここへ来て、もう1本、100億円を射程にした作品が現れた。『ONE PIECE FILM RED』だ。

人気キャラクターのシャンクスが重要なパートを任され、メインキャラとして登場するウタとの関係などが話題となり、シリーズ最大のヒットが期待され、8/6に公開された同作は、1週目の週末2日間で22億5000万円、2週目の8/13〜14を終え、8/15の公開10日を終えた時点で、いきなり興収70億6000万円という、驚異のロケットスタート。2週であっさりとシリーズ最高の数字を記録してしまった。

今年の2トップのスタート時の数字はどうだったのか。()内で『ONE PIECE FILM RED』の割合を示すと

『劇場版 呪術廻戦0』

1週目(土日):16億2200万円(138%

10日間:58億円(121%

『トップガン マーヴェリック』

1週目(土日):8億2500万円(272%

10日間:28億円9000万円(244%

『呪術廻戦』の約3割増し、『トップガン』の2倍以上となる。『呪術廻戦』を基本にして『ONE PIECE FILM RED』の最終興収を単純に計算するなら、170億円超えとなってしまう。爆発的ヒットということなら、2020年のあの作品と比べないわけにいかない。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』

1週目(土日):33億5400万円(67%

10日間:107億円9000万円(65%

『鬼滅の刃』が最終で404億円の興収なので、初動の数字から比較すれば、『ONE PIECE FILM RED』の到達予想は、250億円あたり。あくまでも初動からの計算。

ここで注目したいのが、興行収入ではなく観客動員数である。2週目を終わった時点(10日間)で発表された観客動員数は以下のとおり。()内は『ONE PIECE FILM RED』の対比較%。

『ONE PIECE FILM RED』 505万人

『鬼滅の刃』 798万人(63%

『呪術廻戦』 431万人(117%

『トップガン』 188万人(268%

興行収入での差に比べると、『ONE PIECE FILM RED』と『呪術廻戦』は接近している。つまり観客の一人当たりの単価が違っているのである。

2週目を終えた時点で、この単価を比較すると

『ONE PIECE FILM RED』 1398

『鬼滅の刃』 1352

『呪術廻戦』 1345

『トップガン』 1537

明らかに観客層が違う『トップガン』はともかく、『鬼滅の刃』と『呪術廻戦』がほぼ同じなのに対し、『ONE PIECE FILM RED』は両者をやや上回っている。シンプルに考えれば、観客層の年代がやや高いということ。そして、IMAXや4DXなど追加料金のスクリーンも順調に数字を積み重ねているということだ。

ただ気になるのは、爆発的スタートのわりに、作品への評価が落ち着いているところ。映画レビューサイトのFilmarksでは3.8、Yahoo!映画では3.5という評価(8/17時点)。とくに後者では★1つなどシビアな感想も目立つ。リピーターがどこまで増えるかは、やや不透明な状況とみるが、公開2週目の限定カードゲームのように、大ヒットを受けて今後、良きタイミングで入場者への特典などアピールがあることも期待される。

『呪術廻戦』は年末で、『ONE PIECE FILM RED』は夏休みの真っ只中と、ともに公開時期は“最も観客を呼べる”タイミングに設定され、その期待に応える数字を上げた。公開前の期待値、公開後の評価などを総合的に考えれば、現実的には『ONE PIECE FILM RED』は『呪術廻戦』と同等の120〜130億あたりに落ち着きそうだ。3週目の数字は落ちるだろうが、その数値をどこまで抑えられるか。そして9月に入ってもリピーターを獲得できるかにかかっていきそう。世間一般で“ブーム”の雰囲気が作り出せるか。

いずれにしても東映の作品で100億円を超えれば、史上初の快挙となる。これまで東映の興行収入は、1990年の『天と地と』の92億円が最高だったので、30年以上を経て記録を塗り替えることになる。映画界にとって『ONE PIECE FILM RED』は歴史的な一作なのである。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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