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オスカーノミネート『ドライブ・マイ・カー』。2年前の『パラサイト』とココが同じ/ココが違う

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2年前のアカデミー賞授賞式。この光景が日本映画で再び!?(写真:ロイター/アフロ)

2月8日、第94回アカデミー賞のノミネートが発表され、日本映画の『ドライブ・マイ・カー』が作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞の4部門にノミネート。日本映画では史上初めて作品賞ノミネートという快挙が、日本でも大きく報道されている。

アカデミー賞へ向けた賞レースが始まろうとしていた昨年秋の段階で、ここまでの結果は誰も予想していなかった。今回のノミネートでも、作品賞ノミネートはささやかれていたものの、夢に終わる可能性もあった。

この流れで、多くの人が思い出すのが、2年前の『パラサイト 半地下の家族』である。韓国映画としてアカデミー賞で初の作品賞ノミネートを果たし、その後、作品賞受賞にまで上り詰めた。そこまで、とにかくサプライズの連続! 『パラサイト』も前哨戦の賞レースで次々と認められ、アカデミー賞に至ったので、非英語作品という面も含めて、『ドライブ・マイ・カー』の快進撃を重ねたくなる。

これまでの経緯、今後の行方も含めて、2作はどのように似ているのか。また違っているのか。

・『パラサイト』は6部門、『ドライブ・マイ・カー』は4部門ノミネート

『パラサイト』はアカデミー賞で作品賞・監督賞・脚本賞・編集賞・美術賞・国際長編映画賞の6部門でノミネート。うち作品・監督・脚本・国際長編映画の4部門で受賞した。『ドライブ・マイ・カー』は作品賞・監督賞・脚色賞・国際長編映画賞の4部門でノミネート。2作とも演技部門でのノミネートはゼロだった。

・日本の配給会社は同じ

『パラサイト』『ドライブ・マイ・カー』ともに、日本で配給を手がけたのは、ビターズ・エンド。インディペンデントの配給会社で、映画ファンでなければその名前を聞いたことがない人も多いかもしれない。海外映画祭で評価される粒ぞろいの作品を手がけることで知られている。1994年設立。同社はこの3年間で、『パラサイト』『ドライブ・マイ・カー』がアカデミー賞作品賞ノミネートというのもスゴいが、今年の作品賞ノミネート作では『リコリス・ピザ』もビターズ・エンドの作品(共同配給)。高確率である。

過去にはポン・ジュノ監督作は『殺人の追憶』など、濱口竜介監督作は『寝ても覚めても』も配給している。

・アメリカでの配給会社は違う

『パラサイト』のアメリカ配給を手がけたのは、NEONという会社。2017年設立の新興配給会社だが、賞レースに絡む作品を多数担当。“アカデミー賞請負人”ともいわれるほどに急成長した。今年も国際長編映画賞ノミネート作で、デンマーク映画の『Flee』、ノルウェー映画『The Worst Person in the World』が同社配給。『パラサイト』の時も、このNEONの宣伝、機動力が功を奏して作品賞に導いた、という報道も多かった。

一方の『ドライブ・マイ・カー』のアメリカ配給はJanus Films。この会社、新作というより、アジアを含めた世界各国の旧作・名作のソフトに力を入れている。そのためか賞レースの初めの頃は、『ドライブ・マイ・カー』をプッシュする動きが目立たなかったと聞く。しかし手応えを感じた配給が、昨年末あたりからプロモーションを加速。こうした注目度の急上昇は、配給の援護もあるが、作品自体の力が認められたからかも。

・ともにスタートはカンヌだった

『パラサイト』はカンヌ国際映画祭でパルム・ドール(最高賞)を受賞し、そこから各映画祭、賞レースでの高い評価につながった。『ドライブ・マイ・カー』もカンヌで脚本賞など4冠に輝き、その後、ロサンゼルスやニューヨーク、全米の映画批評家協会賞でトップとなる作品賞受賞へと続いていくことになった。

かつてはカンヌの受賞作とアカデミー賞の結果はあまり被らないのが常識だったが、近年はこのようにカンヌで認められた作品が、その年の賞レースの中心になるケースも目立つようになってきた。

・国際的に認められてからの期間は?

『パラサイト』のポン・ジュノ監督は、長編2作目の『殺人の追憶』(2003年)が韓国で大ブームを巻き起こし、続く『グエムル –漢江の怪物-』(2006年)が世界的な評判を呼んだ後、『母なる証明』(2009年)でカンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で高い評価を受ける。そこからアメリカやフランスも製作に関わった『スノーピアサー』(2013年)などを経て、『パラサイト』(2019年)へ至る。

濱口竜介監督は『ハッピーアワー』が2015年のロカルノ国際映画祭へ出品されて、国際コンペ部門で最優秀女優賞(4人の出演者)に輝き、一気に注目される。そして『寝ても覚めても』(2018年)がいきなりカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。脚本で参加した『スパイの妻〈劇場版〉』(2020年)がヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞、『偶然と想像』(2021年)がベルリン国際映画祭で銀熊賞、そして『ドライブ・マイ・カー』のカンヌ受賞と短期間で世界を席巻した印象。勢いは上回ってる!?

・ここからアカデミー賞授賞式までの受賞経緯/予想は?

アカデミー賞の行方を占ううえで、これから重要な賞がいくつも発表される。アカデミー会員と投票者が多く重なるのが、各組合の賞。中でも大勢を占める俳優組合賞(SAG)は重要で、『パラサイト』はここで最高賞のキャスト賞を受賞し、アカデミー賞へ弾みをつけた。『ドライブ・マイ・カー』は残念ながらSAGではどの部門にもノミネートされなかった。また監督組合賞(DGA)、製作者組合賞(PGA)とも、『パラサイト』はノミネートされたが、『ドライブ・マイ・カー』は外れた。英国アカデミー賞も、2作はともに非英語作品賞にノミネートされているが、すべてを含んだ作品賞では『パラサイト』のみがノミネート。そこが2作の違いとなっている。

・ともに通訳さんが超優秀!

『パラサイト』は、アカデミー賞授賞式、およびそこに至る数々のイベントで、ポン・ジュノ監督の言葉を英語で伝える通訳さんの有能ぶりが話題になった。アカデミー会員、世界の映画ファンにその気持ちを的確に、丁寧に、スムーズに伝える役割がいかに大切かを認識させられたが、では濱口監督はどうか? 先日、ロサンゼルスのJapan Houseが主催した、Zoomによる濱口監督のトークイベントがあったが、彼の通訳さんがこれまた優秀だった。濱口監督は基本的に英語の質問が理解できるようで、日本語の答えのみを通訳さんに任せており、流れも内容もひじょうにスムーズ。この通訳さんが今後のイベント、授賞式でも傍にいれば安心だと実感する。

はたして『ドライブ・マイ・カー』が何部門で受賞するのか。『パラサイト』の興奮が、繰り返される可能性はあるのか。いずれにしても授賞式までの楽しみは尽きない。

アカデミー賞授賞式は3月27日(日本時間の28日)に開催される。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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