Yahoo!ニュース

北欧の至宝スターは、ヒゲが伸びる速さも武器!? マッツ・ミケルセンへの絶対的な信頼と愛、監督が語る

斉藤博昭映画ジャーナリスト
左から3人目がイェンセン監督。その向かって右がマッツ・ミケルセン

この俳優に夢中になった人は、その愛が長く続くことになるーー。

デンマーク出身のスター、マッツ・ミケルセンは現在56歳で、ちょっと前にブーム的によく耳にした“イケオジ”俳優の代表格となった。「北欧の至宝」とも称される彼は、当然のごとくハリウッドでも引っ張りだこ(『ドクター・ストレンジ』『ファンタスティック・ビースト』)なのだが、母国デンマークの作品にも律儀に、しっかり出演するスタンスが、かえって好感度をアップさせている。昨年、米アカデミー賞で国際長編映画賞に輝いた『アナザーラウンド』も、マッツ主演のデンマーク映画だ。

取材などでも、じつに真摯で礼儀正しく、映画会社の人も一度会ったら心を鷲掴みされてしまう。そんなマッツが最も信頼をおいているデンマークの監督の一人が、アナス・トマス・イェンセン。マッツとは5本の映画を一緒に作ってきた、まさに盟友。その2人の最新作が、日本で1/21に公開の『ライダーズ・オブ・ジャスティス』だ。

マッツが演じるのは、列車事故で妻が亡くなり、赴任地のアフガニスタンからデンマークに戻ってきた軍人のマークス。その事故は、ある組織による犯行だと知らされた彼は、恨みを晴らすべく立ち上がる……という物語。何やらシリアスなムードが漂うが、笑えるやりとり、妙にほんわかするエピソード、衝撃アクション、仲間や家族とのドラマチックな絆などが盛り込まれ、徹底して独創的な作り。予想不能の面白さから、すでにハリウッドでもリメイクが決まっている。

監督のイェンセンにインタビューを行なったが、ここでは日本の熱いマッツファンに向け、2人の関係を中心にした、この記事独占のQ&Aをお届けしよう。

ーーマッツとの良好な関係を築いた、最初のきっかけを教えてください。

「マッツと出会って、いくつかの短編映画に参加してもらった後、最初の長編作『Flickering Light』でお願いしたのが、めちゃくちゃ気性の激しいキャラクターでした。子供にも暴力をふるう難しい演技を、マッツが見事にやってのけてくれ、僕は『なんてスゴい俳優なんだ!』と心から感激したのです。そこからつねに何か脚本を書くたびに、彼の顔をイメージするようになりました」

ーー今回も含め、そこまでマッツを想定して書いたとしても、彼に断られることはないのですか?

「いつも『わかった、出るよ』と返事が来ます(笑)」

ーーそれは、なぜ?

「何年にもわたる信頼関係がありますし、何より良き友人だからでしょう。われわれは一緒に仕事をするのが大好きなんです。僕が撮り始めると、マッツがいつもそこにいる感覚(笑)。だから彼を想定して脚本を書いちゃうんです」

この見事なヒゲを見よ!
この見事なヒゲを見よ!

ーー今回のマークス役でマッツは長いヒゲを生やしています。本物だそうですが、世界的に引く手あまたで多忙な彼を、ヒゲが伸びるまで時間を拘束できるとは……。

「じつはマッツは毛が伸びるスピードが人より速いんです(笑)。以前、『フレッシュ・デリ』という作品で彼にスキンヘッドになってもらったのですが、朝に髪を剃って撮影していると、ランチの頃にすでに毛が伸び始めている。おそらくテストステロンが原因なんじゃないかな。ちょうど『アナザーラウンド』を撮り終えた時に、すでに本作の脚本を読んでいたマッツと、マークス役について話し合いました。特殊部隊の軍人で、ほら穴に籠っていたような外見がいいとなって、ヒゲを伸ばしてもらったんです。撮影開始までの6週間であの長さになりました」

ーーマッツは軍人役ということで肉体トレーニングも課したのですか?

「いいえ。マッツのこれまでの演技経験から、特に必要ないと判断しました。ネイビーシールズのような組織で、兵士の心構えを学び、銃の装填などに慣れてもらったくらいですかね。それも一日で終わったと思います」

ーー劇中では、マッツが鏡を叩き割る過激なアクションもありました。

「最初、保険会社から本物の鏡を使ってはいけないというお達しがありました。危険ですからね。でも結局、僕らは本物で撮影することにしちゃったんです」

ーーそれは、さすがに危険だったのでは?

「たしかにマッツは世界的スターなので、大ケガをさせるわけにいきません。でも彼は自分でスタントをやりたがるんです。もちろん鏡を割るなんて簡単にできるわけないし、絶対に手を切ると注意したのですが、マッツは『映画のためにやった方がいい』と譲りませんでした。幸い大きなケガには至らなかったと、監督として断言します」

ーーリアリティ満点だったのは、そういうわけだったのですね。

「鏡に手をぶつけた後、床に横たわるのですが、マッツは人生の中で、あのシーンのマークスのようにパニックになった体験はないそうです。彼はこれまでの演技経験によって、マークスの心理を全身で表現してくれました。さすがです」

ーーなるほど。そこまでの俳優なら、つねに一緒に仕事をしたい気持ちもわかります。

「マッツは作品全体を見渡してくれるんです。多くの俳優は、自分の役で精一杯になりがちですが、彼は現場で助けが必要な人がいれば、すぐに駆けつけます。毎回、『いい映画を完成させよう』と全力になってくれるので大好きです。ダンサーの経験もあるから、動きが正確で、その動きがセリフの意図を伝えるのに有効ですし、あの顔はカメラに愛されますよ。感情表現という点で、マッツは他に類を見ない俳優ですね」

ーー親しいあなただからこそ知っている、マッツの素顔を教えてください。

「まず友人が何かを必要としていたら、すぐに助けるタイプ。そしてマッツは、好奇心旺盛な人です。50歳の誕生日を過ぎてからだいぶ経ちますが、相変わらず好奇心の塊です。また、誰かが間違った行動をとれば、正義心からそれを正す人ですね。そういう時は頭に血が昇ってるマッツが見られるかも……。あとは負けず嫌い。ちょっとした争いでも勝ちたがる。けっこう子供っぽいのかな(笑)」

一時のティム・バートンにとってのジョニー・デップや、マーティン・スコセッシにとってのレオナルド・ディカプリオ、またレオス・カラックスにとってのドニ・ラヴァンなど、監督と主演俳優の名コンビは、映画の歴史を振り返っても数多い。

アナス・トマス・イェンセンとマッツ・ミケルセンの信頼の絆は、その中でも最高レベルであり、まだまだ2人の共作は作られ続けることだろう。

『ライダーズ・オブ・ジャスティス』

1月21日(金) より 新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

配給:クロックワークス

(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS & Zentropa Sweden AB.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事