Yahoo!ニュース

「ハリー・ポッター」の10年間 主要キャスト3人は映画を通じてどう成長したか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
2005年『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』プレスイベントでの3人(写真:ロイター/アフロ)

子役が、同じキャラクターを演じ続け、大人の俳優へと成長する。

「ハリー・ポッター」シリーズは、原作の7編は1年ごとの物語なのだが、映画版のインターバルは1年以上開くケースもあった。つまり同じ俳優が演じ続けることで、俳優の方が役よりも先に大人になってしまったわけだ。当初はそれを回避すべく、シリーズ途中でキャストの変更も視野に入ったこともある。しかし交代したらファンに大いなる違和感を与えてしまうため、結果的に、ダニエル・ラドクリフ、エマ・ワトソン、ルパート・グリントら主要キャストは最後まで完走することになった。

ダニエルを例に挙げれば、1作目『ハリー・ポッターと賢者の石』の撮影時は11歳。そして最終作『ハリー・ポッターと死の秘宝』2部作の撮影は、20〜21歳。およそ10年間。しかも子供時代から大人へと移る、人生で最も多感なときを、ひとつの役を演じながら過ごしたわけである。日本でいえば「北の国から」のパターンが似ている。

その10年間、撮影現場の取材や作品完成時のインタビューで彼らと短い時間だが間近で接したことで、初期は1作ごとに肉体も心も急激に変化するプロセス、そして後期は自分の立ち位置と葛藤する姿が伝わってきた。それは、成長を見るうれしさと、この世界で生きる過酷さの両面を痛感する経験だった。

(以下、作品タイトルは『ハリー・ポッターと』の部分を省略。年齢は取材時のもの)

CASE 1

ダニエル・ラドクリフ(ハリー・ポッター役)

『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で来日を果たしたダニエル・ラドクリフ。2002年、13歳のとき。
『ハリー・ポッターと秘密の部屋』で来日を果たしたダニエル・ラドクリフ。2002年、13歳のとき。写真:ロイター/アフロ

2作目『秘密の部屋』(13歳)では、前作『賢者の石』で一気に世界的注目を浴びたことについて、意外なほど冷静に受け止めていた。

僕の人生は驚くほど変わっていない。相変わらず友達とグダグダ時間を過ごして、ピザを注文したり、そんな毎日だからね

3作目『アズカバンの囚人』(14歳)では、ハリー役や作品よりも、自分の趣味について答える瞬間の方が生き生きとしてきた。

出演料の使い途は、おもにCD。いっぱい買ってるよ。残りはすべて銀行に入ったまま。夢はいつかミュージカルに出演することかな

その後、舞台ミュージカルで活躍することを、すでに本人が予告していた。

4作目『炎のゴブレット』(16歳)の撮影現場では、出演時間、および合間の学業の時間(セットに家庭教師がいて、日々のノルマをこなす子役向けの対応)で、大忙し。「僕が変わってインタビューに答えましょうか」と、付き添いで来ていたダニエルのお父さんが取材陣の対応をしたりもした。ダニエル本人は、好きなスターの名前も楽しそうに挙げるようになった。

「(舞踏会のシーンに絡めて)現実世界で誘いたい相手は、ナタリー・ポートマンかスカーレット・ヨハンソン!

その後、5作目『不死鳥の騎士団』公開(17歳)の直前、ダニエルは舞台「エクウス」で全裸でステージに立ち、同作の会見ではタバコを吸いながら対応するなど、明らかに「大人へのめざめ」を自ら強調する。

ここから最終作に至るまでは、インタビューでも相手につねに好印象を与えつつ、仕事への真剣な取り組み方を吐露するようになっていく。

9割のセリフを暗記し、現場に行くまでにシーンの意味を把握し、それがストーリーのどの部分にあたるかを考えるのは準備段階として当然のこと。時間をかけてキャラクターを検証することはできるけれど、その検証が演技で生かせなければ、まったく意味がない

最終作『死の秘宝』の現場(20歳)で、ダニエルは堂々とそう話していた。

CASE 2

エマ・ワトソン(ハーマイオニー・グレンジャー役)

『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のヨーロッパ・プレミアでのエマ・ワトソン。2004年、14歳のとき。
『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』のヨーロッパ・プレミアでのエマ・ワトソン。2004年、14歳のとき。写真:ロイター/アフロ

優等生のハーマイオニー役に選ばれただけあって、1作目の時(11歳)から会見でも、子供っぽい無邪気さは見せつつ、ソツのない受け答えっぷりが明らかに他の子役と違っていた。

『秘密の部屋』(12歳)では撮影現場での日常スケジュールも語っていた。

撮影中は最低でも3時間、日によっては最大5時間の授業を受けて、学校の勉強に遅れないようにしてくれていた。だから学校に戻っても、すぐ友達に追いつけたの

この時、エマは「シリーズを続けるなら、4作目くらいまでがいいんじゃない?」と素直に告白。まさか10年間も演じ続けるとは予想していなかったはずだ。

『アズカバンの囚人』(14歳)では、カジュアルな私服で登場するシーンも多く、その着こなしや、制服でもネクタイを緩めるなど、自身のファッションについて「意思」を込めるようになり、この後、衣装のアイデアにも参加するようになる。しかしまだ「好きなスターはブラッド・ピット。いつか会いたい」と等身大の少女っぽさを漂わせていた。

大きく変わったのは『不死鳥の騎士団』(17歳)あたりで、「以前はブラピのファンだったけど、今のあこがれはベテランの女優たち」と、ブラピ質問を自らシャットアウト。『謎のプリンス』(19歳)の頃から、口調も変わり、それまで日本語の原稿にする際は「したわ」「なの」という変換がふさわしかったが、「です」「ます」が合うようになった。その分、ガードが固くなり、余計なことは話さない印象に。『謎のプリンス』公開の前あたりに、恋人とのバカンスがパパラッチされたりして、すっかり大人の俳優の対処に変わったのである。

『死の秘宝』の現場(19歳)では、「アートに興味があって、自分でも絵を描いているし、ファッションもますます好きになりました。オーガニックの素材を使った、地球に優しい生産方法のブランドで、私がデザインしたコレクションを発表してもらいます。ブランドの活動でバングラデシュの工場も訪問しました」と、きっぱりとした答え。

その後、国連での活動(UNウィメンの親善大使)へと至るエマのポリシーが、シリーズの終盤で形成されていた。

CASE 3

ルパート・グリント(ロン・ウィーズリー役)

『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』のプレミアでのルパート・グリント。2010年、22歳のとき。
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART1』のプレミアでのルパート・グリント。2010年、22歳のとき。写真:ロイター/アフロ

3人のメインキャストの中で最年長ながら、とぼけた味わいで、どこか頼りなさげなのが、ルパートである。

クモとの対決シーンがあった『秘密の部屋』(14歳)では、いかにも子役っぽい発言の連続。

僕はクモが大嫌い。ゴム製のクモだとわかってても死ぬほど怖かった。でもナメクジを食べるシーンは、いろんな味付けがあって美味しくて、楽しかったよ

言葉の合間にやたらと「クール」という単語を挟み、背伸びをしようとしている感じも、これまた子供っぽい印象を強めていた。

『アズカバンの囚人』(15歳)では、俳優以外の将来の夢を聞かれ、ここでもピュアな答えを披露。

小さい頃からアイスクリーム屋さんになりたかった。それが今でも理想の職業さ

この作品では来日も果たし、当時、夢中になり始めていたゴルフのクラブを東京で購入して帰国した。

このアイスクリーム屋さんの話は、シリーズ最後までわれわれ取材陣の定番ネタとなり、「今もまだアイスクリーム屋さんが夢?」と質問を投げかけられるも、最後の『死の秘宝』(21歳)まで、「うーん、をその夢はやっぱり諦められないかな」と答え続けていた。ダニエルやエマが大人っぽい受け答えになったのと違って、どこか永遠に少年のムードを漂わせていたのである。

しかし、3人の中でいちばん早く「親」になったのがルパートだった。シリーズ後も映画やドラマ、舞台で地道に俳優業を続け、2020年に女児が誕生した。

『死の秘宝』のインタビューでは、こんなことを語っていた。

いつの日か僕に子供ができたら、『ハリー・ポッター』を強制的に観せず、気がつくまでそっとしておくつもり。それより僕は子供を連れて、フロリダのテーマパークへ行ってみたいんだ

当時、オープンしたばかりの、ユニバーサル・オーランド・リゾートの「ハリー・ポッター」テーマパークへの思いを、打ち明けた。

純粋さを失わない彼のことなので、もしかしたら将来、どこかで念願のアイスクリーム屋を開業する可能性もゼロではないのでは?

「炎のゴブレット」が生んだトップスター

こうして10年間を共にした3人だが、現場でのやりとりを見ると、あくまでも「仕事仲間」という印象。めちゃくちゃ仲良しというわけでもない。プロフェッショナルかつ冷静な絆で結ばれていたことが、長いシリーズを継続させた秘訣なのだろう。

そして最後に、3人以外にシリーズ後に大成した俳優として、金曜ロードショー放映の『炎のゴブレット』に合わせ、同作でセドリック役に抜擢されたロバート・パティンソン

2005年『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』の会見時のロバート・パティンソン
2005年『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』の会見時のロバート・パティンソン写真:Shutterstock/アフロ

この後、『トワイライト』シリーズで爆発的な人気を得て、個性的な役にも次々と体当たりでチャレンジ。2022年公開の「バットマン」最新作では、主人公バットマン/ブルース・ウェインを演じる。

『炎のゴブレット』撮影現場(18歳)でのインタビューでは、新人らしく、緊張しまくった表情と、ややどぎまぎした受け答えが思い出される。しかもメインキャストとは違って、現場での食堂での取材だった。

ほとんど無に等しい状態から、イギリスの名優たち、しかも最高レベルの才能と共演している自分が、本当に信じられない

そして完成後の取材では「あこがれの俳優はパトリシア・アークエットとマイケル・ピット。選ぶ役がユニークで、面白い映画に参加しているから」と、目標を語っていたロバート。

その言葉を忠実に守るごとく、彼自身が、ユニークで強烈な役にも積極的に挑むトップスターとなった。多くの新人俳優にとって、いま彼の生き方が目標となっている。

「ハリー・ポッター」シリーズのちょうど真ん中に位置する『炎のゴブレット』は、メインキャスト3人が子供から大人へと移りゆく時間を観る者に感じさせ、未来の輝かしい才能の誕生の瞬間を目にすることができる、ある意味、貴重な作品なのだ。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

金曜ロードショーHPより
金曜ロードショーHPより

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事