昨年(2019年度)は『パラサイト 半地下の家族』が受賞し、その前年(2018年度)は『万引き家族』がノミネートされ、Netflixの『ROMA/ローマ』が受賞。

その賞とは、アカデミー賞国際長編映画賞。かつては外国語映画賞と呼ばれ、2009年2月、『おくりびと』が受賞した時は日本でも大きな話題となった。

今年のアカデミー賞(2020年度)で、その国際長編映画賞を受賞したのが『アナザーラウンド』(デンマーク)。授賞式から約4ヶ月を経て、9/3にようやく日本で劇場公開される。

この『アナザーラウンド』、日本でもファンの多い、マッツ・ミケルセンが主演ということで注目度も高い。『007 カジノ・ロワイヤル』でのボンドの敵、ドラマ「ハンニバル」のレクター博士などで人気を得たマッツは、何年も前から「北欧の至宝」と崇められている特別な存在。現在55歳だが、“イケオジ”ぶりは加速するばかり。次回作に『インディ・ジョーンズ』の新作なども控え、ハリウッド大作でも活躍しつつ、この『アナザーラウンド』のように自国作品にも積極的に出演するバランス感覚も、彼の魅力。素顔もじつに「いい人」でジェントルマンとくれば、ファンが増えないわけがない。コロナが収束に向かっていたら、オリンピックのデンマーク選手とともに今作のプロモーションで来日していたかも……なんて噂もあった。

マッツ・ミケルセンが飲んで、飲んで、飲みまくり、最後は得意のダンス! コロナ生活の鬱憤を晴らしてくれる!?
マッツ・ミケルセンが飲んで、飲んで、飲みまくり、最後は得意のダンス! コロナ生活の鬱憤を晴らしてくれる!?

そんなマッツが『アナザーラウンド』で演じた教師は仲間とともに、ある論文に従って血中アルコール濃度をつねに0.05%に保って生活する、つまり常時、軽い酔っ払い状態でいる人体実験に挑んだところ、なんと授業も家庭生活もハッピーに! 酔っ払い人生、最高! という、ある意味、ぶっとんだ展開。なぜ、このような映画がアカデミー賞を受賞したのか? 何かと社会的テーマが有利となるアカデミー賞で、この作品は軽やかなエンタメ性も伴って「人間の本質」「生きる歓び」を謳いあげたところが評価されたと感じる。

この『アナザーラウンド』と国際長編映画賞を争った作品も、タイミングを合わせるかのように続々と公開される。ノミネート5作のうち『少年の君』(香港)は、すでに7/16から公開が始まっており、全国各地で上映中。これから(9〜10月)公開を迎える劇場がいくつもある。高校生のいじめ問題を扱いつつ、少女と少年の切ないまでに心を締めつける関係を描いた青春ストーリーに、日本でも静かな感動の輪が広がっている。

9/17に公開されるのが『アイダよ、何処へ?』(ボスニア・ヘルツェゴビナ)。こちらはアカデミー賞らしく、骨太な社会派作品。1995年、セルビア人勢力の侵攻により、避難を余儀なくされたボスニアの人々が国連施設に殺到。セルビアの将軍が避難民を移送し、処刑しようとする切迫した事態を、国連保護軍の通訳アイダを中心に描く。アイダの家族が見舞われる壮絶な運命とともに、極限の悲劇を映画で伝えようとする意思は、まさにアカデミー賞候補にふさわしい。

続いて、こちらもアカデミー賞らしいトピックである「ジャーナリズム」をテーマにしたのが、『コレクティブ 国家の嘘』(ルーマニア)で、10/2公開。27名もの死者を出したライブハウスの大火災。その裏に、利益を重視したルーマニアの医療の汚職が見えてくる。真実を追求しようとする新聞社の記者、事件の被害者、厳しい対応に迫られる新たな保健相、内部告発する医師などを追ったこのドキュメンタリーは、思わずコロナに対する日本の現状と重ね合わせたくなる。なかなかタイムリー!

そして最後が、11/12公開の『皮膚を売った男』(チュニジア)。背中にタトゥーを入れられ、肉体が「アート作品」となったシリア難民の主人公。世界各国で“展示”される彼が、遠く離れた恋人に再会しようとする奇抜なこのストーリーは、予想を超えた展開とラストにたどりつく。難民問題という社会派の側面もあるが、それ以上のインパクトと、映画的面白さを放つ作品で、ノミネート5本では異色の存在だ。

このアカデミー賞国際長編映画賞は、ハリウッドが作り出す世界とは別種の、グローバルな視点が色濃く投影されている。今年のノミネートには、香港、デンマーク、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ルーマニア、チュニジアで、ジャンルも多様な作品がセレクトされ、例年以上に個性も、質の高さも際立つ。オリンピックとは別の次元で「世界」が見えてくるので、9月に入ったら、ぜひ気に留めて劇場で確認してほしい。

※各作品の( )で示された国名は、メインとなる出品国。

以下、各作品の予告編を。

『アナザーラウンド』

9月3日(金)全国ロードショー

(c) 2020 Zentropa Entertainments3 ApS, Zentropa Sweden AB, Topkapi Films B.V. & Zentropa Netherlands B.V. 

配給:クロックワークス