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今回もネタバレ絶対禁止。急速老化する「オールド」主演は“永遠の少年”な彼。監督目線でシャマランに感動

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『オールド』プレミアでのガエル・ガルシア・ベルナル(写真:REX/アフロ)

世界中を驚かせ、感動もさせた『シックス・センス』から、すでに22年。M・ナイト・シャマラン監督は、その間、「どんでん返し」を期待されながら、過去に例のないオリジナルな作品に挑んできた。時に賛否両論だったり、時に徹底的に酷評される作品があったのも事実。それでもめげず、突如、『ヴィジット』のようなサプライズ傑作のスリラーを送り出してきたりして、映画ファンの心をときめかせてきた。

そのシャマランの最新作が『オールド』(8/27公開)。タイトルから想像が広がると思うが、急速に肉体が「老化」していく物語。とあるリゾートのビーチを訪れた人々が、なぜかその場所だけ速く進む時間によって、どんどん肉体が変化していく。ビーチから脱出することもできず……と、明かしていいのは、この基本設定のみ。毎回、シャマラン作品はネタバレ厳禁が徹底して通達されており、公開日までこれ以上の展開を伝えることは許されない(すでに海外では公開されているので、調べれば情報は流れているのだが)。

この『オールド』で、ストーリーの中心となる家族の父親を演じたのが、ガエル・ガルシア・ベルナル

父親のガイを中心にした4人家族、その他数名が、謎のビーチで衝撃の運命に見舞われる……
父親のガイを中心にした4人家族、その他数名が、謎のビーチで衝撃の運命に見舞われる……

メキシコ出身で、『天国の口、終りの楽園。』や、チェ・ゲバラの若き日を演じた『モーターサイクル・ダイアリーズ』で、日本でも人気となったガエル。現在、42歳だが、トップスターの地位を得た今も、この人はどこか永遠の少年のような純粋さがキープされている印象。今回のインタビューでも、受け答えはあまりにも素直で飾り気がない。その印象は変わらなかった。

シャマランの映画は初めてで、しかも主演。シャマラン映画のこれまでの印象を聞いてみると……。

「じつはナイト(シャマランのこと)の映画で最初に観たのが『アンブレイカブル』なんだ。みんなすでに『シックス・センス』を観てたのにね(笑)。でも僕は『アンブレイカブル』に完全に魅せられてしまった。スーパーヒーローの人間的側面があんな風に描かれ、しかも優しいムードと独特のリズムもあって、映画から立ち上がってくる“新たな声”を感じ取ってしまった。それ以来、ずっと観続け、『ヴィレッジ』の挑戦的な生々しさ、『レディ・イン・ザ・ウォーター』のファンタジックな味わいに夢中になった。あっ、でも今、ナイトの最高傑作を聞かれたら、もちろん『オールド』って答えるよ!」

茶目っ気たっぷりに笑うガエル。『アンブレイカブル』の捉え方も独特だが、彼は映画監督でもあるので、その目線で作品を評価するのかもしれない。2007年に初監督作『太陽のかけら』を撮ってから、短編やテレビシリーズのエピソードなど数多くの作品を監督。長編2作目の『Chicuarotes』ではメキシコシティで犯罪にも手を染めるティーンエイジャーたちの劇的な日常を描いた。

同じ監督の立場から、今回のシャマランの現場は、ガエルにどう映ったのか。

「このように実態がわからないスリラーを、ナイトがどのように演出するか、興味津々で現場に向かった。そうしたらロケ地のビーチは、目の前が海で、背後は絶壁。どこにも逃げられないような状況で、僕らは細かい設定も聞かされずに、演技を始めることになった。まるで巨大な円形劇場にポツンと立たされた気分だったよ。でもナイト自身は、とても気さく。スリラーを演出するには、このようにやればいいのだと、とても勉強になった」

2019年のトロント国際映画祭で、監督作『Chicuarotes』の上映前に、この上もなくうれしそうな笑顔で挨拶した、ガエル・ガルシア・ベルナル。(撮影/筆者)
2019年のトロント国際映画祭で、監督作『Chicuarotes』の上映前に、この上もなくうれしそうな笑顔で挨拶した、ガエル・ガルシア・ベルナル。(撮影/筆者)

撮影はドミニカ共和国で、2020年の夏から秋にかけて行われた。コロナのパンデミックの最中だったが、ドミニカは比較的感染が抑えられており、キャストやスタッフは最低人数。徹底的に外部と隔離され、ホテルとビーチを行き来するだけの撮影は、逆に安心感もあったという。

「毎回、役を演じる前にその精神状態になろうと準備するけれど、今回はビーチに隔離された状態ということで、コロナでの隔離生活の延長という感じだった。この『オールド』は、コロナ禍で最初に始まった撮影のひとつ。僕らは意気込みに燃えていたし、少ない人数がファミリーの絆も育んだので、いつも以上に親密に意見を交換し合えたと思うな」

この『オールド』は「時間が急速に進む」、つまり「人生が短くなる」物語なので、ガエルも演じながら、人生で大切なものに気づかされたのではないだろうか。

「うん。その感覚はあった。人生で本当に大切なものに感謝し、愛する人に多くを捧げようと強く感じた。ただ映画と違って、僕の未来がどんな結末を迎えるかはわからないよね(笑)」

ガエルが言及した、今回の結末とはーー。

『オールド』には原作のグラフィックノベル(フランス人作家の「SANDCASTLE」)が存在するが、シャマランによると「原作は後半にドラマが曖昧になっていくので、原作の前半の設定や展開から自分で創作した」そうなので、シャマランのこれまでの作品を思い出しながら、あれこれ妄想を巡らせて、劇場で確かめてほしい。

『オールド』

8月27日(金)、全国ロードショー 配給/東宝東和

(C) 2021 Universal Studios. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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