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『スタンド・バイ・ミー』伝説となった4人の少年。間もなく50歳の3人は、今どんな活躍をしているのか

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ぽっちゃりなバーンを演じたジェリー・オコンネルの現在。愛妻レベッカ・ローミンと。(写真:REX/アフロ)

「最初に完成作を観てもらったとき、彼が全身を震わせているのが、隣にいてよくわかった。映画が終わると彼は試写室を出て、戻ってきてこう言った。『私の原作の映画化で、まぎれもなく最高の一作だ』」

「彼」とはスティーヴン・キング。自作の映画化に対して、厳しい批判も辞さない大作家に、緊張しながら完成作を観せたときの、ロブ・ライナー監督の述懐だ。

おそらく映画ファンの中で「観ていない人」を探すのが難しいであろう、1986年(日本公開は1987年)の名作『スタンド・バイ・ミー』。4人の少年のひと夏の、ささやかな、しかし本人たちにとって人生を変えるような冒険を、大人になった主人公が振り返る物語が、ベン・E・キングが歌う「スタンド・バイ・ミー」とともに記憶に深く刻まれることになった。

観た人それぞれ思い入れは違うだろうが、青春映画の金字塔となった最大のポイントは、4人の個性と関係性ではないだろうか。後に作家となり、あの夏を振り返る主人公のゴードンは、優秀な兄を亡くし、寂しさと劣等感で内気な性格。父はアルコール依存症、兄は不良だが、自らは正義感が強く、どこか大人びて4人のリーダー的存在にもなるクリス。元軍人の父から虐待を受けつつ、そんな父を愛している、眼鏡のテディ。そして、ややぽっちゃり体型で、何かと失敗が多いバーン。一見、絵に描いたように個性的メンツながら、それぞれどこか共感を誘うのは、原作の設定に加え、演じたキャストたちが最高にハマったからだろう。4人の俳優が現在、押しも押されもせぬトップスターとして大活躍している“わけではない”点も、逆に永遠の輝きを保ち続ける要因かもしれない。

むしろ、キーファー・サザーランド(4人の行動を妨害する不良グループのリーダー、エース役)や、ジョン・キューザック(ゴードンの亡き兄、デニー役)が、その後、キャリアを順調に積み上げ、現在に至るまでスターとしての知名度をキープしている(まぁ、キーファーは、いろいろトラブルも多いですが)。

原作では、回想するゴードンによって、他の3人がすでにこの世を去っていることが明かされる。しかし映画で、その後の死が語られるのは、クリスのみだ。他の3人にとって、憧れの存在でもあった彼の死が、映画を観ているわれわれの心をざわめかせる。そして4人の俳優の中で、クリスを演じたリヴァー・フェニックス、その早すぎる死という事実が重なり、公開当時以上に、後に観た段階で『スタンド・バイ・ミー』は切なさを増すことになった。

『スタンド・バイ・ミー』の公開から7年後、リヴァー・フェニックスは23歳の若さでこの世を去った。ヘロインとコカインの過剰摂取が死因とされる。『旅立ちの時』『マイ・プライベート・アイダホ』などその後の出演作を観るにつけ、生きていたらどんな演技派スターになっていただろうと、誰もが夢想する。弟のホアキンが『ジョーカー』でオスカーを受賞したが、リヴァーなら、もっと早く多くの栄誉を得ていたのでは、と「たら・れば」の妄想は虚しいばかりだ。

2020年、自身が受けた性的虐待を描いたドキュメンタリー映画のプレミアに出席したコリー・フェルドマン。
2020年、自身が受けた性的虐待を描いたドキュメンタリー映画のプレミアに出席したコリー・フェルドマン。写真:REX/アフロ

では、残りの3人は、どのような成長を遂げたのか? いい意味でも、悪い意味でも、リヴァーに次いで話題が多かったのは、テディ役のコリー・フェルドマン。『スタンド・バイ・ミー』以前に、すでに『グレムリン』や『グーニーズ』で人気を得ており、テディ役の後も『ロストボーイ』など話題作でのメインキャストが続いたが、20代に入ると、はっきり言ってパッとしない作品や役ばかりになってしまう。大麻やヘロインに溺れている事実も発覚し、子役時代にスターになった人の典型的なキャリアを体現してしまった。しかし「元子役スター」という称号も利用し、現在もしぶとく、したたかに俳優業を続けるコリー・フェルドマン。子役時代に受けた性的虐待を赤裸々に語ったことも波紋を広げたし、『グーニーズ』の続編プロジェクトも消えそうで消えていなかったりと、過去の栄光もバックに今後も俳優としての活躍は続いていきそう。

演じた役のイメージどおり、地道に俳優業を続けているのが、主人公ゴードン役のウィル・ウィートン。その活躍が日本で話題になることは、ほぼ皆無に近いが、現在も映画やTVシリーズ、声優など堅実に仕事をこなしている。「ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則」には本人役という設定で出演していたし、2020年からはAI同士のサバイバルを見守るというゲーム版リアリティ番組「Rival Peak」を解説する「Rival Speak」のホストを務めている。その成長ぶりは、『スタンド・バイ・ミー』のファンにはうれしい。容姿はもちろん、声も懐かしい。

そして、残りの一人、バーン役のジェリー・オコンネル。11歳で出演した『スタンド・バイ・ミー』が初の大役だったが、その後、数作に出演し、一度は学業に専念。ニューヨーク大学を卒業して再び俳優になるという、自身の選択で人生を送っている。俳優復帰後は『ザ・エージェント』『スクリーム2』『ミッション・トゥ・マーズ』のメインキャストという、それなりの話題作で活躍しつつ、近年も多くの作品に出演、あるいは声優で参加しているが、残念ながら日本で話題になることは少なくなった。大人になってからダイエットに成功し、『スタンド・バイ・ミー』のイメージから一変したので、見ても気づかないパターンも多い。

そんなオコンネルだが、私生活はハッピーのようで、2007年に、モデル出身の俳優、レベッカ・ローミンと結婚。『X-メン』で全身ブルーというミスティーク役を演じた、180cmの長身で知られる、あの人。結婚の翌年、双子の女の子が生まれ、現在も公の場に夫婦で現れることが多く、円満な家庭というイメージ。筆者は4人のうち、このオコンネルだけ取材で会ったことがあるが、あまりに気さく、「隣のお兄ちゃん」という親しみやすさが印象に残っている。

もちろん家族に恵まれたから幸せというわけではないが、今から35年前、名子役として鮮烈なイメージをスクリーンに刻み、永遠の名作に貢献した人が、今も笑顔でいることは、それだけで映画ファンの胸を熱くする。リヴァー・フェニックス以外の3人は、間もなく50歳を迎える。時を経ることで新たな感慨を届けるという意味で、『スタンド・バイ・ミー』は何度も観直す価値のある作品だ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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