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授賞式目前にバッシングのニュース嵐のゴールデングローブ。そもそもなんで、こんなに影響力がある賞なの?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
昨年の第77回授賞式。ブラピとダニエルの豪華スター2ショット、今年は見られない?(写真:REX/アフロ)

2/28(日本時間、3/1)に開催されるゴールデングローブ賞の授賞式。例年、1月の初めに行われるが、今年は新型コロナウイルスの影響でアカデミー賞授賞式が4月に延期されたことに伴って、このゴールデングローブ賞も2ヶ月近く先送りされた。

アカデミー賞に向けた前哨戦で、最大のイベントとされるこのゴールデングローブだが、今年は授賞式を目前にさまざまなバッシングのニュースが相次いで流れている。

LAタイムズは、ゴールデングローブ賞を決めるHFPAハリウッド外国人映画記者協会)に黒人の会員が1人もいないことを指摘した。この記事に対し、『グローリー/明日への行進』などのエヴァ.デュヴァネイ監督が、この事実が何年間も問題にならなかったことに苦言を呈したりして、大きな騒動となっている。その騒動に輪をかけるように、NYポストが、スパイク・リー監督の『ザ・ファイブ・ブラッズ』など黒人監督の作品が、今年のゴールデングローブで明らかに冷たくあしらわれたことを指摘している。

さらに今年のゴールデングローブでは、TVのコメディ/ミュージカル部門で、Netflixの「エミリー、パリへ行く」が作品賞や主演女優賞にノミネートされたことが波紋を呼んでいる。この作品、評価が特に高いというわけではなかったが、HFPAの会員がパリの撮影現場に招待され、最高級ホテルに宿泊し、過剰な接待を受けていた、というのである。

「エミリー、パリへ行く」Netflixで独占配信中
「エミリー、パリへ行く」Netflixで独占配信中

ノミネートの点でいえば、今年、賞レースの中心のひとつになっている映画『ミナリ』が、アメリカ作品にもかかわらず、ゴールデングローブではドラマ部門の作品賞には入らず、外国語映画賞しかノミネートされなかったことに、疑問の声が多く湧き上がった。『ミナリ』は、韓国からアメリカへ移民した一家の物語で、セリフの多くは韓国語。ゴールデングローブの作品賞の対象は「半分以上が英語」という規定があり、『ミナリ』はその規定に従って区分されたわけだが、これが今の時代にそぐわないという批判にさらされたのである。アカデミー賞も同じ規定だったら、昨年の『パラサイト 半地下の家族』も作品賞には到達しなかったわけだ。

また、これは何年も前から話題になっていたが、HFPAへの入会を拒否されたジャーナリストが、実情を暴露して訴えを起こしていたことも、今回のさまざまなニュースとともに再び取り上げられ、授賞式を前に、さながらバッシングの嵐の状態である。

アカデミー賞にも劣らず、ゴージャスな授賞式

これだけゴールデングローブが注目されるのは、アカデミー賞の前の、映画界最大のイベントだからだが、よくよく考えればHFPAという限定された団体が決める賞であり、その他にも、NY映画批評家協会賞、LA批評家協会賞、全米批評家協会賞など、ジャーナリストの団体が決める映画賞はいくつも存在する。ゴールデングローブも、ある意味、そのひとつ。

1944年に始まり、今年で第78回を迎えるゴールデングローブ。NY映画批評家協会賞のように、1935年から始まった古参もあるが、全米映画批評家協会賞は1966年、LA映画批評家協会賞は1975年がスタートなので、ゴールデングローブの歴史は長い。

しかし他の批評家協会賞と違って、ゴールデングローブの授賞式は、アカデミー賞にも劣らないほどゴージャスである。ゴールデングローブは映画部門の主演賞がドラマ部門とコメディ/ミュージカル部門に分かれているので、ノミネートされる俳優の数も単純に「倍」となる。さらにTV部門でも俳優への賞が多岐にわたっているので、映画、TV、それぞれのセレブが多数候補となって、むしろアカデミー賞よりも豪華な面々となるわけである。

しかも例年、ロサンゼルスのビバリーヒルトン・ホテルで行われる授賞式は、候補者たちやゲストが、テーブルで食事をしながら、というスタイル。中にはホロ酔いになっているスターもいたりして、彼らの楽しそうな姿が中継で映し出されるのは、視聴者にとっても大きな楽しみ。もちろんレッドカーペットもある。

現在、アメリカではゴールデングローブの授賞式をNBCが放映しているが、ここ数年、アカデミー賞やグラミー賞、エミー賞などの授賞式中継の視聴者数が下降の一途をたどるなか、ゴールデングローブの視聴者数は堅調。放送局にとっては優良コンテンツであり、2018年には争奪戦が起こり、NBCが他局を上回る条件を提示。全米の放送権の延長を勝ち取った、なんてことも。その契約料は年間6000万ドル(約66億円)だとか。

こうして授賞式が注目されることで、スターたちもしっかり出席する。そして視聴者も喜ぶ、という好循環が保たれる。アカデミー賞の前哨戦として、揺るぎのない、最高の立ち位置をゴールデングローブは築いてきたのだ。

ただ、映画界にとってメインイベントのアカデミー賞は、アカデミー会員、つまり同じ業界人の投票によって決まる。ゴールデングローブのジャーナリストたちとは、投票者がまったく違うのである。だから当然のごとく、ゴールデングローブとアカデミー賞の結果は、意外に分かれるケースも多い。

ここ数年のアカデミー賞作品賞受賞作を、ゴールデングローブの結果と比較すると……

2019年度(昨年):『パラサイト 半地下の家族』→外国語映画賞

2018年度:『グリーンブック』→作品賞(コメディ/ミュージカル部門)

2017年度:『シェイプ・オブ・ウォーター』→作品賞ノミネート止まり

2016年度:『ムーンライト』→作品賞(ドラマ部門)

2015年度:『スポットライト 世紀のスクープ』→作品賞ノミネート止まり

2014年度:『バードマン (あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡)』→作品賞ノミネート止まり

といった感じで、微妙に重なったり、ズレたりを繰り返している。しかし俳優部門に関しては、ゴールデングローブが、主演賞をドラマとコメディ/ミュージカル部門に与えることから、ここ数年は、かなりの確率で一致するようになった。あまりサプライズは起こらない。

つまり俳優としては、ゴールデングローブを獲得すれば、念願のオスカー像が手に届く位置に来たということになる。

トップスターたちと会員の絆も強い?

例年、アカデミー賞のノミネートの投票締切は、ゴールデングローブ授賞式の少し後に設定されていることが多い。だから、アカデミー会員は、ゴールデングローブの結果を見て「この人が評価されているのか」と無意識に判断してしまう場合も多いと考えられる。投票者が違っても、連動してしまうのである。

こうした傾向から、俳優たちもゴールデングローブを主催し、投票するHFPAの会員には寛大である。新作の映画やドラマは、HFPA独占の会見が行われることも多く、今年問題になった「エミリー、パリへ行く」のように撮影現場に呼ばれるチャンスも豊富。通常、取材するジャーナリストが大スターと記念撮影するなんて難しいが、HFPAの会員は2ショットが恒例だったりもする。スターたちはHFPAに嫌な印象を与えたくない……というのは、ハリウッドの常識となった。

現在、HFPAの会員は87人といわれ、そのうち日本人は3人。長年の取材の実績を積んできた人たちではある。「南カリフォルニアに住んでいる、アメリカ国外の媒体に記事を書く外国人ジャーナリスト」という、特殊な条件を満たす必要があり、同じ国の会員からの推薦も必要なので、そうそう誰もが簡単にHFPA会員になれるものでもない。

今年のゴールデングローブ賞授賞式は、コロナの影響もあって、ロサンゼルスとニューヨークと、会場を2ヶ所に分けて開催。各会場に司会者がいて、プレゼンターの出演はあるようだが、ノミネートの面々はリモートでの参加になるとのこと。例年とはまったく違う風景が展開されそうだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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