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「ワンダーウーマン」新作、年内劇場公開で映画ファンは安堵。米は配信も同時スタートでその行方に注目も

斉藤博昭映画ジャーナリスト
12/18の劇場公開が決定した『ワンダーウーマン 1984』

そのニュースに、映画ファンは胸を撫で下ろした。

お正月映画の目玉になるはずだった「007」新作に加え、年末までに公開される予定だった『ナイル殺人事件』、2021年の年明け早々に公開予定の『フリー・ガイ』と、ディズニー配給の新作2本が延期を決定するなか、このままハリウッド超大作は年内に劇場で観られないのか? 12/25公開予定の『ワンダーウーマン 1984』も、やはり延期が濃厚なのか……と、多くの人が予想していたところ、『ワンダーウーマン 1984』が突如、日本での12/18劇場公開をアナウンスした。

いわゆるアクション超大作としては、9月の『TENET テネット』以来。大スクリーンで体験するべき作品が、こうして予定どおり公開されることは喜ばしい限りで、日本国内でも「公開が決まって本当に良かった」という書き込みがあふれたが、この経緯には、『テネット』のクリストファー・ノーラン監督と同様に、『ワンダーウーマン 1984』のパティ・ジェンキンス監督の意向が強く関わったようだ。

配給のワーナー・ブラザースが、『ワンダーウーマン』の日本を含めた世界各国での劇場公開を発表した11/19に、ジェンキンス監督は、自身のツイッターで次のようなコメントを発表した。

「ようやくこの時が来ました。ある時点で、与えなければいけない愛と喜びを、他のすべてのもの以上に共有することを選ばなければいけません。私たちはこの映画を愛しており、それは私たちのファンを愛する気持ちと同じです。だから私たちの映画が、このクリスマスシーズンにすべての人に、ちょっとした喜びと救いを届けられたらと心から願うのです。

どうか劇場で観てください。劇場で安全に観られる場所にいる人にはそう言いたい(劇場側のすばらしい仕事を確認して!)。もし劇場へ行くことが難しい場所にいるのなら、HBO Maxの配信を利用してほしいです。みなさんに良きクリスマスホリデーが訪れることを願います。私たちが製作を楽しんだように、みなさんにこの映画を楽しんでもらいたいです」

わざわざ「劇場で」に下線を入れたところに、ジェンキンス監督の強い思いが伝わってくる。

このツイートには、『ワンダーウーマン 1984』の公開を待ち望んだ多くのファンの、感謝と感激のメッセージが連なり、感動的ですらあった。

ただしジェンキンス監督が書いているとおり、この『ワンダーウーマン 1984』は劇場公開と同時に、HBO Maxで配信されることも決まった。これはHBO Maxのサービスが提供されるアメリカのみでの措置だ。アメリカでは日本より1週間遅い12/25に劇場公開と配信が同時スタート。劇場公開の世界最速はフランス、イギリス、オランダなどの12/16で、中国などが日本と同じ12/18。その他の多くの国は12/25〜26公開となる。

ディズニーでは『ムーラン』が、アメリカや日本などディズニー+(プラス)を有する国では、劇場公開せず、配信のみの方策を選んだ。そしてディズニー/ピクサーの最新作『ソウルフル・ワールド』も同じ途をたどることになった(12/25配信)。この判断に、「劇場で観たかった」と残念がる声も多く聞く。結果的にディズニープラスは全世界で加入者が増加しているのだが、『ワンダーウーマン 1984』の場合も、HBO Maxはワーナーの自社グループのストリーミング会社ではある。しかしまだアメリカ以外では本格化していないことと、やはりDCのアクションヒーロー映画である『ワンダーウーマン 1984』は劇場で観るのがふさわしいという判断から、アメリカでの「同時」に踏み切ったのだろう。

『ワンダーウーマン』は、2017年の前作が北米で4億1256万ドルの興収を記録。年間3位の大ヒットとなった。今回の続編もコロナ禍でなければ、はっきり言って『ムーラン』や『テネット』以上に、高い記録への期待がかかっていた。そのような作品が、劇場公開と配信の同時スタートでどんな結果を導くのか? アメリカでのコロナの状況にもよるが、今後のハリウッド大作にとって『ワンダーウーマン 1984』は大きな指針になりそうだ。

単純に比較はできないが、日本でも行定勲監督の『劇場』が、劇場と配信の同時公開に踏み切った。その結果は、いい方向での相乗効果もみられ、「共倒れ」となる心配は杞憂に終わったという。劇場の成績も悪くないうえに、アマゾンプライムでの配信は、監督が予想していた視聴数をはるかに上回るものだった

製作スタジオや配給会社の収支を二の次にすれば、映画ファンとしては、このように劇場、配信というチョイスが与えられることが喜ばしいのは事実。大スクリーンと完璧な音響で楽しみたい人。感染のリスクや料金を考慮したい人。あるいは劇場まで足を運べない人……。コロナ禍において、観る側それぞれが判断できる状況はうれしい。

12/4公開の『魔女がいっぱい』。一見、美しい魔女の恐ろしい魔法によって、子供たちがネズミに姿を変えられる。子供向けのようで、大人にしかわからない強烈なネタや皮肉もたっぷり登場する。
12/4公開の『魔女がいっぱい』。一見、美しい魔女の恐ろしい魔法によって、子供たちがネズミに姿を変えられる。子供向けのようで、大人にしかわからない強烈なネタや皮肉もたっぷり登場する。

『ワンダーウーマン 1984』に先立って、ワーナー・ブラザースの『魔女がいっぱい』も、日本では12/4に劇場公開される。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などの巨匠、ロバート・ゼメキス監督で、原作は『チャーリーとチョコレート工場』のロアルド・ダール。主演はオスカー俳優のアン・ハサウェイと豪華な、いわゆる「エンタメ大作」ではあるが、アメリカではHBO Max配信となり、劇場公開はされなかった。他国ではすでに10月から公開が始まっていた『魔女がいっぱい』だが、日本でも無事に公開されることが決まった。メジャー会社のエンタメ大作がかつてないほど少なくなっているこの時期、こうした作品はいつも以上に貴重だと感じさせる。

今後もしばらくは、特にハリウッド大作に関して、劇場公開と配信、そのタイミングと両立が模索されることになるだろうが、とりあえず現在、映画館に自由に足を運ぶことができる日本の映画ファンの立場としては、純粋な気持ちで、話題作を次々と公開してほしいと切に願うのみである。

『ワンダーウーマン 1984』

12月18日(金)全国ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画

(c) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (c) DC Comics

『魔女がいっぱい』

12月4日(金)全国ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画

(c) 2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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