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新作でも得意の超早口が炸裂のJ・アイゼンバーグ インタビュー「広島へ行ったのはアメリカ人として義務」

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:Shutterstock/アフロ)

ソーシャル・ネットワーク』でのfacebookの創始者、マーク・ザッカーバーグ。『グランド・イリュージョン』の犯罪集団のリーダーである、イリュージョニストのJ・ダニエル・アトラス。そして、スーパーマンの宿敵で、高いIQが自慢の科学者、レックス・ルーサー

当たり役のどれもが、説得力ある言葉でまわりを引き寄せ、自分のペースに巻き込んでいく天才タイプ。しかも超早口で話し、相手が茶々を入れる瞬間を与えない。それがジェシー・アイゼンバーグである。

実際にインタビューすると、素顔の彼も役に劣らず、めちゃくちゃ早口! しかも話が理路整然としているので、この人、そうとうに頭の回転が速いのだろう。

新作『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』でジェシーが演じるのは、まさに早口で頭がキレる、自身にぴったりな役どころ。監督のキム・グエンも「ジェシーをイメージして脚本を書いた」と語っているように、たしかにこの主人公ヴィンセントに、彼以外のキャストは考えられない。

株取引の会社で働くヴィンセントは、ある野望的アイデアを思いつく。ニューヨークとカンザス州の間の直線距離、1600kmの地下ケーブルを敷くことで、株取引のアクセスを0.001秒短縮し、利用者に大儲けさせるというのだ。ケーブル予定地の所有者を説得し、国立公園内を掘削するため政府につながる要人と面会するなど、ヴィンセントの強引ともいえる行動が続く。「プロジェクトX」のような無謀な計画を、ジェシーが得意の早口で乗り切っていく姿は、じつに痛快だ。

2011年、株式の「高頻度取引」で新たなビジネスを興そうとしたスプレッド・ネットワークス社が今作のモデル。株取引に詳しくない人にも、わかりやすいエンタメ的作りになっている。
2011年、株式の「高頻度取引」で新たなビジネスを興そうとしたスプレッド・ネットワークス社が今作のモデル。株取引に詳しくない人にも、わかりやすいエンタメ的作りになっている。

熱い情熱をもった男を演じるのが大好きだ

ーー『ソーシャル・ネットワーク』や『グランド・イリュージョン』のように、相手を信じ込ませ、ときには騙すこともいとわない野心的キャラクターですが……。

「僕の大好きなパターンかもしれない。自分の目標を追い求める情熱が、ヴィンセントは半端じゃないよね? こうした過剰にドラマチックな役の方が、演じていてテンションが上がるんだ。舞台だったら『ハムレット』のような役に惹かれる。僕自身は若い頃は自分の仕事に不安も多かったけど、今はだいぶ精神的に落ち着いている。だからヴィンセントのような役も楽しんで演じられたのかもしれない」

ーーそういえば私生活では、お子さんが産まれましたよね?

「そうなんだ。これまで30年以上生きてきて、出会えなかったものに出会った感覚かな。子供ができて生活も一変したよ。最近は多くの人に、親になることを推薦しまくってる(笑)」

ーー楽しんで演じたというヴィンセント役ですが、過酷な運命も待ち受けます。肉体的なチャレンジは?

「ラッキーなことに、体重を減らすとか、そういった苦労はなかった。でも撮影自体は辛かったよ。カナダのケベック州で、零下20度にもなる屋外でのロケがあったからね。ヴィンセントは沼に胸までつかったり、泥だらけになったりするが、あの寒さでは本当にキツかった。役が経験した過酷さを、僕ら俳優をそのまま経験したわけさ」

ヴィンセントに協力する従兄弟のアントン(右)はシステムを構築する天才型。やや天然な性格で、アレクサンダー・スカルスガルドが衝撃のハゲ頭で怪演もみせる。
ヴィンセントに協力する従兄弟のアントン(右)はシステムを構築する天才型。やや天然な性格で、アレクサンダー・スカルスガルドが衝撃のハゲ頭で怪演もみせる。

ーーあなたは身長が170cmちょっとで、この映画でつねに横にいるアレクサンダー・スカルスガルドは194cmという長身です。二人の関係性もこの映画の面白さです。

「アレクサンダーとの共演を表現すると“ファン・ダイナミック”。楽しくて豪快な感じだ。役での関係を表現するために、僕は彼をペットのように扱った(笑)。ここで何を食べさせ、眠らせ、靴の紐を結ばせ……と、すべて指導するわけだからね。じつにユニークな相互作用だったよ」

パントマイムの第一人者、マルセル・マルソーに挑戦

ーー俳優としての今後の目標や野望は?

「それは、つねに変化している気がする。今回のヴィンセント役は、他人を操る精力的な男が、じつは不安と格闘している部分を、いかにエモーショナルに表現するかで苦心した。その次に撮った作品では、パントマイムで知られるマルセル・マルソーを演じ、肉体表現と実在の人物への敬意がチャレンジだった。こうした俳優業と並行して、舞台の脚本も書いたりしてるけど、さすがに映画監督の野望までは、まだ時間がなくて無理そうかな」

ーーその映画監督で最も影響を受けたのは?

「ウディ・アレンだ。若い頃からあこがれていたけど、実際に作品に出演することができて、じつに創造的な作り手だと感じられたんだ。いろいろ言われてるけど、少なくとも僕にとっては尊敬の対象だよ」

ーー2回ほど来日していますが、日本での思い出を聞かせてください。

「僕らアメリカ人にとって、日本の文化はあらゆる面で、なんというか、非日常のインスピレーションを与えらえると思う。だから歴史ある建築の細部なんかに、いちいち感動したね。個人的に楽しかったのは、箱根かな。そして最も重要だったのは、広島だ。僕らアメリカ人が引き起こした破壊を目にやきつけたかったんだ。これは義務だと感じた。その広島で食べたお好み焼きが、日本で最高の味だったけどね」

画像

『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』

9月27日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

配給:ショウゲート

(c) 2018 Earthlings Productions Inc./Belga Productions

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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