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米映画祭でライジングスター賞の小松菜奈、初のNYで喜びを語る。「英語ができたら世界が広がる実感」

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(c) New York Asian Film Festival

6月28日(現地時間)に始まった、第18回ニューヨーク・アジア映画祭で、今年のライジングスター賞に選出されたのは、小松菜奈。出演作『サムライマラソン』が映画祭のオープニングを飾り、彼女もバーナード・ローズ監督とともに映画祭に出席した。

正式名称は「スクリーン・インターナショナル・ライジングスター・アジア賞」。今後、世界的な活躍が期待されるアジアの若手スターに贈られるもので、今年は小松菜奈と、韓国のリュ・ジュンヨルに贈られた。ジュンヨルは、日本でも話題となった『タクシー運転手 約束は海を越えて』で通訳の学生役を熱演した。

毎年、2〜3人が選出されるこの賞で、日本人受賞者は以下のとおり。

第15回(2016年) 綾野剛

第14回(2015年) 染谷将太

第13回(2014年) 二階堂ふみ

それ以前は、シンプルに「ライジングスター賞」と呼ばれ、

第11回(2012年) 長澤まさみ

第10回(2011年) 山田孝之

が受賞している。

アジアと限定していることから、ほぼ毎年のように日本人俳優の名が挙がっているが、なかなか豪華なメンバーである。そこに小松菜奈も加わったのは、すでにマーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』に出演した実績をもち、『サムライマラソン』もキャストはオール日本人ながら、企画・プロデュースが『ラストエンペラー』などのジェレミー・トーマスで、監督のバーナード・ローズはイギリス人と、インターナショナルな作品で、そのあたりが評価されたのは間違いない。

ライジングスター賞のトロフィーを手に。(c) New York Asian Film Festival
ライジングスター賞のトロフィーを手に。(c) New York Asian Film Festival

授賞式、および『サムライマラソン』のNYでの上映が行われる直前、こちらとSkypeでつながった瞬間、「(取材現場は)すごいことになってます!」と興奮気味の小松菜奈に思いを聞いた。

ーー『サムライマラソン』が映画祭のオープニングを飾り、その場に立ち会うというのは、どんな気分ですか?

「ものすごく不思議な気分です。自分が出演した『サムライマラソン』がNYの人たちに観てもらえるのはうれしいですし、何より、初めてNYに呼んでもらって、こういう場に参加できることを光栄に感じています」

ーーだいぶ前ですが、『渇き。』で話を聞いたとき、「海外に行きたい。古着が好きなので」と言ってましたが、初めてのNYでその思いはかなえていますか?

「古着屋さんは、もちろん行きました(笑)。でも、『渇き。』の頃には、まさかこうして女優の仕事で来られると思ってなかったので、なんというか、現実ではないような……興味深い体験になっています」

ーー海外のプレスからインタビューを受けて、日本との違いを感じたりしていますか?

「日本映画をたくさん観ている方たちに取材してもらっているんで、コアな見方もあったりして驚いています。日本との具体的な違いは説明しにくいですが、英語でインタビューを受けるのは新鮮で面白いですね(笑)」

『サムライマラソン』で雪姫役を熱演
『サムライマラソン』で雪姫役を熱演

ーー『サムライマラソン』ではバーナード・ローズ監督、その前は大御所のスコセッシ監督と組んだことで、国際的な活躍への野心がふくらんできたりは?

「こうして海外で取材を受けているときも、通訳さんが入る場合と、英語ができて、自分の言葉で伝える場合で違ってくると実感しているところです。ニュアンスとか微妙に異なるところを、自分の英語で言えたらカッコいい。英語ができたら、世界が広がるというのは改めて感じましたね。もちろん日本での映画の仕事は大好きですし、そこへのリスペクトは忘れずに、今後も海外の監督さん、役者さんと出会って、話をすることすべてが勉強になるので、チャンスがあれば、小さいことでも挑戦していきたいです」

ーースコセッシ監督の『沈黙-サイレンス-』も、この『サムライマラソン』も、他の作品やモデルの仕事とも違う、ほぼノーメイクという印象がありました。あなた自身にとっても新鮮だったのでは?

「役者としての自分と、ふだんの自分。その見え方の違いは面白いと感じました。役者をするときはノーメイクでカメラの前に立ち、泥だらけになったとしても、他のメディアではメイクをしてまったく違う印象になる。その変身を、今の私は楽しんでいるようです」

ーー今回、ライジングスター賞を受賞です。その知らせを受けたときの率直な気持ちは?

「『えっ、私が……?』というのが正直な気持ちです。でも『小松菜奈』という名前で広く知ってもらえるのは本当にありがたく、それがNYということで喜びも格別です。今から授賞式なんですけど、どんな景色が見えるのかいろいろ想像しちゃってます。このドキドキした感じもずっと忘れないで、いい思い出にしたいですね」

公式上映の際のティーチインで、バーナード・ローズ監督と。(c) New York Asian Film Festival
公式上映の際のティーチインで、バーナード・ローズ監督と。(c) New York Asian Film Festival

バーナード・ローズ監督に、撮影時と現在の小松菜奈の変化について聞くと、「髪を短くカットしてて、外見はだいぶ変身したけれど、芯の部分やパーソナリティはほとんど変わってない。菜奈は努力家であり、天才型でもある。女優デビューした10代の映画を観ても、それは感じていた」と、女優・小松菜奈の資質を語る。

ローズ監督が『サムライマラソン』を撮る際に意識した作品のひとつが、黒澤明監督の『隠し砦の三悪人』。「あの映画のヒロイン・雪姫は『スター・ウォーズ』のレイア姫にも影響を与えたことが有名だ。今回、菜奈が演じたのは役名も同じ雪姫で、黒澤作品へのオマージュにもなっている。菜奈にも参考するように勧めた」とのことで、そのあたりがNYにも数多い黒澤映画ファンにアピールするのは間違いなさそう。

日本映画の名作も受け継いだ小松菜奈が、今後、女優としてさらにインターナショナルな活躍をみせるのか。その一歩を踏み出すうえで、今回のニューヨーク・アジア映画祭への出席、そしてライジングスター賞は大きなきっかけになりそうだ。

※画像はすべて、ニューヨーク・アジア映画祭(NYAFF)提供

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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