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ピカチュウの成功も今後を左右するか。日本発作品のハリウッド製作ラッシュ。現時点の状況は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト

大型連休中の5月3日、ここ日本で先行公開されるのが『名探偵ピカチュウ』だ。日本のピカチュウなので、日本で最初に公開されるのは当然といえば当然。とはいえ、これはハリウッド製作の実写映画。アメリカをはじめ他の多くの国々は翌週の5月8日〜10日が初日なので、日本が「先行」というのは特例だ。

ここ数年の「ポケモンGO」ブームもあって、世界的に加速するポケモン人気により、今回の『名探偵ピカチュウ』も北米ボックスオフィスの予想では公開週末に7500万ドルという高い数字も出ており、IMDb(米映画サイト)の2019年のヒット予想で、『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ライオン・キング』に次いで世界興収3位にランクされているほど(4位が年末公開の「スター・ウォーズ」最新作)。

この『名探偵ピカチュウ』、「実写」といっても、ピカチュウなどポケモンのキャラクターは、もちろんCGである。人間とポケモンが共生するライムシティを舞台にした物語で、記憶をなくした探偵のピカチュウが、人間の主人公ティムとともに奮闘する。原案となったのは、ニンテンドー3DS用の同名ゲーム。そのゲームや、これまでのアニメに登場したピカチュウが、外見はそのままに、実写の世界ではモフモフ感を与えられ、表情も豊かに、さらに人間の言葉も話す。あの『デッドプール』のライアン・レイノルズがピカチュウの声を担当したうえ、彼の表情や肉体の動きがキャプチャーされてCGのピカチュウに変換された。つまり、ややオッサンな面もあるキャラクターが完成されたのだ(その理由も、映画を観れば明らかになる)。

そのほかにもポケモンのキャラクターが大挙登場するのだが、そのどれもがオリジナルのデザインに忠実。実写の中に、着ぐるみのような、ぬいぐるみのような、あるいはアニメのようなキャラが入り混じっているのには多少違和感もあるのだが、独自のビジュアルを楽しめるし、何より、日本発のポケモンにハリウッドが敬意を払っているようで、微笑ましく観ることができる。

このポケモン実写化映画の直後、同じ5月には『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が公開される。そして今後、日本カルチャーのハリウッド実写映画がラッシュになりそうな気配だ。

もちろんこれまでも日本発の題材がハリウッドで実写化されるケースは何度もあり、そのたびに賛否両論を含め、話題を集めてきた。

「ゴジラ」は、1999年にローランド・エメリッヒ監督で『GODZILLA』が作られたが、「これはゴジラじゃない」と批判され、その年のゴールデン・ラズベリー賞では最低作品賞などにノミネート。しかし2014年、ギャレス・エドワーズ監督で渡辺謙らも出演した『GODZILLA ゴジラ』は日本の観客にも好意的に迎え入れられた。同作製作のレジェンダリー・ピクチャーズによる『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』は、その流れなので安心感はある。

「鉄腕アトム」は実写ではないが、2009年、ハリウッドで『ATOM』としてフルCGアニメ化されたが、こちらも評判はイマひとつ。

最大の失敗作は、ポケモンと同じように世界的な人気を誇る「ドラゴンボール」の実写化『DRAGONBALL EVOLUTION』(2009)で、原作者の鳥山明も酷評。中国ではそこそこの成績だったが、アメリカや日本では惨敗だった。

「マッハGoGoGo」を基にした『スピード・レーサー』や、戦隊ヒーローの『パワーレンジャー』などは、アメリカでは映画化以前の長い期間、TV放送で親しまれており、「日本が原案」という意識ではない作品の映画化と言える。同じく『トランスフォーマー』も元をたどれば日本発だが、こちらもそのように認識されてはいない。日本のライトノベルを原作にした、トム・クルーズ主演の『オール・ユー・ニード・イズ・キル』も同様だろう。

うまくいった例でいえばゲームの映画化である「バイオハザード」シリーズが挙げられるが、このように、日本発カルチャーという点が広く浸透したうえで、世界および日本国内でハリウッド実写化作品が成功を収めるのが、むしろ少ないケースなのは周知の事実だ。

とくにハードルが高いのがコミックで、「ドラゴンボール」ほどの失敗ではないが、2017年に「攻殻機動隊」からの『ゴースト・イン・ザ・シェル』、2019年の初めには「銃夢」からの『アリータ:バトル・エンジェル』が公開されたが、高い評価や観客からの熱い支持を得られたとはいい難い結果になった。「DEATH NOTE(デスノート)」もNetflixのオリジナル映画として配信されたが、日本で映画化されたときほどの話題は集めていない。ただし、日本のコミックおよびアニメは、ハリウッドからしたら独自のアイデアが詰まった宝庫なので、つねに実写映画化のプロジェクトが進んでいるのも現実で、それが今後数年でラッシュになる可能性がある。

現段階での状況を、すでに公開確定、および実現度の高い順に紹介すると……。

ソニック・ザ・ヘッジホッグズ

青いハリネズミキャラのソニックを主人公にしたセガのゲームが『ソニック・ザ・ムービー』として実写化。すでに製作は進み、ポスターもお目見えしている。出演はジム・キャリー、ジェームズ・マースデンなど。全米公開は2019年11月なので、日本でもその直後くらいの公開ではないか。

モンスターハンター

カプコンの超人気ゲームを、ポール・W・S・アンダーソン監督、ミラ・ジョヴォオヴォッチ主演という「バイオハザード」夫婦コンビで実写化。すでに撮影が始まり、2020年9月と全米公開日も決まっている。日本からは東宝シンデレラ出身の山崎紘菜も参加。

カウボーイビパップ

キアヌ・リーブス主演による実写化の動きがあったが、2018年11月、アニメを手がけるサンライズが、Netflixと米TV制作会社トゥモロー・スタジオの共同製作で、Netflix配信の10話ドラマシリーズになると発表。2019年内に観られるかもしれない。

君の名は。

オリジナルと同じ川村元気がプロデューサーを務め、米パラマウントとJ.J.エイブラムスの制作会社バッド・ロボットが共同でプロジェクト進行中。監督は『(500)日のサマー』『アメイジング・スパイダーマン』のマーク・ウェブと発表された。

ハローキティ

サンリオや「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのニュー・ライン・シネマなどで製作。実写になるのかアニメになるのかも未定だが、ポケモンの路線になる予感も。

AKIRA

ここ10年ほどハリウッド実写化の話題が出ていたが、カリフォルニア・フィルム・コミッションがカリフォルニア州内で撮影されることが決まったと発表。2019年内にクランクインするかもしれない。ワーナー・ブラザースは正式に認めてはいないものの、動き出す可能性が見えてきた。レオナルド・ディカプリオ(かつては自分で演じたいと言っていた時期も)らが製作に名を連ね、「AKIRA」の大ファンだという『マイティ・ソー バトルロイヤル』のタイカ・ワイティティ監督(『アベンジャーズ/エンドゲーム』には俳優として出演)が、念願のメガホンをとれるかどうか……。

ロックマン

カプコンが正式に実写化を発表し、「HEROES」のマシ・オカがプロデューサーに名を連ねているが、公開日は未定。

進撃の巨人

2018年10月に版元の講談社が、ワーナー・ブラザースの製作・配給で、監督が『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』のアンディ・ムスキエティ監督で映画化開始と発表。そこまで情報が出てくるということは、かなり実現の可能性は高そう。

僕のヒーローアカデミア

こちらも2018年11月に、「ゴジラ」と同じレジェンダリーの製作で、日本は東宝が配給すると発表された。同じく実現する気配が濃厚。

機動戦士ガンダム

やはりレジェンダリー・ピクチャーズで実写化企画が進行中。人気ドラマ「LOST」も手がけたブライアン・K・ヴォーンが脚本家に決まったのが今年の3月なので、まだまだ道のりは長そうだ。

ONE PIECE

これまで何度もハリウッドでの製作がささやかれたが、2017年に実写ドラマ化が発表され、2018年には原作の織田栄一郎も実写化についてコメントを発表するも、その後、進展のニュースはない。

NARUTO -ナルト-

2016年にハリウッド実写化が発表され、『グレイテスト・ショーマン』のマイケル・グレイシー監督がメガホンをとるニュースもあるが、彼の次回作にはならないようで、続報を待っている状況。

そのほかにも正式発表されているハリウッド実写プロジェクトは、アニメ「TIGER & BUNNY」、コミックおよびアニメの「聖闘士星矢」などがあるが、「TIGER & BUNNY」は制作会社の破産申告のニュースが出るなど、紆余曲折があるのが現状だ。

しかし、これだけ書き連ねただけでも、じつに多数のプロジェクトが待機していることが再認識できる。これまでの成功例と『名探偵ピカチュウ』を含めた近々の期待作にゲームの映画化が多いのも、すでに物語や世界観がしっかり存在しているコミックやアニメよりも、ゲームの方が自由に作ることができるメリットがあるからのようだ。

はたして『名探偵ピカチュウ』がどれだけ爆発的に興収の数字を伸ばすのか。大人の観客がどれくらい受け入れるのか。ピカチュウの躍進は、今後の日本カルチャー発のハリウッド実写化作品にもさまざまな影響を与えるかもしれない。

『名探偵ピカチュウ』

5月3日(金・祝)、全国東宝系にてロードショー

(C)2019 Legendary and Warner Bros. Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

(C)2019 Pokemon.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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