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たまたま日本で主演2作が同日公開。ミュージカルスターとアメコミヒーローの両輪は、成功へのステップか?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『シャザム!』のプレミアでファンと記念撮影するザッカリー・リーヴァイ(写真:REX/アフロ)

同じ日に劇場公開される2本の映画で、同じ俳優が主演を務めている。そんな稀なケースが、今年の4月にはある。しかも1本は、アメコミのスーパーヒーロー超大作。もう1本は、劇場公開作とはいえ、舞台版のミュージカル作品である。

つまりこの俳優、歌って踊るミュージカルスターでありながら、映画ではアクションの才能を発揮する人なのだ。その名は、ザッカリー・リーヴァイ。まだ日本では知名度が低いが、スーパーヒーローの『シャザム!』は映画批評サイト、ロッテントマトでも93%(4/2現在)という絶賛を受けており、このままアクションスターの階段を順調に駆け上がりそうだ。

ミュージカルとヒーローアクション。一見、別ジャンルのようだが、高度な肉体技という共通項がある。この両ジャンルでトップの地位を得た人といえば、まず思い浮かぶのがヒュー・ジャックマンだろう。

ウルヴァリンもミュージカルスターである

『レ・ミゼラブル』や『グレイテスト・ショーマン』でミュージカルの才能を発揮しつつ、ウルヴァリン役で「X-MEN」というマーベル映画の人気シリーズの中心を担ってきた。ミュージカルとアクションの関係について、かつてヒュー・ジャックマンは、こんなことを話していた。「アクションとダンスは同じだ。パンチを受けるときも肉体の柔軟性が要求される。アクションシーンも、ダンスのように細かい振付が存在する。ウルヴァリンは爪が武器で、(『グレイテスト・ショーマン』の)バーナムは杖を持って踊る。その程度の違いだ」。

ヒュー・ジャックマンもオーストラリア時代から、ミュージカルの経験を積み、それがアクションスターの下地となった部分がある。

ザッカリー・リーヴァイは、現在38歳。

ヒュー・ジャックマンと印象が異なるのは、ザッカリーの、妙な「ほんわか系」キャラではないか。

ザッカリー・リーヴァイ(右)主演の『シー・ラヴズ・ミー』は、ブロードウェイでの公演をそのまま収め、日本の映画館で公開。(c) Joan Marcus
ザッカリー・リーヴァイ(右)主演の『シー・ラヴズ・ミー』は、ブロードウェイでの公演をそのまま収め、日本の映画館で公開。(c) Joan Marcus

4月19日に劇場公開される『シー・ラヴズ・ミー』は、2016年に上演されたステージで、『シャザム!』の撮影よりも前の時期になる。『シー・ラヴズ・ミー』は、トム・ハンクスとメグ・ライアン主演の映画『ユー・ガット・メール』と同じ原作(戯曲)。相手の顔を知らないまま、手紙のやりとりを続け、恋心が高まっていくが、その相手とは……という、ロマンチックコメディの王道的ストーリーである。ブロードウェイ・ミュージカルとしては最適の世界で、トニー賞では8部門にノミネートされた(うちミュージカル装置デザイン賞を受賞)。ザッカリー・リーヴァイもミュージカル部門の主演男優賞にノミネートされている。

相手の女性が近くにいながら、気づきそうで気づかない。いい意味での「鈍感」タイプで、それゆえに愛着がわくキャラクターに、ザッカリー・リーヴァイはうまくハマっている。身長191cmというカラダのデカさも、ステージでよく映える。ヒュー・ジャックマンの身長が188cmだから、さらに舞台映えする肉体の持ち主なのである。

しかし、『シー・ラヴズ・ミー』は歌はもちろん多いのだが、ミュージカルにしてはダンスは少なめ。ザッカリーは美声を披露しつつ、『ボーイズ・フロム・オズ』のヒュー・ジャックマンのような、「歌って踊れるスター」という印象ではない。

DCコミックを原作に、その仕上がりも絶賛を集める『シャザム!』 (c) 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
DCコミックを原作に、その仕上がりも絶賛を集める『シャザム!』 (c) 2019 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

ザッカリー・リーヴァイの大きな肉体が、さらに効果を発揮するのが、同じく4月19日公開の『シャザム!』だ。14歳の少年が突然、「選ばれし者」としてスーパーパワーをゲット。筋肉ムキムキ&全身タイツ姿に変身したパートを、ザッカリーが演じている。心は子供で、外見は怪力ヒーローというギャップは、『シー・ラヴズ・ミー』と同様に、「鈍感」な魅力が似合うザッカリーにとって最高のハマリ役である。こうした内面と外見のギャップで笑わせる演技は、じつはかなり高等テクニックが要求される。しかしザッカリーは軽々とやってのけているし、スーパーパワーを使うアクションシーンでは重量級の肉体技も見せつける。

心は子供の純粋さが、巨体に似合う

『シャザム!』の設定で思い出すのは、本当は子供なのに外見だけ大人に変身してしまった『ビッグ』。実際に『シャザム!』には『ビッグ』へオマージュを捧げるシーンもあるのだが、同作の主演はトム・ハンクスだった。『シー・ラヴズ・ミー』と同じ原作の『ユー・ガット・メール』もトム・ハンクス主演である。単なる偶然かもしれないが、ザッカリー・リーヴァイにはトム・ハンクス的な要素があるのかもしれない。「偶然」は続くということで、『シャザム!』と『シー・ラヴズ・ミー』の公開日が同じになったのも、何かの巡り合わせかもしれない。

ザッカリー・リーヴァイは、すでに2010年のディズニーアニメ『塔の上のラプンツェル』のフリン役で見事なボーカルを披露し、『マイティ・ソー』の2作では浅野忠信と共に戦うファンドラルを演じ、じつはミュージカルとヒーローアクションの世界の経験を積み、それが花開いたかたちになった。

さかのぼれば、1978年に『スーパーマン』に主演したクリストファー・リーヴも子供時代にオペレッタの舞台に立ち、ミュージカルではないがブロードウェイの舞台でキャリアを積んだし、『アイアンマン』のロバート・ダウニー・Jr.も2010年頃、ミュージカル映画の製作・主演を目論んでいたりと、やはりミュージカルスターとアクションスターは、相性の良さがあるのだろう。突然、歌って踊りだし、あるいは突如として超人パワーを炸裂させる。その「過剰さ」をうまく表現し、なおかつ鍛え上げられた肉体芸で魅了する。両ジャンルの相性を実感できるスターの誕生を、ザッカリー・リーヴァイの同日公開の2作で、目にすることができるのだ。

『シー・ラヴズ・ミー』

4月19日(金)より東劇にて公開

5月24日(金)より大阪なんばパークスシネマ、名古屋ミッドランドスクエア シネマにて限定公開

配給:松竹

『シャザム!』

4月19日(金)より全国ロードショー

配給:ワーナー・ブラザース映画

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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