ステージの端っこに立つ主演ヴィゴ、「ボヘミアン」の受賞内容が示す、映画の魅力と喜び:アカデミー賞

監督のファレリーに称えられる、作品賞『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセン(写真:ロイター/アフロ)

2月24日(日本時間25日)に行われた第91回アカデミー賞は、「作品賞に、ややサプライズとして『グリーンブック』」「『ボヘミアン・ラプソディ』がラミ・マレックの主演男優賞など最多4冠」「日本作品は受賞を逃す」というあたりがニュースの中心になっている。

昨年、大きくフィーチャーされた「多様性」は今年も健在で、受賞結果やプレゼンターの面々に時として過剰なほど人種への配慮が目についた。プレゼンターには多くの人種の俳優はもちろん、ミュージシャンも多用するなど、さらに多様性を求めていて、ちょっとやり過ぎな印象もあったが……。ホストなしの形態は、最初こそ物足りない感じ(発表とスピーチの繰り返しの印象)もしたが、後半に進むにつれ、余計な演出がないせいか授賞式本来の正統派としての見応えを伴って、アカデミーの目論見どおり放送時間がオーバーする危険も避けられた。

その一方で、授賞式での結果や、ステージに、改めて、そして密かに「映画の魅力」を考えさせられる瞬間があった。

スピーチではラミ・マレックの「エジプトの移民」のトピックや、昨日、最大のサプライズだった主演女優賞、オリヴィア・コールマンが、とっさに「超ウケる」と混乱気味に始めた、授賞式らしいハプニング的笑いと感動も強く印象に残るが、ふとした光景に思わず心が揺さぶられた。

作品賞を受賞して『グリーンブック』の面々がステージで顔を揃えたとき、いちばん左の端に立っていたヴィゴ・モーテンセンは、本当に控えめに、うれしそうな表情を浮かべていたのだ。スピーチでそのヴィゴやキャストに感謝が伝えられても、ちょっと恥ずかしそうに、はにかんだような笑顔のヴィゴ。本来なら主演のスターが壇上の中心で喜びを爆発しても良さそうなものだが、この端っこに妙に謙虚でいる姿に、「映画はみんなで作り上げたもの。自分はその中の一人に過ぎない」という彼の思いが読み取れるようでもあった。

『グリーンブック』はマハーシャラ・アリが助演男優賞を受賞したが、はっきり言ってヴィゴの演技は賞に値するほどすばらしい。むしろマハーシャラ以上に、感情の変化を丁寧に、繊細に表現していたと思う。今年はラミ・マレック、クリスチャン・ベールという強力なライバルがいたが、別の年だったら主演男優賞に輝いていたかもしれない。ある意味で、彼の演技なくしては成立しなかった『グリーンブック』だが、そんな主演俳優も映画を支える「一人」であり、そこに、目立った者だけの功績ではないという、映画の本質を再認識させられる。

その目立たない者への栄誉という点で、『ボヘミアン・ラプソディ』の4部門受賞も感慨深い。ラミ・マレックの主演男優賞はわかりやすいが、その他の3部門は編集賞、音響編集賞、録音賞という、どちらかといえば「地味」な部門である。しかしこれらの賞は、意外にもメインの作品賞候補作が受賞することも多い。とくに今年の『ボヘミアン・ラプソディ』は、演技や演出というわかりやすい部分ではなく、ライヴ・エイドのシーンとシーンのつなぎ(編集)や、フレディ・マーキュリーの声をいかに違和感なく再現するかという「音」へのこだわり、そしてその音楽で観客の本能を刺激する数々の裏技によって、「愛される作品」になっていった。何度でも観たいと思わせる効果には、目立たない部分の才能が大きく貢献していたのだと、今回の受賞結果で改めて実感する。まさに『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセンと同様に、「さまざまな仕事」が重なって、初めて大きな奇跡を起こすのが、映画なのである。

是枝裕和監督が候補者昼食会(オスカー・ノミニーズ・ランチョン)の感想として「アカデミー賞は、スターや監督だけでなく裏方のスタッフにも敬意を与える姿勢が素晴らしい」と語っていたのを思い出す。

そして今年は作品賞ノミネートの8本が、すべて何らかの賞を受賞するという、まんべんなく行き渡る結果になった。これはノミネート作品数が5本以上となった第82回以来、2度目のことである。「一人勝ち」の年もそれはそれで圧巻だが、多くの魅力にスポットライトが当たった今年のような授賞式も、それぞれの才能が正当に評価されたようで、幸せな気分になる。見せかけの多様性ではなく、こうして多様に作品を評価する姿勢は、じつに清々しい。