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ボランティアをもっと主役に! 東京国際映画祭、東京2020大会へも向けたヒント

斉藤博昭映画ジャーナリスト
トロント国際映画祭で Photo by Connie Tsang (c)TIFF

10月25日から開催される第31回東京国際映画祭では今回も多くのボランティアスタッフがさまざまな場所で活躍する。2020年に控える東京オリンピック、パラリンピックも現在、ボランティアの募集期間にあり、必要とされるのは8万人とのことで、その存在は大会運営に絶対不可欠となる。ただ、東京2020大会では事前登録者は目標を超えたが、実際の募集人員にはまだ到達しておらず、今後もボランティアの魅力と必要性が周知されることになるだろう。

そのボランティアに関して、ひじょうに強い印象を受けたのが、9月に開催されたトロント国際映画祭である。とにかく会場周辺のあちこちで目につく、オレンジ色のTシャツ。それがトロントのボランティアのユニフォームだ。老若男女、さまざまな人が笑顔でゲストを迎え、「目につく」「親しみやすさ」の両面で、映画祭の「主役」と言ってもいい存在感を放っているのである。

ボランティアを讃える映像に満場の拍手

映画祭のすべての公式上映では、本編の前に映画祭やスポンサーの映像が流れるなか、30秒ほどのボランティアたちのクリップも流れる。これもトロントでは恒例。

今年のこのVOLUNTEERS ROCKの映像はインパクトも大きいので、ぜひご覧ください。

「伝説のチャンピオン」とともに登場するオレンジTシャツのボランティアたち。その瞬間、劇場内は毎回、大きな拍手に包まれる! 観客たちのボランティアへの感謝の思いがそうさせるのであり、直後の上映へのテンションを思い切り上げる効果も果たしていた。

まさにボランティアが映画祭の主役だと実感させる光景でもある。

会場となる劇場の前には多くのオレンジTシャツが集まり、つねにゲストに目配り。本人たちも楽しんでる雰囲気が、これまた好印象。(撮影/筆者)
会場となる劇場の前には多くのオレンジTシャツが集まり、つねにゲストに目配り。本人たちも楽しんでる雰囲気が、これまた好印象。(撮影/筆者)

一方で東京国際映画祭のボランティアのユニフォームは基本的に黒である。会場周辺で多くのボランティアが活躍しているが、パッと見では目立つ存在ではない。たしかにボランティアが目立つ必要はないのだが、

人目につく

何か困ったときに即座に質問しやすい

そこからコミュニケーションが生まれる

という効果も期待できる。

東京など日本の映画祭ではあまり見られない光景だが、トロントをはじめ各国の映画祭では開場まで長い列が作られているのをよく目にする。指定席のチケットを持っていても、開場がギリギリだったりするし、Rush Line(ラッシュライン)というシステムで、当日券完売の回も直前に座席が空いていたら駆け込み(ラッシュ)で入場できる、いわゆるキャンセル待ちの列が作られるのが通例だからだ。列に並んでいる時間も、ボランティアとのコミュニケーションを楽しめたりもするのだが、その際に目立つ外見で、しかも楽しそうに働いていると気軽に話しやすかったりもする。

愛犬を連れてボランティアもできる!

トロント国際映画祭では、こんな光景も見た。

なんと愛犬を連れて参加しているボランティアがいたのだ。メイン会場となっているシネコンへと向かうエスカレーターの上で会場を案内する役割だが、犬を連れていることでゲストとの会話も自然とはずむ。列を誘導するなどの仕事は不可能だが、この愛犬連れのボランティアは、入場の際のチケット確認などもこなしていた。

ボランティアの足元にちょこんと座るワンコ(撮影/筆者)
ボランティアの足元にちょこんと座るワンコ(撮影/筆者)

愛犬連れでOKというのは、さすがに東京では不可能だろう。しかしこの柔軟な対応は、ボランティアの裾野を広げるためにも、ひとつのヒントになる気もする。映画祭でも、オリンピックなどのスポーツ大会でも、ボランティアは「縁の下の力持ち」という役割かもしれないが、トロントのように彼らが主役に近づくことで、人と人のつながりを作り出すチャンスが増え、ゲスト、ボランティア双方にイベント自体の喜びを倍増させるのは間違いないからだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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