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B・ウィリスもニコケイも! 復讐の鬼と化せば、最盛期を過ぎたアクションスターは鮮やかに復活する

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のニコラス・ケイジ

アクションスターの寿命は長いのか、短いのか。

年齢に抗うように過激な挑戦を自らに強いるトム・クルーズや、「アクション引退」を宣言しつつ、まだまだ動く肉体を抑えきれないジャッキー・チェンらがいるが、どちらかと言えば彼らは稀有な例だろう。

アクション映画を代表作にした多くのスターは、年齢が50代くらいになると肉体の衰えによって方向転換を余儀なくされる。年齢を重ねても必死にアクションをこなす姿は、前述のトムやジャッキーを除くと「イタい」と映ってしまうことも多い。それでも過去の栄光にすがって、アクション映画に出演したがるのも、スターの本能のようだ。

そんな「元アクションスター」が、無理のないスタイルでアクションに挑むには? その回答になりそうな作品が相次いで公開される。共通のキーワードは「復讐の鬼」だ。

静かな狂気が、じつはよく似合うウィリス

ブルース・ウィリス

『ダイ・ハード』シリーズのジョン・マクレーン刑事が当たり役である彼は、近年も『RED/レッド』や『エクスペンダブルズ』、『シン・シティ』など果敢にアクションをこなしている。しかしすでに60代。これらの作品でも観ていて無理のある動きも多く、映像・編集による巧みなごまかしに頼っている感が濃厚だった。

『デス・ウィッシュ』のブルース・ウィリスは、銃のテクだけでなく外科医ならではの必殺法も披露する
『デス・ウィッシュ』のブルース・ウィリスは、銃のテクだけでなく外科医ならではの必殺法も披露する

しかし、10/19公開の新作『デス・ウィッシュ』は一味違う。ブルースが演じる主人公のポールは救急担当の天才外科医。彼の自宅に強盗が侵入し、愛する妻が命をおとし、大学進学を控えた娘も襲われて昏睡状態になってしまう。ポールの決断は、自ら犯人に復讐を果たすことだった。メスを銃に持ち変えて! もともと肉体派ではない外科医なので、ポールのアクションの動きがぎこちなくても物語に説得力を与える。この危なっかしさが、年齢を重ねたウィリスにもマッチすることになった。銃を手にしてもどこか頼りなさげ。徐々に「処刑人」という自覚を高めてしまうポールの姿に、ウィリスのアクションスターのキャリアも重なり、このあたりも心憎い。

最盛期を過ぎたアクションスターにとって、一般市民が復讐の鬼と化すストーリーこそ演技に説得力を与える。そんな法則を証明した感がある。

偏愛される「ニコケイ映画」と復讐の化学反応

そしてもう一人、復讐の心に突き動かされる主人公を熱演するのが、ニコラス・ケイジ。11/10公開『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』である。

ニコラス・ケイジを「アクションスター」と形容するのは強引かもしれないが、オスカーを受賞した『リービング・ラスベガス』よりも『コン・エアー』、『フェイス/オフ』、『ナショナル・トレジャー』といったアクション大作での印象を強くもっている人も多いはず。しかしこのニコケイ、近年は別の魅力で一部の映画ファンに愛されているのも事実。彼の主演作は、いい意味での「珍品」の香りが漂い、ニコケイ自身もどこか「勘違い」の熱演をして、それがまた愛おしい……という不思議なループを形成しているのだ。いたぶられる主人公を演じた2006年の『ウィッカーマン』あたりからその傾向が顕著になり、『ゴーストライダー』、『ノウイング』でそのキワモノ的魅力が加速。以降はニコケイの振り切れた演技に、作品の「微妙」な仕上がりが相まって「ニコケイ映画」なるジャンルも(一部で)構築された。

彼の魅力は、真面目に演じれば演じるほど笑える天然の産物で、逆に意識的に笑いをとろうとした昨年の『オレの獲物はビンラディン』あたりは残念な仕上がりだった。

『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のニコラス・ケイジ。このTシャツも彼がブチキレる重要アイテム。
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のニコラス・ケイジ。このTシャツも彼がブチキレる重要アイテム。

そのニコケイが復習の鬼と化し、無意識に自身の魅力を発揮したのが新作の『マンディ〜』なのである。愛する女が目の前で惨殺され、オリジナルの武器を手に復習を誓う男の役で、とくに後半は主人公がブチキレの限界を超える瞬間が何度も訪れ、「ニコケイ映画」の真骨頂が発揮されている。かなりいっちゃってる作品であり、カルト的香りが濃厚にもかかわらず、映画批評サイトのロッテントマトでも94%フレッシュ(10/16現在)という異例の高評価を受けているのだ。

復讐の念に突き動かされる役といえば、キアヌ・リーブスに新たな方向性を示した『ジョン・ウィック』も記憶に新しいが、この2作でのブルース・ウィリス、ニコラス・ケイジは、ともに自らの立ち位置を意識した新たなアクションの境地を切り開いたと感じる。こうした演技こそ、アカデミー賞など賞レースも、もっと評価してほしいと思うのだが……まぁそんな可能性は少ないということで、元アクションスターたちの振り切った暴れっぷりを清々しく受け止めてほしい。

『デス・ウィッシュ』

10月19日(金)全国公開 配給:ショウゲート

(c) 2018 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』

11月10日(土)新宿シネマカリテほかにて公開 配給:ファインフィルムズ

(c) 2017 Mandy Films, LTD. All Rights Reserved

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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