「犬映画」として日本でどこまで愛されるか。日本が舞台の『犬ヶ島』
5/25から日本で公開される『犬ヶ島』は、『グランド・ブダペスト・ホテル』などのウェス・アンダーソン監督によるストップモーションアニメだが、舞台となるのは近未来の日本。「ドッグ病」の蔓延を防ぐため、犬たちがゴミの島に隔離されるという、ディストピアSFの香りも漂うストーリーだ。タイトルからして、桃太郎の「鬼ヶ島」を意識しているのは明らか。一応、英語のタイトル(Isle of Dogs)もあるのだが、監督は最初から「Inugashima」と呼んでおり、日本への敬意にあふれた斬新な仕上がりになっている。とにかく細部までこだわった美術は、極上アートの域!
これがもし実写だったら、犬と人間のコミュニケーションを描くことに四苦八苦したに違いない。かと言って、アニメだから両者の言葉が通じ合うという設定では、あまりに安易。この『犬ヶ島』(英語版)が特徴的なのは「犬」のセリフが英語で、「人間(日本人)」のセリフは基本、日本語という点だ。犬と人間が「言葉が通じない」という設定にしつつ、われわれ観客には、それぞれのコミュニケーションが伝わるという演出。吹替版では、全てが日本語になるので、この点、受け止められ方が微妙に異なるのだが、いずれにしても「犬の世界」が独立しており、まさに「犬の映画」になっている。
ストップモーションアニメだが、犬のキャラクターは、かなり“普通に”リアル。モフモフ感もたっぷりだし、過剰な表情の変化もない。アニメキャラ好きというより、犬好きにアピールする映像だ。「犬映画」としての魅力は万全なのである。
犬が主人公、あるいは重要な役割を果たす映画はこれまでも数多く製作され、古くは「ラッシー」「ベンジー」のような「名犬映画」が人気を集めた。
昨年、日本で公開された『僕のワンダフル・ライフ』もビッグスターが出演していない作品にもかかわらず、初登場2位を記録。最終興収も9.15億円と健闘した。犬の転生を描くというちょっと複雑な展開ながら、宣伝ビジュアルのコーギー犬の写真があまりに愛らしく、「犬パワー」が効果的だったと言っても良さそう。
近年の洋画の「犬映画」では、『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』も作品の評判は良かったが、興収は8.14億円止まり。2009年の『HACHI 約束の犬』は19.7億円を上げたが、ハチ公という日本人に親しみのあるキャラクターのわりに、大ヒットにはつながらなかった。ちなみに『僕のワンダフル・ライフ』、『HACHI 約束の犬』はともにラッセ・ハルストレム監督で、彼は『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』という名作も撮った犬映画の名手である。
日本映画の歴史を遡ると、犬たちの映画は大きなポテンシャルを備えていた。
1983年の『南極物語』。観客動員は1200万人。当時、日本映画の歴代記録を塗り替えた。1997年の『もののけ姫』に破られるまで王座に君臨。実写の日本映画としても、2003年の『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』に初めてこの記録は破られた。『南極物語』を「犬映画」と括るのはやや強引かもしれないが、この映画は、主演の高倉健以上に、南極大陸に取り残された2頭の樺太犬「タロ」「ジロ」の方が多くの観客の記憶に残ることになった。
近年は日本映画で「犬」を題材にした作品はコンスタントに作られているが、かなり明暗はくっきりと分かれている。
盲導犬を主人公にした2004年の『クイール』が22.2億円、新潟県中越地震を背景にした2007年の『マリと子犬の物語』が31.8億円と、「犬」の要素で「感動」がうまく機能した作品は成功した。2008年の『犬と私の10の約束』は14.8億円でまあまあだったが、犬と人間の関係をオムニバスで描いた『いぬのえいが』(2005)、警察犬をめざす『きな子〜見習い警察犬の物語〜』(2010)、犬の殺処分にも迫った『ひまわりと子犬の7日間』(2013)あたりは、目標をかなり下回る結果となった。
「犬映画」が続けて作られて、観客に「またか」と思わせるタイミングだったり、犬という要素で安易に感動させる作りになっていたりすると、やはり観客には見抜かれてしまう。
今回の『犬ヶ島』は、アニメーションであり、公開規模も全国で148スクリーンと、大作並みのメガヒットを狙うものではない。しかし犬好きにアピールする部分はめちゃくちゃ多い。映画ファン向けの作品のようで、一般の観客の心をどこまでつかむのか、その動向はじつに興味深い。
『犬ヶ島』
(c) 2018 Twentieth Century Fox
5月25日(金)全国ロードショー
配給/20世紀フォックス映画