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この春、ハリウッド大作の多くに「日本」が登場。日本の観客へのアピールには温度差も…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『トゥームレイダー ファースト・ミッション』今度の主演はアリシア・ヴィキャンデル(写真:ロイター/アフロ)

日本でも間もなく(3月21日)公開が始まる『トゥームレイダー ファースト・ミッション』は、あのアンジェリーナ・ジョリーの当たり役を、オスカー女優のアリシア・ヴィキャンデルで復活させた話題作だが、物語の重要なパートとして「日本」が出てくる。歴史上の有名な人物の伝説が絡むのである。この『トゥームレイダー』、もともとゲームが原作で、そのゲームのファンなら、この人物が誰なのかはすぐに想像がつくだろう。しかし一般の映画ファンにとっては、ちょっと驚きの引用になるはずである。

もちろんその人物の正式な歴史をたどるわけではなく、あくまでも伝説に基づいた「イメージ」という引用。『トゥームレイダー ファースト・ミッション』では、実際に日本が舞台となるシーンもあり(もちろんロケ地は別)、要するに「日本ネタ」がいっぱい出てくる。しかし、公開前に日本の観客に向け、その日本ネタがアピールされるわけではない。字幕でも、その日本の人物が微妙に伏せられていたりするのだ。「あの歴史上の有名な人物が絡んでくるので、日本の皆さん、ぜひ期待してください!」と宣伝の“売り”にはならないのである。

ハリウッド大作が日本を舞台にした場合、あるいは日本のネタを多く引用する場合、そのトピックを売りにすることで、どこまで日本でのヒットに効果があるのか。これは、とくにここ数年、微妙な問題になっている。

観客を引きつけるか/避けられるかの微妙な感覚

この春は、他にも「日本」が登場するハリウッド大作が続き、それぞれ日本を売りにする度合いにも温度差がある。

『レディ・プレイヤー1』ではVRの世界に日本の人気キャラが登場。(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTSRESERVED
『レディ・プレイヤー1』ではVRの世界に日本の人気キャラが登場。(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTSRESERVED

4/20公開、スティーヴン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、仮想空間の「オアシス」での一大アドベンチャーを描くのだが、仮想の世界ということで、さまざまな有名キャラ&アイテムが登場する。とくに目立つのが日本生まれのネタで、ガンダム、キティちゃん、「AKIRA」の金田バイク、「ストリート・ファイター」の春麗……などなど。現段階でまだ紹介できないものも含め、多数の日本ネタが発見できる。日本という切り口では、日本人キャストとして森崎ウィンも参加している。金田バイクやガンダムなどは早くから話題になっており、日本における宣伝展開でもトピックとなっていた。とはいえ、これらを大きな見どころにして観客を呼べるかどうかは未知数で、しかも物語のテーマと深く絡むわけではない。いま何かと話題の「バーチャル・リアリティ」を体感することができ、観たことのない映像世界が広がるというのが『レディ・プレイヤー1』の“売り”になっている。あくまでも作品に対して真っ当だ。

一方で、日本が舞台というのを大きくフィーチャーしているのが、4/13公開の『パシフィック・リム:アップライジング』である。クライマックスが「東京決戦」という点を強く押し出しているのだ。たしかに前作『パシフィック・リム』は、ギレルモ・デル・トロ監督の日本の怪獣やロボット作品への愛から生まれたものであり、キャストにも菊池凛子や芦田愛菜を配し、日本が舞台のシーンもあった。当然、「日本ネタ」が売りになり、今回の続編もその方向性を受け継いだのだろう。引き続き「KAIJU」という単語も存在し、キャストでは菊池凛子が続投。新田真剣佑もイェーガーを操縦するパイロットの一人として出演することから、日本ネタはアピールとして効果的と考えられる。

『パシフィック・リム:アップライジング』では東京が決戦の舞台に? (c) Legendary Pictures/Universal Pictures.
『パシフィック・リム:アップライジング』では東京が決戦の舞台に? (c) Legendary Pictures/Universal Pictures.

では、日本が舞台、あるいは日本ネタを強調したハリウッド大作が、実際に日本でどこまでヒットしているか。近年の成績を振り返ってみると……。

2017年

『ゴースト・イン・ザ・シェル』  9.9億円

『沈黙-サイレンス-』  8.4億円

2014年

『GODZILLA ゴジラ』  32億円

2013年

『パシフィック・リム』  15.5億円

『ウルヴァリン:SAMURAI』  8.1億円

『47RONIN』  4.6億円

2011年

『カーズ2』  30.1億円

2010年

『バイオハザード4 アフターライフ』  47億円

2006年

『硫黄島からの手紙』  51億円

『バベル』  20億円

『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』  10億円

2005年

『SAYURI』  15.5億円

2003年

『ラスト サムライ』  137億円

『キル・ビル Vol.1』  25億円

『ロスト・イン・トランスレーション』  5億円

条件はそれぞれなので単純に比較はできないが、やはり近年は「日本が舞台」がそれほど大きなアピールにつながらないことがわかる。

日本が出てくる→大ヒットの流れは難しい?

『ラスト サムライ』や『硫黄島からの手紙』は、トム・クルーズ、二宮和也といった人気スターの力もヒットに貢献した要因だ。一方で『SAYURI』はスティーヴン・スピルバーグ監督で、キャストも日本のトップスターが名を連ねたわりに、この数字であった。『バイオハザード』はゲームのファンも多く、シリーズを通して成績が良いので、日本が出てくることはあまり関係がなさそう。『ゴジラ』のハリウッド版もキャラクター自体の魅力に尽きる。

『パシフィック・リム』の数字をどう見るかが問題で、マニア向けの内容にしては成功とも言えるし、日本の観客にもっとたくさん観られるべきだったという考え方もある。日本でも本格的にロケを行った『ウルヴァリン:SAMURAI』は、明らかに残念な結果に終わった。

一時、ハリウッドは中国市場を考えて、アクション大作でやや無理に中国を舞台にしたり、中国人スターをキャストしたりと躍起になった時期もあった。さすがに最近は落ち着いてきたものの、自国のネタが、その国の観客にアピールするというシンプルな前提に従ったかたちだ。日本では、これはなかなか難しい現状なので、『トゥームレイダー ファースト・ミッション』のように、逆に公開前はベールを覆うケースも出てくる。

とはいえ、2018年は、日本ネタの話題作がまだまだ続く。ウェス・アンダーソン監督がストップモーションアニメで日本を舞台に描く『犬ケ島』や、人気コミック「銃夢」を実写化した『アリタ:バトル・エンジェル』などだ。これらの作品を日本の観客に向け、どのように「日本」をアピールして売るのか、宣伝戦略を注目していきたい。

※『バイオハザード4』の「4」は正式にはアラビア数字

『トゥームレイダー ファースト・ミッション』

3月21日(祝・水) 全国ロードショー 配給/ワーナー・ブラザース映画

『パシフィック・リム:アップライジング』

4月13日(金)全国ロードショー 配給/東宝東和

『レディ・プレイヤー1』

4月20日(金) 全国ロードショー 配給/ワーナー・ブラザース映画

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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