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乃木坂、関ジャニで騒がれる、洋画のイメージソング&日本語主題歌。過去にこんな例も

斉藤博昭映画ジャーナリスト

ここ数日、『ワンダーウーマン』のイメージソング、乃木坂46の「女はいつだって一人じゃ眠れない」の賛否が話題になっている。同じくこの夏の話題作『スパイダーマン:ホームカミング』の日本語版主題歌、関ジャニ∞の「Never Say Never」に対する反応もにぎやか。基本、イメージソングとは映画の宣伝で使われるのみで、主題歌となると本編のおもにエンドロールで流れるもの、という違いはある。しかし何かと「タイアップだ」「作品と合わない」と炎上しやすいネタではある。

イメージソング、日本語版主題歌ともに、製作者の意図とかけ離れた場所で作られる、あるいは採用されるので、こうした問題が起こるのだが、たとえばスタジオジブリのアニメでもアメリカで公開されたバージョンでは主題歌が変更されているケースもあり、本国公開のための「苦肉の策」でもある。とくに主題歌ともなれば、オリジナルの製作者の許可が必要になるわけで、マーケティングのために監督も了承するのが一般的。ただし、エンドロールで興ざめしてしまう観客も確実にいるので紙一重である。

乃木坂や関ジャニとは別に、最近の作品の日本語版主題歌で好意的に受け止められているものもある。たとえば『カーズ/クロスロード』で奥田民生が書き下ろした「エンジン」。あるいは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』での、MAN WITH A MISSIONとZebraheadという日米ロックバンド共作の「Out of Control」。両曲とも作品の監督が太鼓判を押しただけあって、違和感なく溶け込んでいる。

この日本語版主題歌&イメージソング問題、過去にさかのぼるとこんな例もあった。

『ビッグ・ウェンズデー』の衝撃

1978年のジョン・ミリアス監督、サーフィン映画の金字塔で、ベトナム戦争を背景にした友情ドラマの傑作『ビッグ・ウェンズデー』。翌79年の日本公開時、「こころに海を」という日本語の曲がイメージソングとしてCMなどで使われていた。歌っていたのは、川崎龍介(当時も無名の歌手)。この「こころに海を」が日本での劇場公開時、エンドロールで流されたのだ。ネットのない時代、それを知らずに劇場に来た観客も多く、感動のラストの後の明らかな違和感に客席がザワついた(筆者は公開直前の一般試写会で観ました)。当時は洋画が字幕のみだったので、英語のセリフの後に日本語の主題歌というのは、さすがに無理があった。日本語版主題歌の「黒歴史」を作った事件である。

この時代、イメージソングも多く話題となった。その代表例が『ナイル殺人事件』(1978)の「ミステリー・ナイル」や、『リトル・ロマンス』(1979)の「サンセット・キッス」などで、両方とも英語の歌詞であったことから、多くの観客は本編の主題歌だと錯覚していた。これらはシングル盤も発売され(「サンセット・キッス」は倉田まり子の日本語バージョンもあった)、それなりにヒットチャートも賑わせる。実際に本編には「流れなかった」ことで、劇場に来た観客を驚かせたくらい。

その後、たとえば『ネバーエンディング・ストーリー』(1984)の主題歌を、日本語バージョンで、あの羽賀研二が歌っていたり、映画ファンのトラウマに残るケースはあったものの、しばらくは日本語版主題歌の問題は沈静化する。たとえばジャッキー・チェンの主演作に、よく日本語主題歌が付けられたが、許容範囲として受け止められていた。

ところが近年、やや増加の傾向をみせ、ネットの普及で炎上するパターンが多くなってきた。イメージソングはあくまでも宣伝用なので大目に見られるとして、日本語版主題歌の受け止められ方はシビアだ。とくに、日本語吹替版ではないオリジナル字幕版を差し替える「ビッグ・ウェンズデー方式」となると、否定されるケースがほとんど。

007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』(1999)→LUNA SEA (なぜ、そうなった!?)

SPIRIT』(2006)→ハイ・アンド・マイティ・カラー (ジェイ・チョウの主題歌を沖縄出身のロックバンドに差し替えて不評)

アメイジング・スパイダーマン』(2012)→SPYAIR (話題作だが、この差し替えはわりと自然で不評は少なめ)

このあたりが字幕版も日本オリジナルの主題歌に差し替えられた例。日本語吹替版のみの差し替えとなると、最近の作品だけでも

『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』→絢香

『リトルプリンス 星の王子さまと私』→松任谷由実

『バイオハザード:ザ・ファイナル』→L’Arc〜ec〜Ciel

『パッセンジャー』→JUJU

と、次から次へと量産されている。アニメが多くなるのは自然な流れで、よく考えれば『アナと雪の女王』もこのケースである。イメージソングに至っては近年、数えきれないほどだ。記憶に新しい軽い賛否は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』→EXILE ATSUSHIが担当というあたりか。

疑問に残るのは、日本語主題歌を担当したアーティストのファンが、その曲が流れるからといって劇場に足を運ぶかどうかである。エンドロールで曲が流れるだけでも、ファンは喜ぶものなのだろうか……。とはいえ、人気アーティストが多方面に露出し、たとえば今回の『スパイダーマン:ホームカミング』なら、関ジャニ∞とスパイダーマンを組み合わせたポスターが街に溢れることで、認知度を上げることに貢献しているのは間違いない(関ジャニの場合、ネットで写真が使えない弱点はあるが)。

今後も日本語版主題歌やイメージソングの問題は続くだろうが、作品の本質を壊すものでなければ、そんなに目くじらを立てることではないのかもしれない……。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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