日本食ブームにのって……。LA発信のドキュメンタリーは日本酒のどんな魅力を伝えるのか?

日本国外の視点でとらえた、日本文化のドキュメンタリー。このジャンルでは、これまでもさまざまな作品が製作されてきた。

たとえば『ベルリン・天使の詩』のヴィム・ヴェンダース監督による1985年の『東京画』。小津安二郎の『東京物語』の足跡をたどる作家性の強い一作があった。

また、たとえば『ディーバ』のジャン=ジャック・ベネックス監督による1993年の『Otaku』。文字どおり、日本のオタク文化に迫ったもので、パフォーマー時代の園子温なども顔を出している。

和歌山県太地町のイルカ追い込み漁を追い、アカデミー賞を受賞した2009年の『ザ・コーヴ』など、激しい論議を呼んだ作品もあった。

しかし近年、この流れで注目を集めた作品といえば、『二郎は鮨の夢を見る』だろう。アメリカ人監督、デヴィッド・ゲルプによる、あの名店「すきやばし次郎」の寿司職人、小野二郎を追った2011年のこのドキュメンタリーは、全米でも評判を呼び、一時、ハリウッドの若手スターに「日本で行きたい場所は?」と尋ねると、必ず「あのドキュメンタリーの寿司屋!」という答えが返ってきたほど。ヒュー・ジャックマンが来日時に必ず訪れるエピソードは有名だし、映画公開後にはオバマ大統領も来店。セレブ御用達の寿司店の裏側は、海外の観客に強くアピールした。

各国で日本食ブームが過熱している実情は、日本のニュースでもたびたび報道されている。「寿司」「ラーメン」は当たり前。そんななか、ここ数年、急速に注目度がアップしているのが「日本酒」だ。そのブームに映画監督が目をつけないわけはない……というわけで作られたのが、『カンパイ!世界が恋する日本酒』である。

監督の名は、小西未来(コニシミライ)

えっ、日本人じゃないか? と反論されたら否定はできないが、小西氏は米ロサンゼルス在住の映画ジャーナリストであり映画監督。あのゴールデン・グローブ賞の審査も務める、ハリウッド外国人映画記者協会(HFPA)の会員でもある。

日本人ではあるが、「グローバルな視点からとらえた日本酒の魅力」というスタンスで、作品に向き合ったと言ってよさそう(もともと監督自身は、特別に日本酒が大好きだったわけではない……らしい)。

『カンパイ!〜』がフォーカスするのは、日本酒をめぐる3人の人物。

日本国内で初の“外国人杜氏”となった、イギリス生まれのフィリップ・ハーパー

日本酒の魅力にとりつかれ、“日本酒伝道師”となったアメリカ人ジャーナリストのジョン・ゴントナー

岩手の酒造「南部美人」の五代目蔵元である久慈浩介

それぞれ違った立場で日本酒に関わる3人を追いながら、5年前の東日本大震災がもたらした現実なども織り交ぜて、日本酒の魅力を多角的にとらえていく、このドキュメンタリー。基本、無色透明な日本酒そのものの味や香りを、映像を通して観客に伝えるのはハードルが高いチャレンジだが、『カンパイ!〜』の主眼は「」にあることが、観ているうちにわかってくる。

その場にいる相手をすぐに虜にする久慈浩介氏の話術は必見
その場にいる相手をすぐに虜にする久慈浩介氏の話術は必見

3人のうち、とくに強烈なインパクトを放っているのが、南部美人の久慈氏。カメラを向けられた彼の豊かな表現力と、説得力のある語り口には、俳優の才能があるかも……と感じるほど、被写体として観る者を引きつけるキャラクターだ。

いっぽうで、小西監督の熱い思いが静かに託されているのは、外国人の2人で、アメリカに渡り、「映画」というカルチャーを愛し続け、それが「仕事」となった監督自身の気持ちが無意識に重なっていく。2人に対する、限りなく温かなまなざしが、カメラを回す側から伝わってくるのだ。

日本酒に関するドキュメンタリーは、やはり昨年、日系アメリカ人のエリック・シライ監督による『The Birth of Sake』も作られている。『カンパイ!〜』も、スペインのサン・セバスチャン国際映画祭などで上映されており、日本酒ブームとともに、今後、各国でどのように受け止められるのか、見守っていきたい。

京都府の「木下酒造」に杜氏として迎えられたフィリップ・ハーパー氏
京都府の「木下酒造」に杜氏として迎えられたフィリップ・ハーパー氏

『カンパイ!世界が恋する日本酒』

7月9日(土)、シアター・イメージフォーラム他全国順次公開

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