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夏の大作映画 どれを観るべき?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ホワイトハウス・ダウン』8月16日公開

毎年、ド派手な超大作がしのぎを削る、夏休みの映画興行。今年もアクション映画を中心に多彩なラインナップがそろった。私的観点からお勧めしたいベスト5を選んだので、ぜひ参考にどうぞ!

BEST1★パシフィック・リム

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シリーズ、続編、すでに確立したキャラクターなどが目立つ夏休み映画の中で、最も「オリジナル性が高く」、なおかつ、「監督が撮りたい作品に仕上がって」おり、さらに「観ているこちらの興奮を高めずにはいられない怒濤の演出」で、文句ナシのナンバーワン。

『パンズ・ラビリンス』などで映画ファンの心をとらえたギレルモ・デル・トロ監督は、幼い頃から、日本の怪獣やロボットの大ファンであり、その両者を戦わせる本作には、「ゴジラ」「ウルトラマン」など、日本の特撮モノへの熱いオマージュがたっぷり込められた。劇中で人類を襲う巨大生命体は「KAIJU」と呼ばれてるし、さまざまな特徴を持つ個体名も「オオタチ」「ライジュウ」などと名付けられ、さながら懐かしの怪獣大戦争の様相。アナログ感も意識したデザインが、かつての怪獣ファンだった40代近辺の男性のツボに入ってくるだろう。

対する、人類の巨大兵器「イェーガー」は、内部で人間のパイロットが操縦するとあって、「マジンガーZ」などからの影響が大だが、こちらはマニアックなテイストはむしろ希薄で、あくまでも、KAIJU対イェーガー、そしてパイロットの動きをシンクロさせる「戦い」を、3D効果満点の体感映像に仕上げることに集中している。このあたりは、デル・トロ監督が自慢のオタクぶりを封印し、多くの観客のアドレナリンを上昇させようとした努力が涙ぐましい。

BEST2★スター・トレック イントゥ・ダークネス

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夏の大作映画の中で、全体の構成や盛り上げ方がいちばんうまいのが、この作品。悪く言えば「ソツがない」のだが、過去の「スター・トレック」シリーズはもちろん、4年前の前作を観ていなくても楽しめちゃうのが大きなポイント。自己犠牲、チームプレーなどテーマも分かりやすいうえに、IMAXカメラを効果的に使ったアクションと、物語、映像ともに流れがスムーズなのだ。そんな安定した作品に違和感をもたらすのが、悪役として登場するベネディクト・カンバーバッチ。いま最も人気上昇率が高い彼をキャスティングしたことが、プロデューサーとしてのJ.J.エイブラムスの才能だが、彼がスクリーンに登場すると、スター・トレックの世界が一瞬でシェイクスピアの舞台になったような錯覚に陥る。とにかく声がいいのだ! 違和感がスパイスとしていい結果につながった好例。その「声」の演技を、ぜひ劇場で味わってほしい。

BEST3★ホワイトハウス・ダウン

6月に公開された『エンド・オブ・ホワイトハウス』と内容がモロかぶりだが、ホワイトハウスの秘密や、アメリカ大統領の危機管理まで、知られざる事実(かどうかも不明だが)、おもしろい裏ネタを事件にうまく絡め、飽きさせない脚本が見事。ローランド・エメリッヒ監督といえば、『インデペンデンス・デイ』から『2012』まで破壊ムービーの王様で、作品の出来は今ひとつのケースも多かったが、これはエメリッヒ作品のわりに、よくまとまっていると思う。大統領役でジェイミー・フォックスがオバマも連想させながらの熱演をみせつつ、極限のパニック状態のなか、要所で勘違い行動をとるのも、作品全体が深刻になり過ぎなくていい。ダークな作品が多い今年の夏映画で、じつはいちばん笑えたりもして、意外な拾い物である。

BEST4★ワールド・ウォーZ

『スター・トレック〜』とは真逆で、唐突感を狙った構成が魅力の一作。ありきたりの超大作に不満がある人には、ダントツでお薦めしたい。冒頭から、穏やかな日常が一変する演出が鮮やかで、そこから後は、どんどん増え続けるゾンビ状態の感染者の恐怖を、主人公目線で体感させていく。最近は、シブい役をあえて選んでいたようなブラッド・ピットが、世界の運命を任され、直球型ヒーローを熱演するのも逆に新鮮。プロデューサーを務め、監督に撮り直しまでさせただけあって、ブラピの“本気”がスクリーンに充満している。ふつうのアクション映画とは一味違うクライマックスのムードも、後々まで印象に残るはず。

BEST5★風立ちぬ

飛行シーンの昂揚感、映像の色づかいの美しさ。まさに巨匠の仕事。宮崎駿監督作品は、あえて違和感のある要素を加え、観客の心に波紋をひろげ、ざわつかせるのを狙いとしており、それが時として好き嫌いを分けてしまうこともあるが、今回は違和感が絶妙な効果を発揮している。一例を挙げれば主人公の声だが、徐々に違和感が心地よくなる。その理由は言葉では説明しづらく「感覚」としか言いようがない。この感覚をもたらすのが映画のマジックだと、本作は証明する。確固たるテーマもきっちりと伝わってきて、ラストの演出は大人の観客こそグッとくるだろう。

そのほかの作品では、『ワイルド・スピードEURO MISSION』がシリーズ好きの期待に200%応える超豪快さで、夏らしい一品。ジョニー・デップが『パイレーツ・オブ・カリビアン』の監督、プロデューサーと再タッグを果たした『ローン・レンジャー』は、何も考えずにアトラクションのように楽しめるのが持ち味で、「ウィリアム・テル序曲」が流れるクライマックスの戦いは、この夏の大作の中で最も痛快かもしれない。そして、スーパーマンを再生させた『マン・オブ・スティール』は、『ダークナイト』のクリストファー・ノーランが脚本・製作に関わっただけあって、あまりに有名なヒーローの誕生から地球での活躍まで、ドラマ部分をリアル感重視の演出で見せていく。すでに続編が決まっているので、映画ファには必見だろう。

いわゆる「大作」のうち、以上で触れなかったタイトルは、辛口になってしまうのでオススメできないということで!

公開日は以下のとおり。

公開中:ワイルド・スピードEURO MISSION

7月20日:風立ちぬ

8月2日:ローン・レンジャー

8月9日:パシフィック・リム

8月10日:ワールド・ウォーZ

8月16日:ホワイトハウス・ダウン

8月23日:スター・トレック イントゥ・ダークネス

8月30日:マン・オブ・スティール

『パシフィック・リム』 (c)2012 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND LEGENDARY PICTURES

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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