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台風11号が接近中、海でのレジャーは厳禁 砂浜を歩くだけでも絶対ダメ

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
台風が接近している中、海に近づくのは危険(写真:Shutterstock/アフロ)

 台風11号の接近により、沖縄やその付近の島々での海のレジャーは厳禁です。特に観光客のマリンスポーツ、釣りはもちろんのこと、砂浜から海を遠くに眺めるだけでもダメです。荒れ狂う海に身体をもっていかれます。

【台風接近の8月31日の沖縄本島事故一覧 9月1日追記】

★糸満市潮崎町 ウィンドサーフィンをしていた57歳の男性が強風にあおられ700 m沖合に流された

★本部町崎本部 8歳の女の子と42歳の母親が遊泳中に沖に流された

★金武町 サーフィンをしていた21歳の男性が高波で岸に戻れなくなくなった

(以上、出典は沖縄テレビ 9/1(木) 12:02配信

 猛烈な台風11号は、31日(水)午前9時現在、南大東島の西約90キロにあって、時速30キロで西南西に進んでいます。

 中心気圧は920ヘクトパスカル、中心付近の最大風速は55メートル、最大瞬間風速は75メートルとなっています。 

 この台風は今後も西よりに進み、31日には沖縄の南に達する見込みです。その後、発達しながら南西に進み、2日(金)は沖縄の南で動きがゆっくりとなりますが、4日(日)にかけては北上し、沖縄地方に近づく見込みです。

 沖縄地方では大東島地方を中心に、暴風やうねりを伴った高波に厳重に警戒し、土砂災害、低い土地の浸水、河川の増水に注意・警戒してください。奄美地方でもうねりを伴った高波に警戒が必要です。

Yahoo!天気・災害8月31日 10:31)

うねりと海面吸い上げがあるので海のレジャーは厳禁

 台風が近づけば、海は当然のごとく荒れます。マリンスポーツで海に入るのは当然厳禁ですし、釣りも絶対にダメです。そして海岸に近づくだけでもダメです。

 砂浜では数十m海から離れていても、突然100 mくらい砂浜を駆け上ってきた波に引きずられ、あっという間に荒波に飲み込まれてしまいます。条件が悪ければ、100 mを10 秒でもっていかれます。瞬間的に命を落としかねません。

 その原因は、図1に示す台風によるうねりと海面吸い上げです。

図1 台風によるうねりと海面吸い上げの様子を説明するためのイメージ図(筆者作成)
図1 台風によるうねりと海面吸い上げの様子を説明するためのイメージ図(筆者作成)

うねりとは

 今回、南大東島近海にある猛烈な台風のある海域では、図1の右に示すように強烈な風によって海面に引き起こされる波、つまり風浪が発生しています。

 風浪の波の高さはたいへん高いのですが、海面にて四方八方に伝わっていけば、そのうち波の高さが低くなり、波の前後に幅を持つようになります。特に幅の広い(周期の長い)波を「うねり」と呼びます。これが南西諸島に到達すると、沿岸で高い波を観測することになり、砂浜であれば奥の方まで駆け上がっていきます。

海面吸い上げとは

 台風を含む低気圧は、図1の右に示したようにその低い気圧によって海面を吸い上げます。沿岸ではいつもより高く潮位が上昇します。

 どれくらい潮位が上がるかというと、気圧が1ヘクトパスカル(hPa)下がると、潮位は約1 cm上昇すると言われています。 現段階の台風11号の中心気圧は920 hPaです。平均的な地上の気圧は1013 hPaと言われていますので、台風が来ていない時に比べて、台風の襲来によって台風の直下の海面は93 cmつまりざっくり1 mくらい上昇することになります。

海のレジャーは絶対ダメ

 一番の危険は海岸、つまり海と陸の境界にあります。奥行のあるうねりによって海岸の奥まで海水が駆け上がるのと、いつもより高い潮位によって通常ではここまで駆け上がらないという所まで海水が来ます。

 そしてその波が海に戻る時に、砂浜や岩場には強烈な戻り流れが発生します。この戻り流れに引きずり込まれると、海から100 mくらい離れていても、時間で10秒から20秒で海に飲み込まれることになります。実際に、そのような事故で過去に若い学生3人が流されて命を落としました

 図2はその実験の様子です。図に写っている砕波から20 mくらい陸側の砂浜にいましたが、矢印で示した戻り流れで20 mを数秒で流された様子です。この後、砕波に飲み込まれました。

 同じ現象は岩場でも発生します。プロセスは少々異なりますが、やはりあっという間に海に飲み込まれます。

 飲み込まれた後は、呼吸を止めて海面に浮上し、砕波から沖に逃げない限り、生命の保証はありません。なぜなら、砕波より海岸側に逃げれば再度戻り流れで砕波に吸い込まれます。砕波の向こうに出て背浮きで浮いていれば、波でめちゃくちゃになることを防ぐことができ、呼吸がしやすくなります。

図2 砂浜にできた戻り流れとそれに流されていく人の実験の様子。戻り流れの深さはせいぜい10 cm程度。人はうつ伏せの状態で流されるまま砕波に飲み込まれる(筆者撮影)
図2 砂浜にできた戻り流れとそれに流されていく人の実験の様子。戻り流れの深さはせいぜい10 cm程度。人はうつ伏せの状態で流されるまま砕波に飲み込まれる(筆者撮影)

【戻り流れの動画はこちら】波にさらわれて溺れるってどういうこと? 8月10日と11日は要注意

波予測をチェック

 波予測(波周期)はYahoo!天気・災害で確認することができます。72時間後の予測まで確認することができます。まずは図3と図4で確認してみましょう。8月31日午後3時の予測です。

 まずは図3の波高の予測です。赤色の領域に注目します。ここでは波の高さで7 mを超えています。たいへん高い波が風によって発生している様子がわかります。きわめて高い波です。これが沖縄本島や奄美大島に接近している様子がうかがえます。

 次は図4の波周期の予測です。オレンジ色の領域に注目します。ここでは周期で11秒以上の波が発生しているようです。これ以上にない立派なうねりであり、沿岸に達すると水難事故を発生させる可能性が極めて高いうねりです。7 m以上の高い波よりも先にうねりが到達する様子が図3と図4を比較するとよくわかります。

 うねりに関しては、波周期で6秒を割るくらいになるまでは海のレジャーを控えたほうがよいです。

図3 8月31日15時の波予測(波高)(Yahoo!天気・災害より転載)
図3 8月31日15時の波予測(波高)(Yahoo!天気・災害より転載)

図4 8月31日15時の波予測(波周期)(Yahoo!天気・災害より転載)
図4 8月31日15時の波予測(波周期)(Yahoo!天気・災害より転載)

まとめ

 とにかく厳しい海象になりそうです。各種マリンレジャー、釣り、海岸の散歩はぜひ控えましょう。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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