新型コロナ時代に広がる水難事故防止教育 エアーういてまて教室

床で背浮きになっている。この姿勢で呼吸法を獲得する(水難学会提供)

 例年の今頃は、全国の小学校等で水難事故防止のための教育が行われている頃です。特に、服や靴を身に着けたままプールに入って浮いて救助を待つ方法を学習する、ういてまて教室(着衣泳)は6月中旬から夏休み直前まで実施されます。今年は新型コロナウイルス感染防止対策の影響もあって、プールを使った実技が行われない学校も少なくありません。そこでプールを使わずに、学校・家庭で学習できるエアーういてまて教室やエアーよりそい教室をご紹介します。

エアーういてまて教室

 水中ではなく、空気(エアー)中で実施する水難事故防止の学習法です。実技項目は次の通りです。

1.入水

2.ウエイディング(水中歩行)

3.背浮き

4.這い上がり

 各実技項目とも、体育館など運動器具の備わったところで行われるのが理想ですが、工夫すれば家庭でもできます。

入水

 体育館では舞台を使います。低学年は舞台に上がる階段を使い、高学年は舞台を直接使います。舞台の下の床面には、転落してもケガをしないように十分な厚さのマットなどを敷いておきます。

 入水は舞台上から始めます。低学年は階段面に手をつきながら、後ろ向きで一歩一歩静かに下りていきます。高学年は舞台の端に座り両手を舞台面について後ろ向きになり、静かに身体を下ろしていきます。舞台の高さが子供の身長に比べて高いようであれば、低めの跳び箱を使います。跳び箱に腰を下ろし、同じ動作で身体を下ろしていきます。

ウエイディング

 体育館の床面を歩きます。静かに一歩一歩前進します。その時に、次の一歩を踏み出す時に「次は深いかもしれない」と考えることを教えます。木の棒を杖に見立てて深さを探りながら歩くのはさらに効果的です。

 少し余力があれば、ビニールシートとアルミニウム製はしごとを組み合わせて図1に示すように簡易プールを作ります。ここでウエイディングの練習をすると水の中を歩く時に注意しなければならないことが身をもって体験できます。色水には、入浴剤の白色とか緑色を使います。水底がよく見えないため、実践的です。

図1 簡易プールを使ったウエイディングの訓練(水難学会提供)
図1 簡易プールを使ったウエイディングの訓練(水難学会提供)

背浮き

 カバー写真のように、背浮きは床面を使います。たいへん簡単で、図2の浮き方をイメージします。ペットボトルを浮き具に使うなら、おなかから胸のあたりに両手で軽くつかみます。両足は自然に広げて、顎を少し挙げるようにします。ペットボトルを使わないなら、両腕を自然に広げます。

 呼吸法が大事です。基本は息を大きく吸ってためたまま。息継ぎをしたい時には素早く呼吸をして、また空気をためます。

図2 背浮きの様子(水難学会提供)
図2 背浮きの様子(水難学会提供)

這い上がり

 床面から10 cm程度の段差をマットなどで作ります。背浮きの状態から身体をひねり、床面をはいつくばって、図3をイメージしてマットの上に這い上がります。水面から実際に這い上がれるのは、高さ10 cm程度までです。這い上がれる高さかどうか、エアーの背浮きの状態で高さを確認するようにします。

図3 這い上がりの様子(筆者撮影)
図3 這い上がりの様子(筆者撮影)

エアーよりそい教室

 これまで「ペットボトル救助」と呼ばれていた実技を、「よりそい」という言葉でまとめました。寄り添う人として、陸にいる友達や家族を想定しています。エアーと言っても実践的で、現場ですぐに使えます。実技項目は次の通りです。

1.声かけ/通報

2.ペットボトル

3.釣具

 各実技項目とも、使っていないプール、体育館、自然水域で行うことができます。新しい生活様式でも積極的に導入していただければと思います。2人一組で行うときには、浮いて救助を待つ役がういてまて役、陸にいる人がよりそい役となります。

声かけ/通報

 浮いて救助を待っている人を見たら、携帯電話を使ってその場で119番通報します。携帯電話を持っていなければ、「119番通報をお願いします」と大きな声で周囲の人に知らせます。

 「ういてまて」と大きな声で浮いて救助を待つ人に声をかけます。大きな声を出せば周囲の人も手伝いに来てくれます。

 以上を想定して練習します。「友達が溺れて、どうしていいかわからず怖くなって家の人に事故のことをなかなか話せなかった。いなくなった家族から連絡が来て、初めて事故のことを親に告げた。」昔も今もこのように悲しい事故が発生しています。子供たちに「どうしたらよいか」を教えてこなかった大人の責任です。「現場で声を出す。」これは119番通報もしかり、声かけもしかり。日頃から訓練しなければなりません。同じ間違いが繰り返されないように。

ペットボトル

 エアーでも、事故現場でも、絶対にペットボトル内に水を入れないでください(注)。浮いている人にとっては、まっすぐ向かってくるペットボトルは、凶器です。それから逃れようと顔をそらせば、背浮きのバランスが崩れ、その場で沈水します。

 エアーよりそい教室では、図4のようによりそい役がペットボトルを投げずに床を滑らすようにして、ういてまて役に渡します。ういてまて役は受け取ったらおなかと胸の間くらいで両手を使って持ちます。

図4 エアーでのペットボトルの渡し方(水難学会提供)
図4 エアーでのペットボトルの渡し方(水難学会提供)

釣具

 リール付きの釣具を使います。釣り糸だけにして、針やおもりは外しておきます。釣り糸の先端をペットボトルの中に入れて、そのままふたをしめます。図5のように、よりそい役が一段高い場所にのります。ういてまて役は床の上で、背浮きの姿勢で待っています。よりそい役はういてまて役よりも遠くにペットボトルが着地するように、投げます。着地したら、「ういてまて」と声をかけながらリールを巻き、ういてまて役が手に取れる位置まで、ペットボトルを近づけます。失敗したら、リールを巻いてペットボトルを戻し、再度投げます。

図5 エアーでの釣具によるペットボトルの渡し方(水難学会提供)
図5 エアーでの釣具によるペットボトルの渡し方(水難学会提供)

エアーでは理解が難しい項目

 子供の水難事故で多く見られる原因のひとつが沈水です。そこから回復する動作がエアーでは練習ができません。プールが使えないのであれば、動画を見ながら指導することができます。「放課後の水難事故 子供たちの命を守るために必要な教育は?」をご利用ください。

 子供だと、やはりエアーでは現実の水難事故をイメージできないことはあります。エアーを実施する際にプールを使った動画を子供に見せて、その実技をエアーでやってみるというように、並行で学習を進めると効果的です。

実施前に聴きたいお薦め講習会は

 水難学会では、教員や水泳インストラクター向けに無料(テキストは実費)でエアー教室等の伝達講習を行っています。ここでは、実技の詳細ばかりでなく、最も重要な安全管理について学ぶことができます。事故防止の教室で子供にケガ等を負わせてはいけません。そのためのノウハウをお伝えします。伝達講習についての詳細は、水難学会のホームページでご確認ください。

注  浮いて救助を待つ人が安定した背浮きをしているのであれば、ペットボトルなどの浮き具を渡すのは、オプションです。つまり、「渡すことができればなおよい」程度のことです。