放課後の水難事故 子供たちの命を守るために必要な教育は?

深みにはまった後、背浮きで浮いて、バタ足で元の浅い所に戻る練習(筆者撮影)

 6月3日午後、東京都清瀬市の川で遊んでいた小学3年女児が溺れて命を落としました。同2日午後には福岡県で小学男児2人が溺れ、5月31日には熊本県で男子中学生、鹿児島県屋久島では小学1年女児、そして長野県千曲市で同22日に小学2年男児と4歳男児が川で溺れています。今年は、子供の水難事故が異常に多発し、子供の命が例年を上回るペースで失われていると予測されます。もう、他人ごとでは済まない状況、どうやったら大切な子供の命を守れるでしょうか。

※このニュースの内容は、海で深みにはまった時にも活用できます。海水では、体はさらに浮きやすくなります。(6月7日22:15追加)

今年の水難事故の概況

 今年の子供の水難事故の状況を報道により確認すると、川などで、夏休みでもないのに曜日に関係なく発生していることが特徴です。例年であれば、5月の連休と夏休みの期間に、親子で一緒に遊んでいて事故に遭うことが多く、近くに大人がいない状況なら、もう少し年齢の高い高校生以上が友達同士で遊んでいて事故に遭う例ばかりです。要するに、放課後に子供だけの川遊びで発生する水難事故は、近年あまり見られません。

何が起こったのか

 あくまでも報道により筆者が知り得た事故の様子からの推測です。

 東京都清瀬市で発生した水難事故は水曜日。”清瀬市の柳瀬川で通行人の男性から「川の中に人が倒れている」と通報がありました。清瀬市に住む小学3年の女の子が川の中に沈んでいるのが見つかり、病院に運ばれましたが死亡が確認されました。女の子は小学校から帰った後、友達2人と川で遊んでいましたが、流されたサンダルを探しに行った後に行方が分からなくなったということです。”(テレビ朝日系(ANN)最終更新:6/4(木) 20:48

 映像では川の流れの様子が映っています。ここが現場だとすれば、流れの速い箇所のすぐ下流に流れが緩やかになっている箇所があります。このような箇所は川底が掘れていて、急に深くなります。サンダルを追って、深みにはまった沈水である可能性がきわめて高いと言えます。

 福岡県大木町の水路で発生した水難事故は火曜日。”男児2人が溺れ、病院に運ばれて重体。水路は水深、幅ともに3 m程度。近くに釣りざお1本と自転車1台があった”(共同通信 最終更新:6/2(火) 22:26)そうです。後日、2人のうち1人は亡くなりました。

 映像から、道路面から水面までの比高差があることがわかります。幅のわりに水深方向に深い構造であるためH型鋼が補強として左右岸圧を受ける形で設置してあります。その上で釣りをしていて転落した可能性が考えられます。さらに、水路両壁は最も転落者が生き残りにくいとされる鋼矢板連壁構造で、一度落ちると自力でよじ登ることができません。

 熊本県嘉島町で男子中学生が川で溺れた事故は日曜日に発生。同じ日曜日には鹿児島県屋久島町にて川で遊んでいた小学1年女児が海まで流されて亡くなっています。そして、長野県千曲市で発生した兄弟が千曲川に流された水難事故は金曜日に発生しています。これらの3件はいずれも川岸から川に簡単に入ることができる箇所で発生しています。

 警察庁の水難の概況によれば、平成30年中に発生した子供の水難事故では、死者・行方不明者数は22人です。ほとんどが夏休み期間中に発生した事故であることから、今季の事故発生のペースはやはり多めに感じます。

川での水難事故の多くは沈水が原因

 子供が溺れる川は、たいてい川岸から歩いて入ることができます。足のつく深さの箇所で歩く、つまりウエイディングで遊んでいます。図1に示すように、探検で歩き回ったり、持ち物が流されそれを追ったりして深みにはまることがあります。これを沈水と言います。はじめに沈水した子供を助けようと近づき、次々と子供が沈水していくこともあります。後追沈水と言って、複数の子供が事故に遭う多重水難につながります。子供同士で川遊びをしている時に発生する事故のほとんどが、この沈水によります。

図1 沈水のメカニズム。急な深みに気が付かずに、流れていくものに気を取られ溺れることが多い(筆者作成)
図1 沈水のメカニズム。急な深みに気が付かずに、流れていくものに気を取られ溺れることが多い(筆者作成)

 水難事故は人の行動の範囲内で起こります。子供同士であれば、近所の川や池、あるいは用水路で発生します。そのため、警察庁の水難の概況によれば、中学生以下の子供の水難事故は、その半数が川で発生しています。放課後などに友達同士で簡単にいくことができるのが、近所の川ということになります。気持ちよさそうであれば、泳ぐ気はなくても、ウエイディングを楽しもうとするわけです。

沈水から命を守るために

 当然、子供同士で川に近づかないように注意するなどしっかり予防対策を取ります。ただ、そうやっても沈水による水難事故は無くならないので、全国の多くの小学校等では毎年夏休みに入る直前に、ういてまて教室(着衣泳)を開いて、子供たちに沈水に陥った時の命を守るための実技を訓練しています。

 図2にその様子を示します。子供の背の立つプールの中にプールフロアを沈めます。訓練に慣れているようであれば、二段重ねにします。

図2 ういてまて教室で行われる沈水に対応する実技訓練の様子(筆者撮影)
図2 ういてまて教室で行われる沈水に対応する実技訓練の様子(筆者撮影)

(a) 台の上をゆっくりとウエイディングします。

(b) 台の端に到達したら、その足で沈水します。その瞬間、息を止めます。

(c) 羽ばたくようにして、浮上します。これをフィニングと言います。息を止めていれば羽ばたかなくても、自然にゆっくり浮上することができます。

(d) 浮上したら、呼吸をして、周囲の状況を確認して、バタ足を使って元の浅い場所に戻ります。

 動画はこちらで視聴することができます。

ういてまて教室実施のお願い

 図2の実技は、ういてまて教室で小学3年生くらいから行います。一度体験しただけでできるとても簡単な実技です。ですから、体で子供たちに覚えさせるのと同時に、「川にはこういう危険がある」という注意を頭に刷り込みます。具体的に「どういう危険があるか」を実感するだけでも、子供だけで川に近づかなくなります。

 こういった実技は毎年、しかも夏前に行わなければなりません。それは、成長に従って、子供の行動範囲が広がるからです。小学1年から6年まで行うことが重要です。そして全国の努力が実を結び、今や中学生以下の子供の水難事故からの生還率は90%近くにまで達しています。

いやいや、今年はプールを使えない

 今季は、新型コロナウイルス感染拡大の抑制のために、プール授業を取りやめる自治体があるようです。そういう地域では、プールを使ったういてまて教室を行うことができないことも考えられます。でも工夫はいくらでもできるわけで、その場合は、エアーういてまて教室があります。水がなくても実技を体験できる教室です。

 今年は水難学会に所属する指導員がエアーういてまて教室の実施方法の伝達を6月中に受けることになっています。プールが使えなくても、もし、毎年学校にてういてまて教室の指導をお願いしている人がいるようであれば、その指導員に「エアーういてまてで指導をお願いできますか?」とお聞きください。

 お近くに知り合いの指導員がおられない場合、エアーういてまて教室の実施方法に関する伝達講習会を水難学会がリモートで行う予定にしています。この講習会に参加されて、エアーういてまてを学校等で行ってみてはいかがでしょうか。伝達講習会は6月下旬から行うように準備しています。準備ができ次第、水難学会ホームページでお知らせします。

まとめ

 学校が再開し、友達と久しぶりに会う機会が増え、子供同士で川に遊びに行くようなことが今年の平日の水難事故の特徴と言えるでしょう。暑い夏はもう来ています。子供のさらなる水難事故に終止符を打つために、ういてまて教室をぜひご活用されてはいかがでしょうか。