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平日の子供の水難事故が多発 お父さんも犠牲に どうすればいい?

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
今年は平日の川の水難事故が多発している(筆者撮影)

 もはや異常事態というしかありません。平日の子供の水難事故は、昨年まではほとんど見られなかったのに対して、今年は異様な頻度で繰り返されています。そして今週月曜日には、溺れたわが子を助けようとしたお父さんまで犠牲になりました。この異常事態、どうやって切り抜けたらいいでしょうか。

昨日も水難事故がありました

 事故件数の多い今年の大きな要因は、休日ばかりでなく平日にも川などに出かける自由な時間があるため。例年なら、子供たちは学校や塾で忙しかったはずです。

 この記事を執筆している今、子供の水難事故のニュースが飛び込んできました。

「川遊びの9歳女児死亡、埼玉 友達のサンダル追い流される。9日午後3時40分ごろ、埼玉県日高市高萩の小畔川で同県川越市の小学4年が溺れ、搬送先の病院で死亡が確認された。友達と川遊び中に、流された友達のサンダルを追って溺れたとみられ、飯能署が詳しい状況を調べている。(後略、一部改)」(共同通信 6/9(火) 22:41配信

 別の記事では、川の状況を詳しく書いています。

「(前略)飯能署によると、栗田さんは同じ小学校の女子児童2人と一緒に、水深15~30センチ程度の浅瀬で遊んでいた。流されたサンダルを取りに行こうとして水深約2メートルの下流へと進み、おぼれたという。」(産経新聞 6/9(火) 22:58配信

 ニュースでの状況から、典型的な沈水事故と判断できます。「川の水深は一定ではない」とよく聞きますが、そんな生易しいものではありません。膝くらいの水深から、いっきに背がたたなくなるほど深くなるような川底の構造であるのが普通です。流されたサンダルを追いかけて夢中になることがあると、深みにはまって一瞬で沈みます。

 沈んだ子供を間近に見れば、親はとっさに水に入ってしまいます。そして、子供と同じように沈みます。6月8日には、岐阜県美濃市の長良川で45歳の父親が溺死しました。川で遊んでいた9歳と7歳の2人の子供が溺れ、助けようとしたのです。(東海テレビ 最終更新:6/8(月) 17:54

 自分が溺れることがわかっていても飛び込んでしまうのが親です。でも、命を大切にしましょう。親子とも助かる解決法はあります。

どれくらい異常な年か

 6月3日午後には、東京都清瀬市の川で遊んでいた小学3年女児が溺れて命を落としましたし、同2日午後には福岡県で小学男児2人が溺れ、5月31日には熊本県で男子中学生、鹿児島県屋久島では小学1年女児、そして長野県千曲市で同22日に小学2年男児と4歳男児が川で溺れました。5月1日から本日(6月10日)までの間に中学生以下の子供の溺死者数は、全国で6人になります。

 警察庁の統計によれば、屋外の水難事故による中学生以下の子供の死者・行方不明者数は平成30年には22人。ほとんどが夏休みとその前後で発生しています。それに対して、まだ夏休みまで日数がある時点での今年の子供の犠牲者はすでに6人です。そしてそのうち4人が平日に起きた事故により命を落としています。

 昨年は、5月16日木曜日に福岡県小郡市の川で小学3年男児が、5月26日日曜日に静岡県伊豆の国市の川で中学1年女子が、それぞれ溺れて亡くなっています。5月1日から6月30日までの期間では中学生以下の子供の犠牲者は2人です。また、平日の死亡事故は1件だけです。今年の水難事故が如何に異常事態にあるか、わかります。

どうやったら、子供と親の水難事故を防ぐことができるか

夏休み前

 学校や塾などが平常に戻り、子供たちが川や池に遊びに行く時間がなくなれば、平日の水難事故は減ります。水難事故は、水辺に人がいて初めて成り立つからです。

 でも今年のように新型コロナウイルス感染予防対策を実施しなければならないのであれば、とにかく「川や池に近づいてはいけない」と口酸っぱく繰り返さなければならないでしょう。

 とは言っても、暑くて、自由な時間があれば、子供の行動は自然と川や池に向かってしまいます。そのため、プールを使うことができるのであれば、ういてまて教室(着衣泳)を早めに実施して、特に「沈水と回復動作」(参考:放課後の水難事故 子供たちの命を守るために必要な教育は?)で実技を刷り込みます。こうすることによって、間接的に川の危険性を知ることができます。

 プールが使えないのであれば、「エアーういてまて教室」で水を使わずに、水難事故に備える実技の訓練をすることができます。この教室については、今年から始まる新しいカリキュラムのため、詳細は水難学会にお問い合わせください。

夏休み中

 子供たちの行動を川や池に向かわせないために、学校プールや公共プールを積極的に開放し、水遊びで楽しませるようにします。更衣室が密になると心配するのであれば、着替えは家で済ましてプールに入場、プールから退水する時の更衣室での着替えは、少人数で順番に行えばよいです。そしてプール内では1方向に泳ぐとか歩くとかすればよいです。

 プール開放のどこかの日程を使って、「親子ういてまて教室」をするのもいいと思います。特に、「子供が溺れて浮いて救助を待っている間に、お父さん/お母さんも飛び込んでしまった」という想定を作って、飛び込んだお父さん/お母さんも子供と一緒に浮いて救助を待つ訓練(寄り添いと言います)をしてみてはいかがでしょうか。子供のそばに寄り添い、一緒に浮いて救助を待つ練習の様子を次に動画で示します。

さいごに

 警察庁の統計によれば、屋外の水難事故による中学生以下の子供の死者・行方不明者数は昭和54年には1,022人でした。これが22人(平成30年)に減ったのは、学校プールや公共プールの開放のおかげです。これまでの監視のお父さん、お母さんの努力の賜物です。子供の水難事故は、保護者だけの努力ではどうしてもなくすことができません。地域、社会の応援があってこそなくすことができるのです。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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