海に散った3人の命 海岸で遊ぶ高校生に何が起こったのか 水難事故調レポート

銭函海岸。ここで高校生3人が水難事故で命を落とした(筆者撮影)

 平成29年8月27日に水難事故で高校生3人の命が失われました。場所は北海道小樽市の銭函海岸。友人同士で海に遊びに来て、砂浜から遠浅の海に入り、溺れました。数人が自力で浜に上がりましたが、3人が帰らぬ人になりました。この海岸では、平成12年からでも6件の事故が起きていて、特に8月に事故が集中しています。水難学会では平成30年8月24日にこの現場に事故調査委員を派遣して現場検証し、その原因を科学的に解析しました。今回は、そこで得られた知見に関してレポートします。

参考 沖に流されたら、どうして大人が犠牲になる?そうなるのが水難事故だ

現場の概略

 図1に赤丸で囲った災害点とその周辺の写真を示します。銭函海岸は小樽市のJR函館本線銭函駅から歩いて10分ほどの所です。石狩湾に面した砂浜海岸で、沖に向かって砂底が続きます。250 mほど沖には離岸提という消波ブロックが海岸と並行に設置されています。事故は海岸と離岸提のおおよそ半分より少し沖側の距離の所で発生したとみられています。

図1 銭函海岸の上空写真。赤丸が災害点(YAHOO!地図をもとに、筆者が作成)
図1 銭函海岸の上空写真。赤丸が災害点(YAHOO!地図をもとに、筆者が作成)

 当時の現場の映像はこちらでご覧いただくことができます。(北海道新聞電子版)  

 映像から、当日の海では比較的波が高く、離岸堤の間から波が入り、半円状になって海岸に打ち寄せていることがわかります。これを回折波と言います。波が穏やかな時には、現場ではこのような波は見られません。

水難事故調の観点

 銭函海岸では海底の深さ、気象・海象、高校生が何をしていたか、の3点に絞って調査を行いました。

 水難事故は、現場に危険があるばかりでなく、そこに人がいなければ起こりません。まず、いくつかの小さな危険を海底の深さと気象・海象で探ります。そして、命を落とすきっかけとなった、突如発生した大きな危険を特定します。その時に、高校生は何をしていたのか、大きな危険を想定できたか、を重ね合わせて、総合的に最も可能性の高い事故の原因を推定しました。

海底の深さ

 水難学会と北海道ウォーターセーフティ協会の会員が合同で現場の水深を測りました。その結果を平面的に示したのが図2です。海岸と海の境、すなわち汀線から沖に向かうにつれて100 mほどまでは緩やかな傾斜の砂底が続き水深150 cmに達します。目撃証言などを総合すると、事故はこのあたりで発生しています。そこから離岸堤に向かうにつれて傾斜が急になり、10 mほど進むと大人の身長ほどになり、立った状態だと呼吸しづらくなります。さらに先、離岸堤の間に向かうにつれて、海底はすり鉢状に深くなっていき、最深部は5 mを超えます。

 

図2 現場の水深分布(長岡技術科学大学 犬飼直之 准教授作成)
図2 現場の水深分布(長岡技術科学大学 犬飼直之 准教授作成)

気象・海象

 事故当時の小樽市の気象は、晴で気温は25℃程度、西南西の風で風速は4 m/s前後でした。日本海に高気圧があり、特段荒れた天気ではなかったようです。

 現場の海象については、逆に荒れていました。波の高さは平成29年8月の1か月の中でも一番でした。通常は有義波高が0.5 m前後なのですが、当時のそれは1.08 mでした。事故調査時のインタビューでは、地元漁師が「8月では最も荒れていた」と証言しました。波の周期は5.2 秒で、北北西から波が来ていました。吹送流と呼ばれる海上風による海の流れの影響はほぼなし、また当時の潮汐流の影響もほぼないことがわかっています。

高校生の行動

 海岸から高校生が集団で海に入りました。ウエイディング(水底歩き)でゆっくりと沖に向かっていきました。最初の50 mほどは駆け上がってきた弱い波に向かいつつ、楽に歩いていけました。汀線と離岸堤との間の中間付近より手前、約110 m付近で砕波帯にあたりました。砕波帯とは、沖から来た波が砕ける所で、波の威力で体が倒されやすくなる場所です。ここでも立って歩くことができる深さでした。

 目撃証言などで、このあたりから沖で高校生はピョンピョンとジャンプしながら遊んでいる様子でした。よく似た運動にボビングがあります。水中に立ったあと水底を蹴ってジャンプし、顔を水中と水上に出し入れして、呼吸をしながらする上下運動です。ただ、水深が150 cmで波高100 cmであったことを考えれば、波によって水深が100 cmから200 cmの間で変化していたことになります。つまり、ジャンプしながらの上下運動ではなくて、波の上下運動にのっていたと解釈するほうが自然です。

突如発生した危険

 3人もが同時に命を落とすきっかけは、例えば突如発生した大きな危険である必要があります。生還した高校生は「急に深くなって、怖くなって岸に戻った」と証言しています。つまり、急に深くなった理由を考察することになります。

 当時の上空からの映像を確認すると、離岸堤の間から発生した回折波がみえます。この回折波は、他の隙間から発生した回折波と重なり合います。このような所では、波の高さが複雑に変化します。

 図3をみてください。(a)周期的な波の場合です。波にのって上下運動することにより、足が水底につかない時は少しの時間水面に浮いて呼吸を止めて、足が水底に届いた時に呼吸をすることができます。当時の波の周期は5.2秒でしたから、5秒ほど呼吸を止めれば足がついて、呼吸するチャンスをつかむことができます。(b)回折波が重なりあった場合です。回折波同士が重なりあうと、周期が乱れるばかりでなく、重なりによって波が盛り上がります。例えば、最大水深が200 cmだったのが、250 cmまで達することもあり得るわけです。そうすると、足が立って呼吸した→波にのって上がった→下がると思っていたらさらに盛り上がった→もう少し我慢と思っていたら足がつかなかった→溺れるという過程をたどることになります。

図3 (a)周期的な波にのって上下運動する様子。(b)回折波が重なり合ってできる波で上下運動する様子。場合によっては呼吸に失敗し、溺れる(筆者作成)
図3 (a)周期的な波にのって上下運動する様子。(b)回折波が重なり合ってできる波で上下運動する様子。場合によっては呼吸に失敗し、溺れる(筆者作成)

 図4は当時の回折波の様子を計算によってシミュレーションした結果です。回折波が重なる部分は、図からわかるように特別な場所です。ここに至るまで高校生は周期的な波で上下運動していました。ところが、この付近には秒速40 cmくらいの海浜流があり、波で上下している間に知らぬ間に集団でここに流されたと考えられます。

図4 離岸堤内側の波のシミュレーション。当時の波の条件を入れて計算している(長岡技術科学大学 犬飼直之 准教授作成)
図4 離岸堤内側の波のシミュレーション。当時の波の条件を入れて計算している(長岡技術科学大学 犬飼直之 准教授作成)

まとめ

 海にしても、川にしても、「危険、泳ぐな」という注意喚起がしてある場所は、何らかの原因で人が溺れた危険な場所です。普段は安全そうにみえて、確かに安全なのですが、ある条件が重なった時に人を溺れさせます。ですから、そのような場所では注意喚起に素直に従うべきです。

 この事故調レポートは多くの専門家が多角的に、しかも科学的に検討した結果に基づいています。状況証拠を矛盾なく説明することはできました。しかしながら、最期のことは亡くなられた方にしかわかりませんので、あくまでも推定であることを申し添えます。

参考

 水難学会では、同時に3人以上が亡くなった水難事故に独自活動として事故調査委員を派遣し、その結果を分析しています。今後、このような形で水難事故調レポートを過去のものから順次公開していきます。