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「裸足で海水浴」は時代遅れ?マリンシューズが必需品になった理由

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
夏の海水浴は日焼けにも注意(筆者撮影)

 いよいよ夏休み到来です。数あるレジャーの中で、夏休みの定番といえば海水浴。このニュースをお読みの読者の中にも、この夏、海水浴の計画を立ててらっしゃる方が大勢いらっしゃることでしょう。今年の海水浴は、ちょっと変わったファッションで楽しんでみませんか?

最新の海水浴ファッションは?

 子供と一緒に海水浴デビューするパパ・ママが久しぶりに足を踏み入れる海水浴場の雰囲気は、学生時代とだいぶ変わっているのではないかと心配ですね。例えば15年前だと水着・水中めがね・浮き輪というのが定番でした。時代が変わり、今では海水浴に遊びに行く皆さんは次のようなものを準備していくようです。

水着  最近の男性ものでは特に露出が抑えられてます。

ゴーグル  衝撃で割れない、サングラス効果、度付きなど機能性に優れています。

ラッシュガード  上半身を隠すとともに、日焼け止め効果、保温効果に優れています。

マリンシューズ  砂浜の熱さ防止、水に浮くシューズだと「ういてまて」効果も期待できます。

ライフジャケット  浮き輪よりも断然安心です。

 そのほかに、スノーケル・マスク・フィンの3点セットで遊泳を楽しむ方もおられます。

ラッシュガードとマリンシューズは必需品

 若い時と違い、夏の日差しの下で体を焼くと、日焼けのために背中はヒリヒリ、胸はかゆいのに痛くてかけないなど、海水浴から戻った後は、つらい1週間を過ごすことになります。無理せず、ラッシュガードを上半身に着用して、できるだけ日に焼けないようにしましょう。

 足元にも要注意です。足の甲は意外と日よけを忘れてしまう場所です。気が付かずに放置しておくと、夜には大きな水泡ができるほどのひどいやけどを負ってしまいます。そこで活躍するのがマリンシューズです。これを履くことによって、足の甲の日焼けを防止するばかりでなく、砂浜の熱からも足を守ってくれます。炎天下での砂浜の表面温度は60℃にも達します。普通に裸足で立っているだけでも足裏をやけどしてしまいます。

ラッコ浮きにチャレンジ

 マリンシューズには、やけど防止ばかりでなく、水難事故から命を守る効果もあります。遊泳するなら、ライフジャケットを着用したいところですが、なかなかそこまで手が回らなかったご家族もあるかもしれません。そのときは、海で遊ぶ前に、いま小学校で流行りの「ういてまて教室」を家族で開いて、マリンシューズを履いて、ラッコ浮きと呼ばれる背浮きのコツを体得してみませんか。

 海は河川と違って塩分濃度が高いので、体が浮きやすくなっています。誰でも、とても簡単にラッコのように浮くことができます。そのラッコ浮きの仕方を写真を交えながら説明しましょう。

 まず、練習場所には波の穏やかな、遠浅の砂浜を選んでください。家族で一斉にやりたいところですが、パパかママは交代で見張りながら、子供たちと一緒に練習します。水の深さは子供の胸くらいにします。

 練習にはマリンシューズあるいはビーチサンダルを履きます。図1aのように全員で一列に並び、背の高い人は深いほうに位置します。見張りのパパ・ママはさらに深いほうに立って、家族が背浮きのまま深いほうに流されないように監視します。見張り役の掛け声とともに、図1bのように海岸線に平行になるように体を寝かしてみます。そうすることで割と簡単に図1cのラッコ浮きの姿勢になることができます。そして、息をはいたらすぐに吸うことを繰り返してしばらくそのままの姿勢で浮いています。1分ほど浮いたら、交代します。ラッコ浮きから立つときには図1dのように腰を引いて頭を立てながら1回顔を沈め、両手を前方に押し出すようにして反動を得て、足を水底につけて立ち上がります。靴の浮力が強く、その影響で最初は立ち上がるのが難しいかもしれません。見張りのパパ・ママは立ち上がるのを手助けしてあげてください。

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図1 ラッコ浮きの練習方法。安全な場所で練習したい。(筆者撮影)
図1 ラッコ浮きの練習方法。安全な場所で練習したい。(筆者撮影)

なぜ、人は浮くのか

 図1cはラッコの親子が集団で浮いているような、見事な背浮きです。なぜいとも簡単に人は浮くことができるのでしょうか。

 人間は、呼吸によって水に浮いたり沈んだりします。それは体のかさ比重で決まります。図2を使って説明しましょう。人間の体は空気を吸った状態、すなわち吸気状態でかさ比重がおよそ0.98になります。これは、真水に浮いたとき、全身のうち2%が水面に出て、98%が水面の下になるということです。気を付けの姿勢ですと、頭の先端が水面に出る感じです。

 この状態で両手を上げると、手の先端が水面に出て、顔が沈みます。反動が付きますので、かなり速く体が水底に向かって沈んでいきます。そのため、溺れたときには、手を振って誰かに自分が溺れていることを知らせては絶対にいけないのです。

 さらに、「助けて」と声を出せば、つまり呼気状態では肺の空気が減ってしまい、かさ比重は1.03程度となり、意識を失えば、そのまま水底に沈んでしまいます。

図2 かさ比重と浮き沈みの関係(画像制作:Yahoo!JAPAN)
図2 かさ比重と浮き沈みの関係(画像制作:Yahoo!JAPAN)

 ちなみに、海水ではさらに浮きやすくなりますので、吸気状態なら4%程水面に出ますが、呼気状態だとやはり沈んでしまいます。かさ比重が海水の比重より高くなるからです。

 物理で考えれば、確かに人間が浮く原理はわかるのですが、垂直姿勢では呼吸することができません。浮いても息ができなければあまり意味がないですね。

ラッコ浮きの仕組み

 ならば体を水平にすれば、ラッコ浮きになり、呼吸ができるようになるのではないでしょうか。図3aのように気を付けのままラッコ浮きになったらどうでしょうか。残念ながらこの姿勢では体の浮力の中心と重心の位置がずれて、図3bのように足から沈んでしまいます。そこで、水に浮く靴の登場です。靴を履くことによって図3cのように浮力の中心が足のほうにずれて、それぞれの中心が一致してバランスよく浮くことができます。これで顔の部分が水面上に出て、口鼻で呼吸ができます。靴の浮力の重要性がおわかりいただけたでしょうか。

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図3 ラッコ浮きの原理。靴の浮力で人は浮いていられる。(筆者作成)
図3 ラッコ浮きの原理。靴の浮力で人は浮いていられる。(筆者作成)

おわりに

 マリンシューズには浮力の強いものから弱いものまであります。安定したラッコ浮きのために、できるだけ靴底の厚いシューズを選んでください。

 和歌山県では、ラッコ浮きの練習をやってから海水浴を楽しんでいた親子が突然の流れで足の届かないところに連れていかれました。この時、練習が奏功し、まずしっかり浮いて呼吸を確保して、それから救助され生還しました。もちろん、ライフジャケットを着ることが一番重要ですが、自然はいつ何時牙をむくかもしれません。何があっても自分の命は自分で守ることができるように準備をしておきたいものです。

 今年の夏は、関東地方から北の太平洋側でいつもより寒いようです。こういう時には日本海側はたいてい良い天気です。しかも夏場の日本海の波は穏やかです。新幹線や高速道路で東京から直結の新潟県、新潟県に面した日本海で海水浴を楽しんでみませんか?

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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