6月に入って全国的に臨時休校が解除され、学校は活気を取り戻しつつある。ただし、新型コロナウイルス対策を意識した生活上の悩みや疑問を募るYahoo!ニュース記事には、「部活動も再開し、コロナ前とほぼ変わらない生活が突然戻った」と戸惑う声も寄せられている。

 授業では厳格な新型コロナ対策が続く一方で、部活動は大会に向けて練習試合が始まるなど、両者の対策の落差を疑問視する声が教員からも聞かれる。なぜ、部活動は日常を取り戻し、授業は取り戻せないのか。熱中症の季節を迎えて、備えは十分か。とくに部活動で熱中症が起きやすいという最新知見とともに、安全対策の方途を探る。

■部活動は特別扱い?

平常化した部活動

 6月から全国的に学校が再開された。分散登校の学校では学級内の子どもは半数のみで、お互いの距離を空けて座る。国語や社会などの授業では、話し合いはおこなわない。給食の配膳と校内の清掃は、教員が担当・・・。学校再開とはいえ、従来の姿に戻るには、まだ時間がかかる。

 とりわけ子どもどうしの接触回避が難しいとされるのが、体育の授業だ。器具や道具を共有することは避けて、一人ひとりが距離を空けるかたちで、走る、ダンスをする、なわとびをするといった工夫がほどこされている。

 しかし同じ学校のなかでも授業と部活動で対策の度合いがかなり異なっているとの声が、教員から漏れ聞こえてくる。体育では新型コロナウイルスの感染予防に力が注がれていても、運動部活動ではそれが大幅にゆるめられているというのだ。両者間の対策の落差は、いまのところ一部の学校や部活動にとどまっていると思われるが、そうは言っても部活動が「特別扱い」されていることについては検討が必要だ。

(写真:アフロ)
(写真:アフロ)

臨時休校期間中も部活動

 学校再開の前、3月から5月にかけての臨時休校期間中も、部活動は「特別扱い」されていた。春休みに部活動を再開した地域は多くある。もちろん、春休みなので授業はない。

「例年の長期休暇のときも、授業はなくても部活動はある」と主張することもできるが、今回の春休みは、まったく意味がちがう。コロナ対策として学校がやむなく休校になった。そして大人の労働や生活においてもさまざまな自粛が求められ始めたなかにあって、部活動だけがなぜか再開されるのだ。

 愛知県においては、さらに不思議な事態が起きた。学校の臨時休校がつづくなかにあって、県教育委員会は3月9日付の通知で、春休み前の3月12日から19日まで、県立高校における部活動の再開を認めたのであった(3/10『毎日新聞』、3/14『中日新聞』)。4月以降の公式戦に向けて練習なしで挑んだ場合に負傷事故が起きやすくなるというのが、容認の理由だ。公式戦の開催を前提として、部活動が特権的に取り扱われた。

補習はないが部活動はある

 愛知県教育委員会が部活動再開を容認した当時、文部科学省は「部活動は学校の教育活動の一環として行われるものであり、今回の臨時休業期間中は、部活動の実施は基本的には自粛されるべきものと考えます」(一斉臨時休業に関するQ&A)との立場をとっていた。国が部活動の自粛を要請するなかで、県教委が独自に再開を決めた。

 ただしここで重要なのは、教育委員会としては、臨時休校中に部活動にくわえて補習も実施できるようにしていたことだ(3/12『教育新聞』)。つまり、単に部活動のみの再開を認めたわけではなく、補習すなわち学習にもしっかりと配慮している。

学校の教育活動における授業と部活動との関係性 ※筆者が作図
学校の教育活動における授業と部活動との関係性 ※筆者が作図

 だがさらに重要なのは、こうした方針が学校に降りたときに何が起きるかということだ。

 ある県立高校では教育委員会の通知を受けて、春休み前までの期間における学習活動と部活動の方針を保護者宛に発表した。それは、学習活動としては教室を開放し(いわゆる自習)、部活動としては平日2時間の活動が実施できるというものであった。教育委員会としては補習も部活動も認めているが、この高校では補習はおこなわれずに自習の場が開放されただけであったが、部活動については顧問からの指導がおこなわれた。学校が最優先で取り組むべきは、はたして部活動でよいのだろうか。

■あやうい「自主性」

走ってはならない廊下を走る

 なぜ部活動は、特別扱いされるのか。それは、部活動の時間帯に廊下がトレーニングの場になるという現状をもって、説明することができる(詳しくは、拙稿「部活動でなぜ廊下を走る? 制度設計なき慣行の現在から未来を構想する」)。

 部活動の練習時に、廊下を走ることは、学校の日常風景である。だが放課後の部活動が始まる直前まで、廊下を走ることは禁じられている。転倒や衝突などの事故を防止するためである。部活動の時間になれば、急に廊下が安全になるわけではない。それにもかかわらず廊下を走ることが容認されているのは、部活動が自主的な活動に位置づけられているからである。

 中学校や高校の学習指導要領には、部活動とは「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」ものと定められている。

 授業においては、体育は体育館やグラウンドでというように、活動内容に応じた場所が用意されている。仮に体育の際に、体育館に生徒があふれかえった場合には、体育館あるいは学校をもう一つつくるというのが、制度上の真っ当な対応である。

 ところが部活動は、「自主的」なものであるために、制度的に十分な準備ができていない。そこで一斉に部活動が実施されるために、活動場所が足りなくなってしまうのだ。なお、不足しているのは活動場所だけではない。人(指導者)も足りていない状況で、運動部顧問の半数は、当の競技種目が未経験である(日本スポーツ協会による調査)。

(写真:無料写真素材 写真AC)
(写真:無料写真素材 写真AC)

制度のなかにあるのに制度の手が及びにくい

 「自主的」であるとは言え、学習指導要領には、部活動は「学校教育の一環」と明記されている。名実ともに部活動は、学校教育制度のなかに位置づけられている。

 だが、学校の本務である授業とはちがって、「自主的」なものとされる。制度のなかにあるのに、制度の手が及びにくい。これが部活動の正体である。

 先に述べたように、臨時休校期間・春休み期間・学校再開後のいずれにおいても、部活動は特別扱いされてきた。授業は休みでも、部活動は実施される。体育では厳格にコロナ対策がなされても、部活動ではそれがゆるくなる。それらはすべて、「自主的」という部活動の曖昧な位置づけがもたらす結果である。

 運動部活動は、試合出場に向けてそれなりに厳しい練習をたくさんおこなうわけだから、現実的に体育の授業よりは、事故が起きやすくなるだろう。それはやむをえない側面があるけれども、だからと言って、部活動では廊下を走ってよい理由にはならないし、素人の教員が指導する理由もない。スポーツをおこなう際の人的・物的な資源の配分を含めた安全な環境の整備に関して、授業と部活動との間に差があってはならない。

土台としての安全なスポーツ環境の整備

 私は、運動部の活動をやめるべきと主張したいのではない。制度のなかにあるのに制度の手が及びにくいことによって、同じ学校教育でありながら、体育と運動部活動の間に、不合理な環境整備の格差ができあがっていることが問題なのである。

 安全を目的とした環境整備は、各種教育活動の共通の土台として据えられなければならない。そのうえではじめて、授業や部活動、行事などの活動が構想される。

 そこでようやく優先順位を検討する段階となる。学校の本務といえる授業は、最優先事項だ。授業を平常化した後に、部活動も授業に準ずるかたちで平常化する。手順を踏みながら、部活動の再開が目指されるべきである。

 

(写真:無料写真素材 写真AC)
(写真:無料写真素材 写真AC)

■熱中症事故 体育と運動部活動の極端な差

熱中症と新型コロナウイルス感染症

 これからの季節、体育や運動部活動を実施するに際して、もっとも危惧されるのは、熱中症である。

 とりわけ、新型コロナウイルス感染症と熱中症は、リスク対策としてはトレードオフ(あちらを立てればこちらが立たず)の関係にあり、相性が悪い。感染症予防のためにマスクを着用すべきだが、熱中症予防のためにはマスクははずしたほうがよい。また、感染症予防のために窓を開放すべきだが、熱中症予防のためには窓を閉めたうえでエアコンを稼働させたほうがよい。一般的にエアコンは室内の空気を取り込んで冷やしているだけであるため、換気したことにはならない(詳しくは、厚生労働省「『新しい生活様式』における熱中症予防行動のポイント」)。

ある公立校のグラウンドの熱中症指数(2019年9月) ※公立校教員より筆者に提供
ある公立校のグラウンドの熱中症指数(2019年9月) ※公立校教員より筆者に提供

 学校再開後の教育活動により、新型コロナの感染がどれほど子どもの間に拡がるか、私には予測がつかない。ただ、熱中症については、毎年多くの子どもが病院に搬送されていることはたしかである。リスクは、コロナだけではない。

熱中症の死亡事故 運動部活動が8割

 日本スポーツ振興センターの「学校事故事例検索データベース」を用いて2005~2018年度における死亡見舞金の支払い事例を調べると、小学校・中学校・高校における熱中症の死亡事故は24件が確認できる。一年あたり平均1.7件である。熱中症にはいっそうの注意が必要であるように思われる。

図1 熱中症による死亡事故の学校種(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図
図1 熱中症による死亡事故の学校種(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図

 学校種別では図1のとおり、小学校が1件(4.2%)、中学校が4件(16.7%)、高校が19件(79.2%)と、圧倒的に高校で死亡事故が多く起きている。

図2 熱中症による死亡事故の活動状況(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図
図2 熱中症による死亡事故の活動状況(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図

 活動状況別では図2のとおり、体育・体育祭等・休憩時間・登下校等がいずれも1件(4.2%)ずつで、運動部活動が20件(83.3%)と大多数を占めている。なお運動部活動20件のうち、中学校は2件、高校は18件である。

 熱中症による死亡事故の防止については、とりわけ高校の運動部活動に集中的な対策が必要である。

中学校運動部の熱中症 体育の10倍

 日本スポーツ振興センターは、『学校の管理下の災害』という災害共済給付の報告書を毎年刊行している。報告書には、同センターより病院の医療費(5,000円以上)が支払われた各種事故事案の件数が示されている。2018年度の熱中症に関していうと、中学校では2,912件、高校では3,554件が報告されている。

 まず、具体的なデータ分析として、体育の授業と運動部活動との間で、熱中症の発生状況(医療費支払件数)を比較してみよう。その際に、代表的なスポーツ事故として、医療費支払い件数が多く確認されている骨折、捻挫、脱臼、挫傷・打撲、靱帯損傷・断裂の各発生状況を一つの基準として参照することで、熱中症における体育と運動部活動との差を明らかにしたい。

図3 中学校:骨折ならびに熱中症が起きた活動状況(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図
図3 中学校:骨折ならびに熱中症が起きた活動状況(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図

 図3は、2016~2018年度の中学校における、骨折と熱中症それぞれの医療費支払い事例について、その活動状況別の内訳を示したものである。中学校では骨折は一年あたり平均で99,497件が、熱中症は2,314件が確認されている。その内訳をみると、骨折に比べて熱中症では、体育の割合が小さく、運動部活動の割合が大きいことがわかる。

図4 中学校:運動部活動における各種事故の発生倍率(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図
図4 中学校:運動部活動における各種事故の発生倍率(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図

 この点をさらに掘り下げるために、図4では、中学校における各種活動状況のなかで体育と運動部活動のみの数値に着目した。骨折、捻挫、脱臼、挫傷・打撲、靱帯損傷・断裂と熱中症の各件数について、2016~2018年度の間に運動部活動では体育の何倍の事故が起きているかを倍率により示した。

 骨折、捻挫、脱臼、挫傷・打撲、靱帯損傷・断裂は、1.7倍~2.5倍の範囲内にとどまっているのに対して、熱中症では極端に数値が跳ね上がり、体育の10.2倍の事故が運動部活動で発生している。

高校運動部では体育の16倍

 高校の場合には、上記の傾向はさらに強くなる。図5と図6は、さきほどの中学校の図3と図4の数値を、高校の数値に置き換えたものである。

図5 高校:骨折ならびに熱中症が起きた活動状況(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図
図5 高校:骨折ならびに熱中症が起きた活動状況(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図

 高校では骨折は一年あたり平均で64,191件が、熱中症は2,746件が確認されている。図5のとおり、中学校同様にその内訳は、骨折よりも熱中症において、体育の割合が小さく、運動部活動の割合が大きい。

図6 高校:運動部活動における各種事故の発生倍率(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図
図6 高校:運動部活動における各種事故の発生倍率(2016~2018年度) ※筆者が算出・作図

 そして図6からは、骨折、捻挫、脱臼、挫傷・打撲、靱帯損傷・断裂については、部活動の事故件数が体育の2.0倍~3.2倍の範囲内にとどまっているのに対して、熱中症については倍率が極端に高くなり、体育の15.7倍の事故が運動部活動で発生していることがわかる。高校では、骨折等の倍率も中学校よりは高いものの、それを考慮してもなお、熱中症の15.7倍というのは中学校よりも大きな差となってあらわれている。

 このように中学校と高校のいずれにおいても、骨折等の各種事故を参照したときに、熱中症は体育よりも運動部活動でとりわけ起こりやすく、かつその傾向は高校においてより顕著である。この知見は、先に示した熱中症の死亡事故の分析において、高校の運動部活動の死亡事故が突出して多いこととも符合する。

完全再開までには5週間が必要

 これまで学校管理下の熱中症については、体育か運動部活動かにかかわらず運動全般に幅広く目が向けられてきた。その見方が重要であることは言うまでもないが、とくに運動部活動には、いっそうの予防策が求められる。

 運動部活動はともするとその「自主性」を理由に、安全の確保がおろそかになりがちだ。地方大会に向けて各学校の部活動が、授業に先んじて日常を取り戻すなか、急ぎすぎてはならないことを最後に強調したい。

 千葉大附属病院スポーツメディクスセンターが6月8日に発表した「新型コロナウイルスから体育・スポーツを安全に再開するためのガイドライン」(図7)は、とても有用である。これは「現場の先生が運用しやすい形でのガイドライン」として作成されたもので、「特に活動自粛により低下した心身を元気にするため」に、段階的な再開手順が紹介されている。

 ガイドラインによると、学校再開後1~2週間においては、「週2回程度の実施」で「軽い運動に留める」ことが推奨される。そこから徐々に運動量を増やしながら、完全な活動を取り戻すまでには5週間を要するという。6月に学校を再開した場合には、7月に入ってから日常の活動ができるということになる。「休校で身体がなまっているだろう」と、いきなり本格的な練習は危険である。

 学校の部活動は、自主性の名のもと、学校教育制度のなかにあるのに制度の手が及びにくいという状況に置かれてきた。それは、学校再開後の現在においても、さまざまな場面で部活動が特別扱いされるという事態を生んでいる。だが、学校教育として引き受けたからには、指導内容を含めた広い意味での安全な環境というものは、授業と同じ水準で整備されることが望ましい。

 学校の臨時休校期間中、私たちはずっと、子どもの安全・安心を考えつづけてきた。この姿勢が、今後のあらゆる学校教育活動の土台になってほしいと、私は願っている。

図7 部活動における段階的な再開の目安 ※千葉大学医学部附属病院スポーツメディクスセンター「新型コロナウイルスから体育・スポーツを安全に再開するためのガイドライン」より転載
図7 部活動における段階的な再開の目安 ※千葉大学医学部附属病院スポーツメディクスセンター「新型コロナウイルスから体育・スポーツを安全に再開するためのガイドライン」より転載

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