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中学生の半数「つらくても毎日学校行くべき」

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(写真:アフロ)

 交通事故や殺傷事件、虐待、体罰、いじめ、自死など、子どもの安全・安心がおびやかされる事案が、相次いで報道されている。

 この数年、子どもの自死についてはとくに長期休暇や連休が明けるタイミングへの関心が高まっている。休み明けの登校圧力が、子どもに多大な心的負荷を与えるからである。

 今回、ゴールデンウィーク中に実施した中学生への全国調査からは、約半数の生徒が「つらくても学校に毎日行くべき」と考えていることが、明らかとなった。

【子どものみなさんへ】

こまったこと、なやんでいることがあったとき、声をきいてくれるおとなは、たくさんいます。この文のさいごに、相談(そうだん)できるところを、まとめておきました。ぜひ、参考(さんこう)にしてください。

■学校に行くべきというプレッシャー

18歳以下の日別自殺者数 ※『平成27年版自殺対策白書』より転記(ただし、オレンジ色の丸枠は筆者が追記)
18歳以下の日別自殺者数 ※『平成27年版自殺対策白書』より転記(ただし、オレンジ色の丸枠は筆者が追記)

 内閣府が2015年8月に発表したデータは、衝撃的であった。

 18歳以下の子どもについて、「過去約40年間の日別自殺者数をみると、夏休み明けの9月1日に最も自殺者数が多くなっているほか、春休みやゴールデンウィーク等の連休等、学校の長期休業明け直後に自殺者が増える傾向がある」(内閣府『平成27年版自殺対策白書』)というのだ。

 長らくこの問題を訴えてきた『不登校新聞』編集長の石井志昂氏は、不登校の子どもを学校に戻すことが大人側の最終的なゴールになってきたと述べ、そうした志向が「いまの自分が存在ごと否定され、『学校へ戻れない自分はダメだ』『このままでは大人になれない』と将来を悲観する」ことになると警鐘を鳴らす(石井志昂「『学校へ戻すことがゴールじゃない』文科省が不登校対応の歴史的な見直しへ」)。

 学校に行けない子どもにとって、登校圧力はまさに多大な心的負荷や自己否定を生み出す。それが子どもから学校に通うこと以外の選択肢を奪い、休み明けの自死へとつながっていく。

■中学生の半数が「つらくても毎日学校に行くべき」

「『どんなにつらいことがあっても学校には毎日行くべき』と思いますか?」に対する回答(調査対象者全体の回答) ※筆者が分析・作図した
「『どんなにつらいことがあっても学校には毎日行くべき』と思いますか?」に対する回答(調査対象者全体の回答) ※筆者が分析・作図した

 今月3日~9日にかけて、NHKは全国の中学生を対象に、インターネットによる調査を実施した[注1]。私は企画の当初から調査に関わっており、今回その個票データをもとに、独自に分析をおこなった(調査結果の先行報道として、たとえば、NHK「不登校の原因 国とNHKのネット調査で大きな差」石井志昂「5人に1人が“隠れ不登校”」などがある)。

 調査では、「『どんなにつらいことがあっても学校には毎日行くべき』と思いますか?」という質問をたずねている。中学生の全体像としては、「行くべき」と回答したのが46.5%、「行くべきではない」と回答したのが53.5%である[注2]。

 くり返すが、質問は「どんなにつらいことがあっても学校には毎日行くべき」である。「どんなにつらいことがあっても」という厳しい条件のもとで、「毎日行くべき」とする回答が、ほぼ半数に達している。中学生自身が、全体として強い登校圧力にさらされていることがわかる。

■登校/不登校の間に大きな差

「『どんなにつらいことがあっても学校には毎日行くべき』と思いますか?」に対する回答(登校/仮面登校/部分登校/不登校別の回答) ※筆者が分析・作図した
「『どんなにつらいことがあっても学校には毎日行くべき』と思いますか?」に対する回答(登校/仮面登校/部分登校/不登校別の回答) ※筆者が分析・作図した

 次に、登校または不登校状況の程度による差を見てみよう。

 各回答者の状況を、「登校」(とくに大きな問題もなく学校に通いつづけた生徒)、「部分登校」(保健室登校や一部の授業のみに参加した生徒)、「仮面登校」(学校に通っているものの、「通いたくない」とほぼ毎日思っている生徒)、「不登校」(年間30日以上の欠席)の4つに分類して、「『どんなにつらいことがあっても学校には毎日行くべき』と思いますか?」に対する回答傾向を調べてみると、そのちがいは、明確にあらわれる。

 「登校」の生徒は、半数超が「行くべき」と答えている。他方で「不登校」の生徒でそう考えているのは、2割にすぎない。クラスの中では、「登校」の生徒が圧倒的に多いため、前段の中学生全体の数値でも実際に確認したとおり(「行くべき」が46.5%)、その声がクラスの空気をつくりだしているものと考えられる。

■家の中にも「居場所がない」

「昨年度(2018年4月~2019年3月)について、家の中に居場所がないと感じるときがありましたか?」に対する回答(登校/仮面登校/部分登校/不登校別の回答) ※筆者が分析・作図した
「昨年度(2018年4月~2019年3月)について、家の中に居場所がないと感じるときがありましたか?」に対する回答(登校/仮面登校/部分登校/不登校別の回答) ※筆者が分析・作図した

 そしてもう一つ指摘せねばならないのは、登校圧力が減じればそれでよいのかということである。

 たしかに「不登校」の生徒は、「行くべき」と答えた割合が小さい(「2割近くもいる」と考えることもできるのだが…)。その意味では、「登校」の生徒よりは登校圧力にさらされていないと言える。

 だが、「昨年度(2018年4月~2019年3月)について、家の中に居場所がないと感じるときがありましたか?」という質問への回答を見てみると、「感じた」との回答が「不登校」の生徒で3割に達している。対照的に、「登校」の生徒は1割にも及ばない[注3]。

 登校圧力は相対的に低く、学校からは離脱できた。しかしながら家庭での状況をたずねてみると、そこが必ずしも居心地のよいものとはなっていないようである。

 これまで子どもに関わる課題群というのは、「学校の課題」と「家庭の課題」に分断されてきたように私は感じている。だが、子どもは家庭と学校の間を行き来する。子どもの目線から見たときに、学校や家庭はどう見えるのか。子どもの声にもっと耳を傾けていく必要がある。

【こまったこと、なやんでいることがあったときに、あなたの声をきいてくれるおとなたち】

チャイルドライン 18さいまでの子どもがかける電話

 電話:0120-99-7777(むりょう)

 ※インターネットでチャットもできます

子どもの人権110番

 電話:0120-007-110(むりょう)

児童相談所全国共通ダイヤル

 電話:189

●交番

●こども110番の家

  • 注1:2019年5月3日~9日にかけて、LINE上でアンケートを実施した。まずは、昨年度に中学生だった約18,000名に対してプレ調査をおこない、次に本調査を2,500名に対して実施した。登校状況の内訳は、「不登校」+「部分登校」+「仮面登校」の生徒が約2,000名、その統制群として「登校」の生徒が約500名である。なお分析に際しては、性別・学年・登校状況について、回答者の偏りを補正するために重み付けをおこなっている。
  • 注2:質問に対する回答の選択肢は、とてもそう思う/まあそう思う/あまりそう思わない/まったくそう思わないの4段階であり、この記事の本文中では前二者を「行くべき」、後二者を「行くべきではない」とまとめている。
  • 注3:質問に対する回答の選択肢は、とてもよく感じていた/よく感じていた/たまに感じていた/まったく感じていなかった/答えたくないの5段階。「答えたくない」は数%であったため、一律に分析からはずした。4つの選択肢について、この記事の本文中では前二者を「感じた」、後二者を「感じなかった」とまとめている。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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