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5人に1人が“隠れ不登校” 中学生1万8000人への調査で判明

石井志昂『不登校新聞』代表
不登校と“隠れ不登校”の割合(NHK調査より作者作図)

 NHKが昨年度、中学生だった約1万8000人に対し、LINE上でアンケートをとったところ、中学生の23.7%、およそ5人に1人が言わば“隠れ不登校”であることが明らかになりました(※)。

 隠れ不登校とは下記2つの状態に該当する生徒を指します。

・部分/教室外登校(保健室登校や一部の授業のみに参加する生徒など)

・仮面登校(ほぼ毎日、学校に通いたくないと思っている生徒)

 全中学生に占める割合は、部分/教室外登校の生徒が14.3%、仮面登校の生徒は9.3%。いずれも不登校の定義である年間30日以上の欠席数に満たない生徒ですが、「心は不登校」であり、平常の学習活動は困難になると言われています。

 調査によれば、隠れ不登校の中学生は推計で74万人。不登校の中学生は約11万人(文科省調査)。その7倍近い生徒が隠れ不登校だったのではないか、という調査結果が出たわけです。今回は隠れ不登校について解説していきたいと思います。

昔から指摘されてたが驚きの数字

 20年以上前から「不登校の実数は国が調査した数よりも3倍はある」と言われていました。その根拠となっていたのが部分登校/教室外登校の人たちの存在です。しかし、正直なところ私は今回の結果に驚きました。ここまで多いとは思わなかったからです。あらためて不登校は氷山の一角であり、学校で苦しんでいる子が多いことを思い知らされました。

隠れ不登校はもっと多い

 一方、隠れ不登校の推計74万人については、もっと多いとも予想されています。というのも、この推計には小学生と高校生の「隠れ不登校」が入っていないからです。

 とくに小学生の隠れ不登校は、かなり多いのではと考えられます。

 2018年12月に、日本財団が同様の隠れ不登校の調査を行なっています(不登校傾向にある子どもの実態調査)。この際、現役中学生に学校でのようすを聞いたところ、小学生時代に隠れ不登校だった人が11.8%いました(中学生に小学生時代のことを聞いていますので「参照結果」にとどめる必要はあります)。

 また、現在、不登校の子たちが集まるフリースクールには、小学生の入会や相談が相次いでいます。千葉県のフリースクールネモ代表の前北海さんは「小学生の不登校の相談は、全体の半数程度」だと語っています。

 日本財団の調査や現場感覚をあわせると、小学生の隠れ不登校は興味深いものがあります。

問題の本質は出席数ではない

 隠れ不登校の調査結果が示したのは「問題の本質は学校の欠席数ではない」ということです。調査では皆勤賞の生徒でも隠れ不登校(仮面登校)の状態だった人もいました。なぜ隠れ不登校になるのか、その背景には、いじめ、教師との関係、校則などに苦しんでいる実態があることも今回の調査でわかりました。こうした困難さを「本人が抱え込まされていること」が問題の本質です。出席数や教室の中にいるか否かなど表面だけを見ても本質は見えません。

今後、求められる対応は

 では隠れ不登校に対する対策はどうすればいいのか。まずは国が実態を調査すべきです。

 隠れ不登校に関する調査は、今回のNHK調査と日本財団の調査の二つが出ました。両調査では、隠れ不登校の数字に差異が出ています(NHK調査23.7%、日本財団調査10.2%)。隠れ不登校に関する質問項目は、ほぼ同一です。この差異がなぜ生まれたのかは、さほど大きな問題ではありません。

 大きな問題は、国が隠れ不登校の人たちをまるごと見過ごしており、一度も調査したことがないことです。国が実態調査を行ない、それに伴った相談体制と居場所への支援が求められます。

親は独自に動くしかない

 一方、隠れ不登校の子を持つ親はどうすればいいのか。残念ながら、国の対策は大掛かりなものになり、改善までには時間がかかることが多いです。一例をあげれば、不登校の子には「休養の必要性もある」という民間団体なら当たり前の結論を、国が出すのには50年以上の時間がかかりました(2016年「教育機会確保法」の制定)。

 学校で苦しむ子を持つ親は、国の結論に期待するのでは残念ながら遅いのです。そこで、私が不登校について取材をしたなかで得た結論の一つを紹介しますので、ご参照ください。

子どもの気持ちに寄り添う

 第一に、親がするべきことは、学校へ行く、行かないにかかわらず、子どもの様子が心配ならば率直に子どもの気持ちを聞くことです。子どもが話し始めたら最後まで否定せずに聞き、子どもの気持ちから今後の方針を考えることです。

 念のため、お伝えしますが、すべての子が「学校へ行きたくない」わけではありません。また不登校をしたら一生ひきこもるわけでもありません。国の調査では8割以上の人が高校へ進学し、2割以上の人が年内に学校へ再登校しています。そういったこともありますので、学校が無理そうならば、やはり一時期は子どもと学校の距離を取ってほしいと思っています。ただし親も先生も気がつかずに本人がとても傷ついていた場合は、長期間の休養時間が必要不可欠となります。

 最後になりましたが、親の方には、ぜひ自信をもって子どもに現在の気持ちを聞いてほしいと思っています。国や学校よりも親を信頼している子どもは多いです。学校で苦しむ子は、苦しい気持ちを親から理解されること、いっしょに課題と向き合ってもらうこと、その二つがなによりの力になることを親の方に知っていただけたら幸いです。

(※調査期間2019年5月3日~5月9日/調査主体・NHKスペシャル「学校へ行きたくない中学生43万人の心の声(仮)」取材班/調査協力LINEリサーチ)。

『不登校新聞』代表

1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクールへ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2020年から『不登校新聞』代表。これまで、不登校の子どもや若者、親など400名以上に取材を行なってきた。また、女優・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねてきた。著書に『「学校に行きたくない」と子どもが言ったとき親ができること』(ポプラ社)『フリースクールを考えたら最初に読む本』(主婦の友社)。

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