「教師の一日」労基法の休憩 記載されず 先生はなぜ休憩がとれないのか?

学校の先生たちは、休憩時間の取り方を「知らされていない」(写真はイメージ)

■過酷な勤務 GWの出勤も代休なし

公立の学校現場はしばしば、労務管理の「無法地帯」と呼ばれる。

出退勤も管理されず、残業代も支払われない。GWに出勤しても、代休もない。教員を労働者として適正に管理するという発想そのものが、根本から欠落している。

そして教員の多忙化をめぐる議論のなかで、すっかり見落とされてきたのが、一日の勤務における「休憩時間」の確保である。先生たちの日常からは、おおよそ休憩時間の枠が設定されている様子が伺えない。さらに、そのことを指摘する議論もわずかである。

このようなブラックな勤務状況について、教育行政はどのような指導をしているのだろうか。各教育委員会が作成する初任者研修用の資料を入手して調べたところ、「教師の一日」の流れのなかに、「休憩時間」が明記されていないことが浮かび上がってきた。

■休憩時間を「とっていない」「知らない」

教員の半数は所定の休憩時間数を知らない(連合総研『とりもどせ!教職員の「生活時間」』)
教員の半数は所定の休憩時間数を知らない(連合総研『とりもどせ!教職員の「生活時間」』)

休憩時間について、先生たちが実質的に休憩を「とっていない」ことと、そもそも先生たちが所定の休憩時間について「知らない」ことを、私は各種調査の結果から明らかにしている(拙稿「『休憩できない』教員の一日」)。

実際に先生たちに「休憩時間は何時から何時まで?」と質問すると、多くの場合、「えっ?」と戸惑いの声が返ってくる。そしてそれに続くのは、「休憩なんてない」という答えだ。

学校現場には労働基準法が適用されるので、形式的であっても、休憩時間は必ず設定されている。だが、「休憩なんてないよ」という回答にあるとおり、実質的に休む時間がないほど慌ただしいため、労基法にもとづく休憩時間がいつに設定されているのか、知る必要がないのである。

この「知らない」ということは、重大な問題である。知っていれば、いまの働き方が違法であることに気づき、言語化して問題視することができる。知ったからと言ってすぐに改善できるわけではないが、問題であることに気づいていないよりは、はるかにマシだ。

■教員における休憩時間の特殊性

都教組のサイトに示されている設定例。休憩はやむなく終業15分前に設定されている。
都教組のサイトに示されている設定例。休憩はやむなく終業15分前に設定されている。

教員が「知らない」のだとすれば、それはなぜなのか。

その問いに答える前に、教員においてはその勤務内容の特性から、労基法上の休憩時間の設定に3つの類型があることを、理解しておく必要がある。

公立校教員の所定労働時間は7時間45分である。6時間を超えているため労基法第34条により、45分以上の休憩が必要になる。なお第34条に記載されているとおり、休憩時間は、(1)労働時間の途中に設けること、(2)一斉に与えること、(3)自由に利用させることが、原則とされる。

民間企業であれば、昼食時に一時間程度の休憩時間が確保されることが多い。学校の場合も、お昼に休憩時間を設けている場合がある。これが第一の類型である。私が知る限りは、高校でこのかたちが多い。

だが、とくに小中学校では、教員は「給食」や「昼休み」には、子どもといっしょに過ごすことが求められる。そこで第二の類型として、放課後に休憩時間を置く場合がある。そして第三の類型に、お昼と放課後に分割して置く場合(たとえばお昼に20分、放課後に25分)がある。なお、これら休憩時間の設定は、各校で校長がおこなうことになっている。

■「とっていない」「知らない」そして「知らされていない」

イメージ
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ここで、「教師の一日」に細かく言及している、複数の自治体の初任者研修用資料[注]に目を転じたい。すると、資料に示されている「教師の一日」には、どうにも休憩時間の記載が見当たらないのだ。

たとえば埼玉県教育委員会の「平成29年度 教師となって第一歩」には、「教師の一日」の例として、出勤/職員集会/児童生徒集会/朝の会/授業/授業のない時間/休み時間/給食指導/清掃指導/帰りの会/放課後/会議等/出張(旅行命令)/退勤の、計14項目の仕事内容が、3ページにわたって詳細に説明されている。

まずもって、「教師の一日」の14項目に、「休憩時間」はない。そして、休憩時間を確保しうる「休み時間」「給食指導」「授業のない時間」「放課後」には、さまざまな職務内容が記載されているのみである。

その一部を抜粋すると、「休み時間」には「教師として次の授業の準備をする一方、児童生徒に優しい心とゆとりをもって接すること」、「給食指導」では「会食の楽しさを増すために、机の並べ方を工夫したり、教師がグループの中に入ったり、話題を考えたりする」、「授業のない時間」には「教材研究や次の授業の準備、テストの処理、学級事務、欠席者の家庭への連絡など」、「放課後」には「補充的な学習、さらには、生活や進路などの教育相談」にくわえて「職員会議、学年会、校内研修会、教科部会など」がある。いずれの時間帯にも、「休憩をとりリフレッシュしましょう」といった旨の記載は見当たらない。

教員の休憩時間は特殊なのだから、初任者の先生たちには丁寧な説明が不可欠である。だが、「教師の一日」にはさまざまな仕事が並べられるだけで、休憩時間をとる機会は「知らされていない」。

■学校現場に法律を

「教師の一日」の例(群馬県教委『子供とのふれあいを求めて』に掲載の複数頁にわたる図を集約)
「教師の一日」の例(群馬県教委『子供とのふれあいを求めて』に掲載の複数頁にわたる図を集約)

埼玉県の資料は、ほんの一例にすぎない。群馬県教育委員会の初任者研修用の資料においても、「教師の一日」の例が15項目、2ページにわたって紹介されているが、やはりその流れのなかに「休憩時間」は記載されていない。

埼玉県や群馬県以外にも、さらにいくつかあげることができるが、同じことのくり返しになるため、ここまでにしておこう。それらの資料ではしばしば、労基法第34条(労働時間と休憩時間の規定)に類する文言が掲載されていることはある。ただそれは基礎情報として、資料の片隅に掲載されているにすぎない。いざ具体的な「教師の一日」の流れになると、休憩時間に関する記載は見当たらない。

教員の休憩時間は、お昼にとればよいという単純なものではない。それだけに休憩時間については丁寧な説明が要請される。ましてや初任者に対しては、なおさらのことである。

それにもかかわらず、お昼(給食や生徒の昼休み)はもちろんのこと放課後も、さまざまな職務内容が示されているだけである。これでは、教育行政が労基法違反を推奨しているようにさえ見えてしまう。

教員が休憩時間を「とっていない」「知らない」ことの背景には、休憩時間がいつ設定されうるのかを教育行政から「知らされていない」という実態がある。

「無法地帯」の学校現場には、法律の知識が必要である。それを伝えるのは、教育行政の仕事だ。教員がみずからの境遇を知って、それを言語化する。そのプロセスを経て、学校内部から声が上がり始めたとき、教員の働き方改革は一気に加速していくはずである。

  • 注:初任者研修用の資料は、はじめて教職に就く者に対して、職務の全体像が詳細に説明されている。さらにそうした資料は、多くの教育委員会がウェブ上に公開しているため、複数地域の状況を検討することができる。
  • 本文中のイメージ写真は、「無料写真素材 写真AC」より入手した。