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「金正恩の後継者」はやはり娘の「ジュエ」か!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
海軍の式典に現れた金正恩総書記の娘(朝鮮中央通信から)

 昨日(8月28日)は北朝鮮にとっては海軍の日(海軍節)である。

 朝鮮人民軍海軍が創設されたのは建国(1948年9月9日)から1年後の1949年なので今年は74周年で、言わば節目の年ではない。それでも金正恩(キム・ジョンウン)総書記は創設日を祝って、海軍司令部を訪れた。それも「ジュエ(主愛)」とおぼしき例の娘を随行させていた。

 金総書記が公式活動に娘を伴うのは実に久しぶりで、5月16日に偵察衛星発射準備委員会を訪れて以来である。

 金総書記の娘が初めてお披露目されたのは2022年11月18日に新型大陸間弾道ミサイル「火星17」が発射された時だ。朝鮮中央テレビが「火星17」の発射場に「金総書記が愛するお子様と夫人と共に出向いた」と伝え、写真まで公開したことで判明した。

 続けて、11月26日に「火星17」の発射成功に寄与した科学者・技術者らと記念写真に収まった時は北朝鮮のメディアは娘を「尊貴なお子様」と紹介し、さらに今年2月7日の朝鮮人民軍建軍節75周年記念宴会に出席した際には「尊敬するお子様」との敬称が付けられていた。

 しかし、翌8日の建軍75周年の軍事パレードを母親の李雪主(リ・ソルジュ)夫人と共に雛壇から観覧した時は娘の敬称は再び「愛するお子様」に戻っていた。この月は17日に金正日(キム・ジョンイル)前総書記生誕記念体育競技を観戦し、また25日には平壌市西浦地区の新しい通りの建設着工式に父親に同行したが、いずれも「愛するお子様」と紹介されていた。

 実名は伏せられても、この時までは労働新聞には必ず「金総書記がお子様と~」と言及されていたが、状況が変わったのは3月に入ってからで、9日の新型小型弾道ミサイル発射に立ち会った時からはその種の表現は消え、全く報道されなくなってしまった。

 それでも3月18-19日の核戦術核運用部隊の核反撃仮想総合戦術訓練に立ち会った時は公開された写真9枚のうち2枚に、また4月13日の新型大陸間弾道ミサイル「火星18」の発射現場に随行した時も写真26枚のうち5枚に娘は写っていた。そのうち1枚は母及び叔母の金与正(キム・ヨジョン)副部長も一緒だった。

 娘は父親の偵察衛星関連の視察にも随行しており、4月18日には宇宙開発局を、また5月16日には偵察衛星発射準備委員会を訪れていたが、この時も報道での言及はなく、4月18日の時は公開された写真9枚のうち8枚に、また5月16日は8枚のうち7枚にその姿があった。

 それが、今回、再び金正恩総書記が「愛するお嬢様と共に」と報道されたのである。

 朝鮮中央通信によると、2人が到着すると、「海軍将兵は意義深い創建節に無上の栄光と特典を受けることになった感激と歓喜に満ちて熱狂の歓呼を上げ、また上げた」とのことである。

 配信された22枚の写真のうち12枚に娘が写っていた。その中には軍幹部らと整列し、海軍儀仗隊の分列行進に接見する写真や作戦指揮所で海軍司令官から作戦に関する状況報告を受けている写真、さらには式典で軍最高幹部らと並んで着席している写真も含まれていた。これまでとは明らかに異なる対応で、まさに超VIP、極端に言えば、後継者並みの扱いだった。

海軍儀仗兵の行進を接見する金親子(朝鮮中央通信から)
海軍儀仗兵の行進を接見する金親子(朝鮮中央通信から)

 韓国情報機関「国家情報院」(国情院)は金総書記には子供が3人いるとみていた。

 第1子が2010年生まれ(13歳)、第2子が2012年生まれ(11歳)、そして第3子が2017年生まれ(6歳)とみなし、金総書記が連れ立っているこの娘をプロバスケットボール(NBA)の元スター選手、デニス・ロッドマン氏が2013年9月に訪朝し、金総書記の別荘に招かれた際に紹介された「ジュエ」という名の第2子と結論付けていた。

 「国情院」はこの娘を第2子と判断した根拠について「背が高くて、図体が大きいとの既存の情報と一致していたから」と説明したうえで、第3子の性別は不明としながらも第1子についてはほぼ間違いなく「男の子」と特定していた。今年3月に開かれた国会情報委員会でも「第1子は息子と把握している」と報告していた。

 ところが、「国情院」は最近になって「第1子長男説」は「確実ではない」と慎重な姿勢に転じ、北朝鮮担当部署の統一部の権寧世(クォン・ヨンセ)前長官にいたっては「『ジュエ』と呼ばれる娘以外には確認されていない。息子がいるかも確認できていない」と言い始めたのである。

 それもこれも、金総書記が10代の頃の1998年から2000年までスイスのベルン国際学校に留学していた時の同級生、ジョエル・ミカエロ氏が今年5月24日に、米ラジオ・フリー・アジア(RFA)の電話インタビューで金総書記から「男の子の話は全く聞かされなかった」と証言したからである。

 ミカエロ氏は金正恩政権が発足した年の2012年7月と翌2013年4月に2度にわたって金総書記に招待され、訪朝しているが、「息子の話は全く聞かされていない」とインタビューで答えていた。さらに、2012年に訪朝した時は金総書記が催した小宴で李夫人と妹の与正氏を紹介され、その際、金総書記から夫人が妊娠していることを直接聞かされ、翌年に再訪朝した際にも「妻が娘を産んだ」という話を聞かされたと語っていた。

 仮に李夫人が2010年に出産しておらず、2012年に産んだ娘が第1子ならば、「ジュエ」が後継者と目されたとしても決して不思議ではない。

 まして仮に、華々しく登場したこの娘が2010年生まれの第1子ならばなおさらのことである。

(参考資料:崩れた!?「金正恩の第1子は息子」説 第2子とされていた「ジュエ」が第1子ならば、後継者の可能性も)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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