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台風の被害に怒り心頭の金総書記!3年前と同じく江原道の幹部らを叱責! 今度は誰の首が飛ぶ!?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
台風6号の被害地を視察する金正恩総書記(朝鮮中央通信から)

 この夏は台風6号に続き、7号も暴風圏内地域に水害被害など甚大な被害をもたらしたが、6号が縦断した朝鮮半島でもそれなりの被害を被ったようだ。

 韓国に上陸した台風6号は8月11日午後には勢力が衰え、北朝鮮の首都、平壌の西北西70キロの海上で低気圧に変わったことで北朝鮮は韓国ほど大きな被害を被ることがなかったと伝えられている。

 それでも、韓国と軍事境界線を接している江原道の高城郡では20時間に324ミリの豪雨を記録し、そのため大雨と高潮で堤防が決壊し、200ヘクタール余りの農地が冠水し、それに金正恩(キム・ジョンウン)総書記が激怒したようだ。

 金総書記は「他の地域に比べて多くの被害を受ける結果を招いた」として、その原因は「この地域の農業指導機関と党組織の甚だしく慢性化されて無責任な活動態度にある」と怒りを露わにしたようだ。特に、金総書記は被害防止対策を講じるように指示していたのに「鈍感にもいかなる対策も立てなかった」と、地元の党及び行政幹部らを叱責していた。

 しかし、客観的にみると、韓国でも慶尚南道や全羅南道などの農地約1000ヘクタールで農作物の浸水や落果が発生していることや韓国側地域の江原道・高城郡でも大雨により道路が冠水し、住宅の浸水が19件もあったこと、さらに台風6号が8月11日午後には勢力が弱まり、低気圧に変わったことで北朝鮮の他の地域を直撃しなかったことなどを勘案すると、この程度の被害ならば致し方ないのかもしれない。実際に北朝鮮の報道によれば、冠水した農地は早い時間内に復旧され、農作物も最大限に保護されたようだ。

 北朝鮮側の江原道地域は3年前の2020年9月にも台風に直撃されている。中心都市・元山市(人口約36万人)は降水量が9月2日から3日にかけて200ミリに達する暴風雨に見舞われ、北朝鮮当局の発表では、9月4日の時点で数十人の死者が出ていた。

 当時、北朝鮮当局は「台風による人民の被害を防ぐよう対策を命じた党中央委員会の決定と指示を思想的に受け止めないでその執行を疎かにし、事前に住民を危険な建物から避難、疎開させなかった」として、人命被害をもたらした江原道及び元山市の幹部らの怠慢を「反党行為」とみなし、「党的、行政的、法的に厳罰に処する」ことを公言していた。

 金総書記が懲罰を公にしたのは2013年12月に公の場で叔父・張成沢(チャン・ソンテク)党行政部長兼国防委員会副委員長の解任を発表し、「反党行為」で処刑して以来であった。懲罰対象者は党員資格の剥奪、解任、そして最悪の場合、実刑が宣告される。

 北朝鮮当局がこれほどまでに厳罰を課すことになったのは金総書記が8月25日に主宰した党中央委員会政治局会議で台風被害防止に関する指示文を出していたからに他ならない。

 金総書記は政治局会議で「台風による人命被害を徹底的に防ぎ、農作物被害を最小限にするのは労働党にとって重大な問題である」と強調し、「幹部らは党員と勤労者らに台風被害防止事業の重要性と危機対応方法を正確に知らせ、台風被害を事前に防ぐための対策を講じるよう」命令していたのである。

 この時は総理に任命されたばかりの金徳訓(キム・トククン)政治局常務委員が直前まで江原道の金化郡と平康郡を視察し、現地で会議を開き、台風9号への対策まで協議していた。それが一転、現地の幹部が「怠慢である」と金総書記から罵られたのは8月26日から27日にかけて黄海南道など西部を襲った台風8号が「被害の規模が予想よりも少なかった」(金総書記)ことと無関係ではなかった。

 金総書記は被災地の黄海南道の銀波郡大青里などを視察した際「すべての党組織と活動家たちが危機対応意識を持って台風被害を徹底的に防ぐことに関する党中央の指示を受け、即時に安全対策を講じた結果、人命被害を減らし、各部門別の被害規模を最小限にとどめることができた」と被害が少なかったのは自らが適切な指示を出し、それを黄海南道では忠実に履行したからであると言っていた。それだけに江原道・元山での被害状況が許せなかったようだ。

 当時の江原道の党の責任者(書紀)は2019年4月に党政治局員候補に昇格したばかりの朴正男(パク・ジョンナム)氏で、行政の責任者は崔一龍(チェ・イルリョン)江原道人民委員会委員長だったが、責任を取らされ、解任されたのは金正日(キム・ジョンイル)前政権下の2009年に労力英雄の称号を授与された朴党書記で、金総書記は後釜に人民軍総政治局長だった金守吉(キム・スギル)現平壌市党書記を据えていた。崔人民委員会委員長はどういう訳か咎められなかった。

 現在、江原道党書記は今年1月に就任したばかりの白成国(ペク・ソングック)氏であるが、前例に従えば、白書記は責任を免れないであろう。また一度ならず、二度もとなると、崔委員長の首も飛ぶかもしれない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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