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日韓首脳会談での「岸田発言」を韓国メディアはどう受け止めたのか? 訪韓前と首脳会談後の社説を比較!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
ソウルで開催された首脳会談での岸田文雄首相と尹錫悦大統領(大統領室から)

 岸田文雄首相が1泊2日のソウル訪問を終え、今日帰国する。

 昨日(7日)行われた尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領との首脳会談では3月の東京会談に引き続き、安全保障や経済問題での協力強化が確認された。また、懸案の福島原発汚染水の海洋放出問題では日本が韓国の専門家による現場視察団を受け入れることで進展を見た。

 この他にも19日から広島で開催される主要7カ国首脳会議(G7サミット)に尹大統領を招待することや韓国人広島原爆被災者慰霊碑への両首脳の共同参拝も決まった。

 韓国国民が最も注目していた元徴用工問題など「過去史の問題」については岸田首相は「当時、厳しい環境の下で多数の方々が大変苦しい、そして悲しい思いをされたことに心が痛む思い」と述べ、「困難な時期を乗り越えてきた先人たちの努力を引き継ぎ、未来に向けて尹大統領をはじめ韓国側と協力していくことが日本の総理としての私の責務だと考えている」と、東京会談よりもやや踏み込んだ発言を行っていた。

 岸田首相のこの発言を韓国の世論がどう受け止めるかで今後の日韓関係を占うことができるが、その意味では岸田首相訪韓後に実施される韓国の世論調査がポイントとなる。

 どの国でもそうだが、世論調査に一定の影響力を及ぼすのがメディアである。今回の首脳会談を韓国のメディアはどう評価したのか?訪韓前と首脳会談後の5紙の社説を取り上げてみた。

(参考資料:韓国のメディアが一斉に「次は日本が譲歩する番」 「岸田訪韓」を前に元徴用工問題で謝罪を求める韓国)

 △保守紙「中央日報」

 前回「岸田総理が誠意をもって供応すべき番である」(5月2日付)

 「岸田総理の今回の答礼訪問は両国関係の雰囲気を変える大切な機会として生かすべきである。そのためには岸田総理の旅行カバンの中に幾つか誠意ある供応すべき措置が入っていることを期待して止まない(中略)一つは、強制徴用被害者らに対する明白な謝罪と過去史謝罪に対する前向きな言及である。尹大統領が国内の政治的損害を甘受して韓日関係改善のため前向きな強制徴用解決策を示しただけに岸田総理が真心を持って供応すべき番である」

 今回「韓日シャトル外交復元 真の未来協力に向けた第一歩になるよう」

 「何よりもG7首脳会談期間中に尹大統領と岸田首相が広島原爆韓国人被害者の慰霊碑を一緒に参拝して過去史問題を治癒しようとする試みはシャトル外交再開の成果とみれる。岸田首相は記者会見で『(植民地時代)当時厳しい環境の下で多数の方が大変苦しく、悲しい思いをしたことに心が痛む』と発言した。例え個人的な考えだと線を引いたとしても既存よりも一歩前進的な立場とみることができる。(中略)一口目で満腹にはならない。両国が徐々に認識の共通点を拡大し、積集合を増やしていくことが最初のボタンを掛けた関係復元を加速化させる現実的な方法である」

 △中立紙「国民日報」

 前回「今度は岸田の番 韓日未来は彼の回答にかかっている」(5月3日付)

 「韓日関係と韓米日協力の未来のため、今は100の未来志向的な措置よりも歴史問題に対する真心のこもった一言が大きな力を発揮する時だ。歴代政府の認識を継承するとした3月の首脳会談の水準を越えた謝罪と反省の真心を見せれば、両国関係にとって大きな里程標となるであろう。慰安婦及び強制徴用被害者らに直接会うのが最も望ましい」

 今回「12年ぶりのシャトル外交復元 未来に向かう韓日関係になれば」

 「関心を集めていた過去史の言及は原論的な水準で終わっていた。(中略)岸田総理の言及は我々の期待に添わなかったことは残念な部分だ。過去史を除く部分では一定の進展があった。(中略)韓日関係は1、2度の会談では良くならない。日本の歴史認識を我々の意に添って正すのは現実的に不可能な側面がある。3月の首脳会談以後も繰り広げられた日本の独島(竹島)領有権主張と教科書歪曲はやっと造成された両国の和解雰囲気に逆行した。しかし、過去史の問題があっても両国は緊密に解決しなければならない懸案が山積している。解決できない問題は未来の課題として、国益のための実用外交を繰り広げる知恵が必要だ。12年ぶりに再開された韓日シャトル外交が両国の発展的未来に向けた一歩となることを期待する」

 △政府批判紙「京郷新聞」

 前回「韓国に来る岸田総理・『コップの残り半分を満たせ』」(5月3日付)

 「隣国の間で首脳が行き交うのは歓迎すべきで、長期間中断していたシャトル外交が復活するのも意義深いことだ。しかし、今は正直、快く受け入れる気分にはなれない。尹政権の性急かつ軽率な韓日関係復元努力と国民の自尊心を著しく棄損させた言行や過去史問題『他人事』のように見てきた日本政府の態度がこうした後味の悪い雰囲気にさせたからである。(中略)岸田総理は訪日した尹大統領との首脳会談で過去史謝罪を省略し、『(韓国が)先にコップに半分注いだので、残りの半分は日本が』との期待を壊してしまった。(中略)岸田総理は韓国世論のこうした雰囲気を注意深く見て、誠意のある訪韓準備に万善を期すべきである。何よりも強制動員被害者らを含め過去史に対する真心のこもった謝罪が必要である。歴代総理の発言を繰り返す程度では韓国の世論を動かすことはできない。福島原発汚染水の放流など敏感な懸案についても誠意ある態度で臨んで欲しい」

 今回「最後まで過去史反省と謝罪の期待に反した韓日首脳会談」

 「岸田総理が過去史問題との関連で東京会談の時になかった新たな言及を追加したのはそのとおりだ。しかし、反省と謝罪の表現とみることはできない。何よりも『強制動員』という歴史的な事実や被害者について正確に言及しなかった。曖昧に『苦しく悲しい経験』をした人々に対して『心が痛む』との心情を表しただけだ。『苦しく悲しい経験』の原因が日本帝国主義の植民地支配にあった事実も明かさなかった。物足りない内容の発言も共同声明のような文書でなく、記者会見での発言、それも『個人的な心情』の表現であったことに失望する」

 △経済紙「ソウル経済」

 前回「未来志向関係復元のため日本の総理は誠意ある供応措置を示すべき」(5月3日付)

 「何よりも重要なのは尹大統領が強制徴用解決策として前向きな『第3者弁済』方策を提示しただけに岸田総理の誠意のある供応措置が供わなくてはならない。そのためには強制徴用被害者と我が国民に真心のこもった慰労と反省の意を明らかにすべきである。韓日経済経済界がつくった『未来青年基金』に日本の被告企業が積極的に参加する後続措置も取られるべきだ。岸田総理は過去の総理の歴史認識を継承するという式の迂回的な謝罪ではなく、直接『痛切な反省と謝罪』の意を表明すべきである」

 今回「日本 もっと誠意ある供応措置で『韓日未来パートナー』となれ」

 「岸田総理が強制徴用に対する個人的な遺憾を表明したが、過去史問題に対する反省と謝罪には及ばなかった。尹大統領が『過去史は完全に整理されなければ両国が未来協力に一歩も前に出れないとの認識から抜け出すべである』と言ったことに岸田総理は進んで韓国の被害者と国民を慰労する前向きな姿勢を示すべきだ。そうしてこそ両国は安保と経済、文化の分野で協力を拡大する関係に躍動することができる。(中略)日本はドイツの歴代指導者がアウシュビッツ強制収容所を訪れ、跪いて戦争犯罪を謝罪し、欧州各国の協力を引き出したことから学ばなければならない」

 △地方紙「釜山日報」

 前回「岸田総理来週訪韓 日本が誠意を示す順である」(5月2日付)

 「今度は日本が韓国に誠意を示す番だ。1998年に発表された金大中・小渕宣言には日帝の植民地支配に対する日本の反省と謝罪と未来志向的な韓日関係発展に関する内容が含まれていた。岸田総理は前回の首脳会談ではこうしたことに直接言及しなかったため日本側の供応が不足していると指摘されていた。ソウルで第二の『金大中・小渕宣言』が出れば良い。韓国の前向きな強制徴用解決策に今からでも積極的に供応し、未来を共に切り開く意志を示してもらいたい」

 今回「韓日協力強化 疎通のまな板に載った福島汚染水」

 「韓日関係の鍵は過去史問題の解決にある。今回の首脳会談で岸田総理が過去史の問題についてどの程度言及するのかが焦眉の関心事だった。しかし、岸田首相は『歴代内閣の歴史認識を継承する立場に揺るぎはない』と明かす程度に留めていた。謝罪と反省に言及しない3月の東京会談から一歩も前に出なかった。(中略)日帝占領期当時の強制徴用労働者らが経験した苦痛に対する遺憾表明だけでは不十分である」

 今回のソウルでの首脳会談については韓国の右派と左派を代表する「朝鮮日報」と「ハンギョレ新聞」も社説で取り上げていた。

 △「朝鮮日報」

 「岸田答礼訪問でシャトル外交復元 関係改善の返礼カードも出すべき」(5月8日付)

 「岸田総理は過去史問題との関連で歴代内閣の立場の継承は揺るがないとして『(植民地支配当時)厳しい環境の下で多数の方が大変苦しく、悲しい思いをしたことに心が痛む』と語った。『謝罪と反省』に言及する代わりに強度の低い遺憾を表明し、韓国社会の期待に及ばなかった。韓日両国はロシアのウクライナ侵攻、中国の周辺諸国を脅かす海洋進出で脅威は一層切実だ。北朝鮮の核とミサイル問題に共同で対応する必要性もいつにもまして高まっている。加えて、両国は経済危機、人口減少という似たような問題を抱えている。こうした状況下で過去にとらわれている時間はない。韓国の反日左派と日本の嫌韓右派に振り回されることなく未来に向かわなければならない。そのためには尹大統領が国内政治の負担を負いながら先導した韓日関係努力に岸田総理はより積極的に対応する勇気と誠意を見せなければならない」

 △「ハンギョレ新聞」

 「明白な過去史謝罪なく、『未来』だけを強調した韓日会談」(5月8日付)

 「今回の首脳会談は12年ぶりに日本の総理が両者会談のため訪韓し、『シャトル外交』の復元を大々的に伝える場となった。両首脳は『未来』を前面に出して経済と安保協力を押し出したが、過去史問題は歴史の正義を正す問題であるだけに無条件蓋を被せたままにして置くべき事案ではない。発展的な韓日関係は明白な歴史認識から始まることを忘れてはならない」

 その他のメディアも以下のような見出しを掲げ、社説で取り上げていた。

 「東亜日報」「岸田『心が痛む』・・・『個人的な遺憾』を越えた国民和解で未来を開け」

 「ソウル新聞」「未来志向安保・経済協力に傍点を打った韓日首脳」

 「メイル新聞」「日帝強制徴用被害『第3者弁済』論争にかたをつけよう」

 「韓国日報」「過去を乗り越えて安保・経済・未来に向かう韓日首脳会談」

 「韓国経済」「苦労して復元した韓日シャトル外交・・・未来に向かわねば」

 「ファイナンシャルニュース」「北核共助強化と経済協力復元で合意した韓日首脳」

(参考資料:「岸田首相訪韓」で注目される5つのポイント)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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