Yahoo!ニュース

日韓首脳会談に関心の薄い韓国メディア 社説で取り上げたのはたった3紙 日本に「前向きな姿勢」を促す

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
岸田文雄首相と尹錫悦大統領(内閣広報室から)

 カンボジアの首都・プノンペンで11月13日に日韓首脳会談が開かれた。正式な日韓首脳会談としては実に3年ぶりである。

 韓国の大統領室の説明では岸田文雄首相と尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領は日韓の懸案である元徴用工問題を早期に解決することで意見の一致を見たようだ。また、昨日、大統領室高官は「徴用問題の解決策について密度のある協議が進められている」として、「解決策が絞られている」との認識を示していた。

 両首脳が元徴用工問題の早期解決に向けて意気投合したことは望ましいことだが、具体的にこの問題をどのように決着を付けようとしているのかについての言及はなかった。

 解決策が示されなかったこともあって韓国のメディアの反応も薄く、日韓首脳会談を社説で取り上げたメディアは保守紙「東亜日報」と「文化日報」それに政府に批判的な「ソウル新聞」の3紙しかなかった。どれもこれも日本に前向きな姿勢を求めていた。社説の一部を抜粋してみる。

 ▲東亜日報「韓日首脳『徴用問題を早期に解決・・・日本の実質的態度変化が鍵』」(11月15日)

 「両首脳が9月にニューヨークで短時間の会談を行った時にも強制労働の問題は議論されたが、日本政府は会談そのものを「懇談」と格を下げ、重要視しなかった。今回の会談で両首脳が公式に問題解決の意思を示したことは今後の実務者交渉に力が加わり、条件が整った。尹錫悦政権が発足以来、韓日関係の改善に取り組んできたことで強硬姿勢だった日本側の気流も徐々に変わってきている」

 「だからと言って、日本の態度が根本的に変わったとは言い難い。両国関係には日本製鉄などの加害企業が被害者らに直接賠償するのではなく、民間財団で資金を集め、支給する案が論議されている。被害者らは加害企業が基金造成に参与し、謝罪してこそこのアイデアを受け入れられるとの立場だ。しかし、該当企業は資金を拠出することすら難色を示しているようだ。また、松野博一官房長官は14日に強制徴用問題について『一貫した立場』に基づき韓国と意思疎通を行うと述べていた。依然として問題解決の責任を韓国に擦り付けている」

 「このような状況にもかかわらず、韓国政府は年内に解決策の突破口を見い出す ことを目標に交渉を加速化させる方針だ。しかし、韓国政府が急いだからといってどうこうできる事柄ではない。被害者が納得し、国民が共感できる解決策を見つけることが強制徴用問題解決の鍵である。そのためには日本企業が賠償金の財源造成に加わり、半導体素材輸出規制を解除するなど日本側はまず最小限の誠意を示す必要がある。プロセスと内容が関係改善のスピードと同じくらい重要であるという事実を韓国政府は看過してはならない」

 ▲ソウル新聞 「韓日首脳が共感した『強制動員』解決速度を上げるべき」(11月15日)

 「今回の首脳会談は2012年8月に李明博(イ・ミョンバク)元大統領が独島(竹島)を訪問して以来停滞していた10年にわたる両国の関係の中で最も友好的で濃密なものだった。朴槿恵(パク・クネ)元、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領の相手だった安倍晋三元首相とは慰安婦問題や強制動員確定判決(大法院判決)により会談らしい会談ができなかった」

 「韓日首脳は北朝鮮の核への対応では意見の相違はなかった。しかし、大法院の判決以来4年間、韓国と日本との間で報復戦争が続けられた強制動員問題では合意が見られなかった。それでも会談で示された相互の国益のため共通点を見つけようとする両首脳の前向きな姿勢により外交解決に円滑な機能を果たしてくれるとの期待感を持たせてくれた」

 「最大の課題は、韓国の司法が賠償を命じた三菱重工業や新日鉄住金などの日本の被告企業の賠償参加問題である。日本は1965年の韓日協定で個人の請求権は消滅し、2018年の判決は消滅した請求権を認めたという点で国際法に違反していると主張している。従って、日本企業は賠償する理由はないとし、安倍政権は『賠償不可』のガイドラインを課していた。国際司法裁判所(ICJ)で争う素地もあるが、そうなれば両国は関係破綻の覚悟が必要しなければならない」

 「仮に両国国民を満足させることが不可能であっても、原告と被告がある程度納得できる案で理解を求める必要がある。来春予定されている福島の(原発)汚染水(処理水)の放出のような大きな懸案を考えると時間は残されていない。解決できない外交上の難問はない。韓国が強制動員問題を解決する決意が確固なだけに,日本にも誠意を示してもらいたい。失われた韓日10年が続けば、両国の国益の損失は計り知れない」

 ▲文化日報「日米韓の最初の声明・・・電気自動車 ·過去の履歴解決も高速化する必要がある」(11月14日)

 「(韓米日)3国間の協力を円滑に進めるためには2国間で先に解決しなければならない課題がある。(中略)日韓首脳会談後、岸田文雄首相は「戦時徴用問題解決の重要性を尹大統領と確認した」と述べていた。韓国側に『先解決』を要求していたことを考えると、変化が感知される。両国は徴用賠償判決問題を迅速に解決するために協力すべきである。すでに『文喜相(元国会議長)案』など現実性のある代替もすでに提示されている」

 これら3紙のほかに「聯合ニュース」が「韓日関係復元に向けた一歩・・・日本は『強制徴用』にもっと前向きの姿勢を示せ」(11月14日)との見出しを掲げ、「今回の首脳会談を通じ、冷え込んだ韓日関係の回復に向け流れが進んだものと評価される。しかし、強制徴用問題は解決するための突破口を開くうえでもう少し時間をかけ、議論する事案として残ったままである」と指摘し、「日韓首脳会談での合意は過去に文在寅政権下で『効力終了通知留保』という曲折を経たGSOMIA(日韓軍事情報保護協定)を正常化させ、日韓軍事協力拡大の道を開くものと評価される。しかし、韓日軍事協力の拡大は国内で賛否両論があり、いつでも論争を引き起こす可能性のある不安定な問題である。韓日協力問題が進展するには韓日間の信頼回復が先決である。その意味では日本政府は強制徴用問題の解決に向けより積極的な姿勢をとるべきである」と日本に注文を付けていた。

(参考資料:韓国で嫌われている麻生さんがなぜ訪韓?)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

「辺真一のマル秘レポート」

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

辺真一の最近の記事