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韓国と北朝鮮の発表 どちらが正しいのか? ミサイル発射の謎?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
3日に発射されたICBM(左)と「火星15」(中)と「火星17」(労働新聞から)

 北朝鮮が11月2日から5日まで発射したミサイルについての韓国と北朝鮮の発表、見解が真っ向から食い違っている。

 北朝鮮は10月31日から11月5日まで韓国で実施された米韓空中連合訓練「ビジランド・ストーム」に対抗して、人民軍が2日から5日まで軍事演習を行い、ミサイルを発射した。このうち議論を呼んでいるのは2日と3日に発射されたミサイルと4日に動員された戦闘機の数である。

 韓国は11月2日に北朝鮮が戦術誘導ミサイル「SRBM」を午前6時51分に4発、8時51分に3発、地対空ミサイルを9時12分に10発、午後4時半から5時10分まで6発追加発射したと発表していた。

 このうち江原道・元山から8時51分に発射された3発のうち1発が海の境界線である「NLL」(北方限界線)を越え、韓国の領海付近に着弾したとして韓国軍は報復措置として午前11時から12時までにF―15K,KF―16を出撃させ、精密空対地ミサイル3発を「NLL」の北側に向け発射した。

 韓国の発表では北朝鮮がこの日、発射したミサイルの数は計23発となるが、北朝鮮人民軍総参謀部の発表(7日)では「敵が南朝鮮(韓国)の領海近くに我々のミサイルが落ちたと主張して空対地誘導弾と滑空誘導爆弾で我が方の公海上に対応射撃する妄動を振るった」として北朝鮮は午後に巡航ミサイルを2発発射し、「蔚山市の水域に打ち込んだ」としている。しかし、韓国はそうした事実はないとして、北朝鮮の発表は「嘘」と反論している。

 謎1.巡航ミサイルは韓国の公海に向け発射されたのか?

 「巡航ミサイルは発射されていない」とする韓国側の根拠として▲米韓が空中訓練を行っており、ミサイル挑発に厳戒態勢を敷いている状況下にあり、発射されたならば軍事衛星、空中早期警報器、イージス艦レーダーなど米韓の監視、探知システムによって捕捉されたはずである▲落下したとされる「蔚山市の水域」で操業中の漁船や船舶からの目撃情報もないことなどを挙げ、結論として国内向けに軍事力を誇示する必要性からまた、韓国情報当局の分析を攪乱するため意図的に虚偽の情報を流したとみている。

 一方、「発射された可能性がある」根拠としては▲北朝鮮の発表が「咸鏡北道地域から590.5キロメートル射程の南朝鮮地域の蔚山市の前方80キロメートル付近の水域(緯度3529′51.6″、経度13019′39.6″)の公海上」と具体的である▲巡航ミサイルは低空飛行が可能で、レーダーをかいくぐることができる▲今年1月25日の長距離巡航ミサイル2発を韓国は発射時間も地点も、方向も事前探知できなかった前例があることなどが指摘されている。

 謎2.発射したICBMは「火星17」なのか、「火星15」なのか?そして失敗したのか?

 韓国側は3日午前7時40分に平壌順安から発射された長距離弾道ミサイルは「火星17」(最高高度1920km、飛行距離760km)であるとみなし、「1段推進体と2段推進体の分離には成功したものの弾頭部が飛行中に推力を失い、東海(日本海)に落下したようだ」と発表していた。

 失敗の根拠として韓国は▲日本列島を飛び越えず消失した▲速度がマッハ15程度で、マッハ20に届かなかった▲北朝鮮の発表にはICBMの発射については一言も触れていなかった▲北朝鮮は3月24日にも「火星15」を「火星17」と称して「発射に成功した」と嘘をついたことがある点などを指摘している。

 これに対して北朝鮮は「敵の作戦指揮システムを麻痺させる特殊機能戦闘部の動作信頼性検証のための重要な弾道ミサイル試射を行った」として「火星15」に似たミサイルの発射写真を公開していた。

 写真を見る限り、「火星17」でなく、限りなく「火星15」に近い。これについて韓国側は3月24日の時と同様に「偽造である」と主張している。

 北朝鮮が「火星15」を公に発射したのは後にも先にも2017年11月29日に発射した1回のみである。この時は深夜(午前3時32分)に発射されていた。仮に今年3月24日に発射されたICBMも「火星17」でなく、「火星15」だとしても、この時は白昼(午後2時33分)に発射されていた。北朝鮮が今回公開した写真の背景を見ると、真夜中でもなければ、白昼でもないことがわかる。明らかに日が明けた午前7時過ぎに発射されている。

 北朝鮮が明らかにした「敵の作戦指揮システムを麻痺させる特殊機能戦闘部」とは電磁波爆弾(EMP)を指すと言われている。核弾頭の上空爆発などを利用したEMP爆弾を意味しているならば、失敗ではなく、意図的に特定の高度で爆発させた可能性が考えられる。実際に北朝鮮はすでに9月末から10月初めに「戦術運用部隊」の訓練の時もEMP攻撃に活用できる弾頭ミサイルの「上空爆発」について言及したことがあった。

 謎3.北朝鮮の戦闘機は本当に500機出撃したのか?

 北朝鮮は4日に「敵の連合空中訓練に対する対応意志を示す目的で3時間47分にわたって500機の各種戦闘機を動員した空軍の大規模な総戦闘出動作戦が行った」と発表しているが、韓国は当日に「180回の飛行航跡が記録された」と発表していた。

 機体が老朽化し、燃料不足の北朝鮮が延べ4時間の間、500機を動員するのは不可能であるというのが韓国側の見方で、労働新聞に掲載された戦闘機訓練も「捏造写真の可能性が高い」とみている。

 総じて、韓国側は▲北朝鮮が失敗を隠すため▲軍事的に劣勢であることを隠すため▲虚勢を張るための「虚偽主張」▲国内の結束を図るための「内部向け宣伝」であるとの見方を崩していない。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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