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原子力空母で威嚇しても止められない北朝鮮のICBM発射と核実験

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
米原子力空母(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

 米海軍の原子力空母「エーブラハム・リンカーン」(全長333メートル、10万トン級)が昨日(12日)、韓国南東部の蔚山沖の公海上に入った。

 米空母が朝鮮半島沖、日本海に入るのは2017年11月以来、4年5カ月ぶりである。米国の空母派遣は15日の金日成(キム・イルソン)主席生誕110周年や25日の朝鮮人民革命軍創設90周年に合わせて北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射や核実験を行う可能性があるとみて、牽制することに狙いがある。

 米韓合同軍事演習の事前演習となる危機管理参謀訓練(CMST)が始まった12日に入港したことから韓国海軍との合同訓練が取り沙汰されているが、合同演習をやるやらないに関わらず、この時期に最新鋭戦闘機「F―35」や「FA―18」など約80機の航空機を搭載し、原子力潜水艦やイージス駆逐艦などから成る船団を率いた空母が日本海に入ったこと自体が北朝鮮への睨みを利かせることになる。

 しかし、原子力空母が朝鮮半島近海に出動するのはなにもこれが初めてではない。近年では2016年に米韓合同軍事演習期間(3月7日―4月30日)中に原子力空母「ジョン・C・ステニス」(全長333メートル、10万トン級)が朝鮮半島沖に入港していた。

 戦闘機や早期警報機など100機の航空機とヘリが搭載された「ジョン・C・ステニス」は米軍のアフガニスタン侵攻を支援した原子力空母として知られていた。米韓合同軍事演習には4万トンを超える強襲揚陸艦2隻とイージス駆逐艦「ラッセン」や「フィッツジェラルド」も参加し、「F―22」ステルス戦闘機、「B52」核戦略爆撃機も加わった軍事演習は史上最大の規で行われた。

 また、この年の夏の米韓合同軍事演習(8月22日―26日)では「ロナルド・レーガン」(全長333メートル、10万2千トン級)が派遣された。

 「ロナルド・レーガン」も「ジョン・C・ステニス」同様にサッカー場3個分に相当する1千8百平方メートルの広さの甲板に「FA-18」、電子機「EA-6B」,空中早期警報器「E-2C」など80余機が搭載されていた。

 翌年(2017年)の米韓合同軍事演習(3月13日―4月30日)には「カール・ヴィンソン」(全長333メートル、9万3千トン級)が投入されていた。

 駆逐艦と巡洋艦に護衛され就航することから「動く海上軍事基地」と称されている「カール・ヴィンソン」には爆撃機24機、対潜ヘリ10機、早期警報器4機など90機の他に地対空迎撃ミサイルSAMなど迎撃ミサイルが多数搭載されているた。この時の演習にでは核戦略爆撃機「B―52」やステルス戦略爆撃機「B-2」と並ぶ3大戦略爆撃機の一つである戦略爆撃機「B-1B」も2基投入されていた。

 別名「死の白鳥」と呼ばれる「B-1B」は在来式兵器で930km離れた場所から北朝鮮の核心施設を半径2~3km内で精密打撃が可能で、地下施設を貫通できる空対地巡航ミサイル24基が搭載されている。この時は米軍の先制攻撃がいつでも可能な状態にあった。

 さらにこの年の11月には朝鮮半島沖で11日から14日まで「ロナルド・レーガン」(全長333メートル、10万2千トン級)と「セオドア・ルーズベルト」(全長332メートル、10万4千トン級)、それに「ニミッツ」(全長333メートル)など3隻の原子力空母、及びイージス艦12隻と原子力潜水艦が動員され、前代未聞の海上演習が実施された。

 ではこれに北朝鮮はどう反応したのか?米国の圧力に屈してミサイルの発射を自制したのか?それとも意に介さず、ミサイルを発射して対抗したのか?

 北朝鮮は2016年春の米韓合同軍事演習に対しては3月10日に米空母や艦船が入港する釜山や米援軍が上陸する浦項を網羅する500kmのスカッド・ミサイルを、3月18日には射程1200kmのノドン・ミサイルを発射していた。さらに21日には短距離地対空ミサイル3発を、24日には米本土を標的にする長距離弾道ミサイルに使用される固形燃料用のエンジン噴射実験を行うなど米国を威嚇してみせた。極めつけは、3月26日に首都ワシントンを核ミサイルで攻撃する「最後の機会」とのタイトルが付けられた動画を公開したことだ。

 「世界の耳目を集める朝米対決は世紀を経て今も続いている」との字幕から始まる約4分間の映像の最後は「米帝が動けば、躊躇うこともなく核で先にやっつけしまう」として、艦対地ミサイル、潜水艦弾道ミサイル、ノドン・ミサイルの発射シーンが登場し、雲の中を飛んでいくミサイルが大気圏を突入し、さらに再突入してワシントンのリンカーン記念館前に着弾し、米議事堂が爆発し、米星条旗が燃える場面がコンピュータグラフィックで映し出されていた。 

 この年は4月に入っても北朝鮮のミサイル発射は止むことはなかった。15日に弾道ミサイル1発、23日に潜水艦弾道ミサイル(SLBM)1発、28日にも「ムスダン」と推定される中距離弾道ミサイルが2発発射されていた。

 北朝鮮は2016年の夏の米韓合同軍事演習の時は演習がスタートした日(22日)に人民軍総参謀部が「人民軍1次打撃連合部隊が先手を打って報復攻撃を加えられるよう常に決戦態勢を堅持している」との報道官声明を出し、24日には日本海に面した咸鏡南道新浦付近からSLBMを1発発射していた。SLBMは最長の500キロを飛び、日本の防空識別圏内に落下した。そして米韓合同軍事演習終了から一週間後の9月9日の建国記念日に5度目の核実験を強行した。

 また、2017年春の米韓合同軍事演習の時は3月22日から4月29日までの間に弾道ミサイルを計4発発射していた。このうち2発は射程が1000kmの中距離弾道ミサイル「スカッドER」だった。さらに、対南宣伝媒体である「我が民族同士」を通じて3月19日には「B-1B」と原子力空母「カール・ヴィンソン」を撃墜、撃沈する仮想映像も公開していた。

 2017年11月の時は11月29日に北朝鮮発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15型」の発射に成功している。

 原子力空母を目の前にICBMの発射や核実験はリスクが高いが、「喉元過ぎればなんとやら」で空母が去った後はこれまでのケースからしてボタンを押す可能性は高い。

(参考資料:刻々と迫る北朝鮮の7回目の核実験  過去6回(2006年~2017年)の核実験を検証する!)

(参考資料:北朝鮮は米国のレッドラインを越えるか?北朝鮮が保有する主なミサイル 短距離からICBMまで)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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