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金日成主席の実弟の元国家副主席の葬儀はなぜ国葬ではないのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
金日成主席の実弟で国家副主席を務めた金英柱氏(朝鮮中央テレビから)

 北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」が今朝、金日成(キム・イルソン)主席(1912年4月―1994年7月)の実弟であり、金正恩(キム・ジョンウン)総書記にとっては叔祖父にあたる金英柱(キム・ヨンジュ)最高人民会議常任委員会名誉副委員長の訃報を伝えていた。享年101歳である。

 日本の国会にあたる最高人民会議の代議員であった金英柱氏は2014年3月に行われた代議員選挙で金日成・正日(ジョンイル)親子を2代にわたって護衛した93歳の李乙雪(リ・ウルソル)元護衛司令官とともに再選を果たしていたが、5年後の2019年3月の選挙では代議員に選出されなかった。金英柱氏は2015年7月の地方議会議員選挙の投票所に姿を現したのが最後でこの6年間、動静は全く伝えられてなかった。

 「朝鮮中央通信」は金正恩総書記が哀悼の意を表し、霊前に花輪を送ったと伝えていたが、どうやら金英柱氏の葬儀は国葬ではなく、家族葬のようだ。

 金正恩政権(2012年~)になって死去した党幹部では元党検閲委員長の金国泰(キム・グッテ)、元党軍需工業部部長の全秉浩(チョン・ビョンホ)、94歳で亡くなった李乙雪、交通事故で亡くなった統一戦線部部長の金養健(キム・ヤンゴン)、外交担当書記の姜柱錫(カン・ソッチュ)、元国防委副委員長の金英春(キム・ヨンチュン)、98歳で亡くなった元第二経済委員会委員長の金鉄萬(キム・チョルマン)、金英柱氏同様に101歳で亡くなった朝鮮革命博物館館長の黄順姫(ファン・スンヒ)らの葬儀があったが、いずれも国葬だった。金国泰、姜柱錫、黄順姫の3氏以外は金正恩総書記自らが葬儀委員長を務めていた。

 金日成政権下で労働党No.2の組織指導部部長と国家副主席を、そして金正日―金正恩政権下の1998年から2019年まで約20年にわたって最高人民会議名誉副委員長を務め、最高勲章の金日成勲章に加え2012年には金正日勲章、さらには共和国英雄称号まで授与されている金英柱氏が国葬扱いされないのは不自然極まりない。

 金英柱氏の死去を伝えている日韓のメディアは金英柱氏が甥の金正日総書記との権力争いに敗れ、国家副主席に就任した1993年まで「島流しにされていた」と報じているが、1974年2月に副総理に任命されたばかりの金英柱氏が1975年から突如消息が途絶えてしまったことで「粛清説」や「島流し説」が流れたようだ。

 長きにわたる消息不明の真相は定かではないが、筆者は東欧諸国取材中の1974年に政府代表団団長としてハンガリーを公式訪問していた金副総理に会ったことがある。

 駐ハンガリー北朝鮮大使の立ち合いの下、ブダペストの北朝鮮大使館で1時間にわたって懇談したが、大変快活でユーモアがあり、兄の金主席と似てとても声が大きく、話し上手だった。

 ヘビースモーカーらしく、筆者にもタバコを勧めていたが、大使から事前に「副総理は健康を害して、医者から禁煙するように言われているので勧められても絶対に吸わないように」と注意されていたので「タバコは吸いませんので」と丁重に断ると、「タバコぐらい吸わないと立派な記者にはなれないぞ」とジョークを飛ばされたことを覚えている。

 その後、大使から金副総理が途中で体調を崩し、異例にも訪問日程を早め、途中帰国してしまったことを知らされていたので「失脚」ではなく、実際は病気治療のため長期療養していたのではないかと見ていた。

 金英柱氏にも金正恩総書記にとっては叔父にあたる子息がいるはずだが、今もって名前も分からず、またどのような要職に就いているのかもわかっていない。不思議な国だ。

(参考資料:金正恩総書記に後継ぎとなる子供は何人?)

(参考資料:「金正恩後継」の本命「与正」の対抗馬として名前が急浮上している叔父・金平日の実像)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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