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北朝鮮に「数日から数週間内」にミサイル発射の動き!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
今年3月25日に発射され、450km飛行した北朝鮮のミサイル(労働新聞から)

 米韓首脳会談(米国現地時間21日)から早10日が過ぎたが、北朝鮮は沈黙したままだ。

 米韓首脳が対話再開を求めても、米韓共同声明の中に北朝鮮の人権問題が取り上げられていても反応も、反発もしない。これだけの長期にわたる北朝鮮の無反応は過去に前例がない。通常ならば、北朝鮮は良くも悪くも米韓首脳会談には即座に反応していた。

 「異常現象」は他にもある。

 検討が終わった北朝鮮政策を説明するためのバイデン政権の接触打診にも5月初旬に「承った」と回答したきりで以後、何の動きもない。その一方で、北朝鮮外務省は米国務省の人権批判に5月2日、「それ相応の措置を取らざるを得なくなった」として「米国が必ず後悔するような措置を取る」と予告していたが、これまた音なしの構えだ。対米実務責任者である崔善姫(チェ・ソンヒ)外務第一次官にいたっては3月17日に談話を出して以来、米国に向けて一言も発信していない。

 金正恩総書記の実妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長も韓国の脱北団体が再び兄を非難するビラを散布したことに「我が国家に対する深刻な挑発と見なす」との非難談話を5月2日に発表し、「それ相応の行動を検討する」と「対抗措置」を示唆したものの1か月近く経つのに有言不実行である。

 全ての政策決定権は最高指導者の金総書記にあるが、肝心の金総書記の動静はプツンと途絶えたままである。労働党本部庁舎で5月6日に軍人家族の芸術公演を鑑賞し、翌6日に出演者らと記念写真を撮ったのを最後に公の場に姿を現していない。

 米国の北朝鮮ニュース専門媒体「NK(ノースコリア)ニュース」は5月12日に「金正恩総書記が近々、元山を訪れるかもしれない」と伝えていたが、父親の故・金正日総書記から相続した招待所(別荘)がある元山の海岸に金総書記の豪華専用ヨットが停泊していることが偵察衛星によって確認されたことがその根拠となっていた。

(参考資料:「金正恩元山行」は休養? 潜水艦進水式に出席?)

 その後の「NK」の報道によると、全長80メートルに及ぶこの豪華ヨットが24日に元山湾の停泊場から離れ、金総書記の別荘がある方向に曳航されているところが商業用衛星によって撮影されたとのことだ。停泊場を離れたのは2018年以後3回あったがそのうち2回は金総書記が元山に滞在していた時と重なっていることから「NK」は「このヨットの移動は金正恩が元山の別荘にいることのシグナルともいえる」と伝えていた。事実ならば、金総書記は現在、元山に滞在していることになる。

 元山から車で1時間半の距離には咸鏡南道・新浦が位置している。新浦沖の馬養島の地下には要塞化された北朝鮮最大の潜水艦基地があり、3千トン級の潜水艦を完成させたばかりである。

 SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)を3基搭載できる新型潜水艦の潜航能力は70日間で、太平洋に出航すればハワイやグアムなど米国の戦略要衝地を射程圏内に置くことができるらしい。進水式は間近に迫っており、潜水艦からSLBMが発射される可能性も取り沙汰されていることから米国は偵察機を頻繁に飛ばし、警戒監視を強めている。

 北朝鮮の軍事的な動きとの関連でもう一つ気になる報道がある。

 韓国の大手新聞「東亜日報 」 が運営するケーブル&衛星チャンネル「チャネルA」は一昨日(29日)、ミサイル発射が「差し迫っている」と単独報道していたことだ。

 米国では「KN25」と呼ばれている大口径ロケット砲=放射砲(多連装ロケット)らしく、その最新バージョンの発射が西海岸の黄海道・夢金浦付近から東海岸(日本海)の咸鏡北道・舞水端沖の無人島に向けて「数日内に遅くとも数週間内にある」と「チャネルA」は伝えていたが、幸い、土日にはなかった。

 安堵も束の間、今朝の「朝鮮中央通信」は米韓首脳が合意した米韓ミサイル指針(韓国ミサイル射程の制限撤廃など)を「北朝鮮に対する好戦的な政策であり、恥ずべきダブルスタンダードの言動」と批判した「キム・ミョンチョル」と言う名の国際問題評論家の論評を伝えていた。

 「キム・ミョンチョル」なる国際問題評論家はおそらく北朝鮮に実在する人物ではなく、朝鮮総連の対外英字紙「ピープルズ・コリア」の元編集部長だった、日本に在住している金明哲(キム・ミョンチョル)氏と同一人物ではないかと推測される。

 国際問題評論家と称している金明哲氏はこれまでも得意の英語を生かし、北朝鮮の意向に沿った論文や記事を書き、米国の雑誌やメディアに投稿したりしていた。こうしたことから米国や韓国のメディアの中には金氏を「北朝鮮の対外スポークスマン」とか「北朝鮮の代弁者」と紹介するメディアもあった。今回、奇異なことに「朝鮮中央通信」が朝鮮語の原文は公表せず、英文だけを公開したのはまさにその証左でもある。

 北朝鮮は時に、言いたいことを第三者に代弁させるケースがある。「朝鮮一(チョ・ソニル)」という朝鮮名を持つスペイン人、アレハンドロ・カオ・デ・ベノス氏がその典型である。

 北朝鮮の武器の違法取引に関わった容疑でスペイン当局に逮捕されたことでその存在が知られたが、ベノス氏はスペインの朝鮮親善協会委員長を務めながら、北朝鮮の対外文化連絡委員会の特使という肩書を持って、欧州に向けて北朝鮮の体制を擁護する言動を行っていることで知られていた。

 韓国のメディアは一斉に「米韓当局が攻撃の野心をさらけ出した以上、北朝鮮が自己防御の力量を強化することにいちゃもんをつける根拠はなくなった」との論評に過剰反応しているが、崔善姫外務第一次官や権正根(クォン・ジョングン)米国担当局長、さらには外務省スポークスマンの公式談話でないことから北朝鮮が直ちにミサイル発射などの軍事挑発に出る可能性は低いようだ。

 それでも偵察衛星に捉えられていることを承知のうえでミサイル発射の準備をしていることやメディアを通じて米国を揺さぶっているところをみると、米韓の対応次第ではロンドンでG7が開れる来月6日前後、あるいはシンガポール米朝首脳会談の3周年に当たる6月12日あたりの発射もないとは断言できない。

(参考資料:「米朝ハノイ会談」決裂後の北朝鮮の短距離ミサイル発射の全容(2019年5月4日~21年3月25日))

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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