「感染者はゼロ」の北朝鮮が感染事実を初めて内外に明らかにした理由は?

開城市封鎖を決定した党政治局非常拡大会議(労働新聞から)

 北朝鮮が突如、南北軍事境界線に近い開城市を封鎖する措置を取った。新型コロナウイルスに感染した疑いのある事例が発生したためだ。

 今朝の朝鮮中央通信によると、先週日曜日(19日)脱北者(北朝鮮は「越南逃亡者」と呼称)が軍事境界線を越え、開城市に「帰郷」する事件が起きたようだが、この脱北者が新型コロナウイルスに感染していたようだ。

 「数回検査を行った」と言っているので検査の結果おそらく「陽性」反応が出たのだろう。「白」「黒」が判別していないのに開城市を封鎖し、彼と接触したすべての対象者と開城経由者を徹底的に調査掌握し、検診、隔離措置を取ることは通常あり得ないからだ。政治局の最高幹部らを集め、緊急会議を開いたのは「疑いがある」からではなく「間違いない」からである。

 一昨日に「摩訶不思議な北朝鮮 『コロナ警戒中』に平壌に老兵らを招集!『感染者ゼロ』なのにワクチン開発?」という見出しを掲げ、北朝鮮の新型コロナウイルスへの摩訶不思議な対応を取り上げたが、今回の対応もまた意外だった。

(参考資料:摩訶不思議な北朝鮮「コロナ警戒中」に平壌に老兵を招集!「感染者ゼロ」なのにワクチン開発?

 北朝鮮はこれまで「感染者はゼロである」と言い続けていた。今月初旬(7月2日)に開いた政治局拡大会議で「悪性ウイルスの侵入を徹底的に防御し、安定した防疫体制を維持している」と半年を総括し、「感染者ゼロ」は「党中央の先見的な領導力と党中央の命令指示に一つになって動く全人民の高度の自覚的一致性が手にした誇るべき成果である」と豪語したばかりだった。

 しかし、国際社会では「感染者ゼロ」は嘘で、実際は北朝鮮国内でも新型コロナウイルスが蔓延し、多くの感染者、死亡者が発生しているとみなしていた。脱北団体や韓国のメディアが伝えていたように仮に「金正恩委員長の指導力」を宣伝するため、あるいは「社会主義医療体制の優越性」を誇張するため「感染者は一人もいない」と「嘘」をついていたとするならば、今回の事例も黙殺すれば済む話だ。なぜ、今回は内外に感染事実、それもまだ疑いの段階なのに公にしたのだろうか? 

 本当にこれまでは感染者がいなかったのか、それともこれ以上隠し通すのは限界とみて国際社会から医療・人道支援を受けるために公開に踏み切ったのか、どちらかであろう。後者だとすると、発生場所がよりによって先月に南北共同連絡所を爆破した開城であるという点が大いに気になる。偶然の一致か?

 北朝鮮は中国と接している慈江道をはじめ平安南道、平安北道、江原道を中心に2万5551人を隔離していたと伝えられていたが、感染第1号がそれら地域からではなく、開城市から、それも脱北者が原因ということにキナ臭さを感じざるを得ない。

 仮に脱北者が原因ならば、韓国政府は身元の確認だけでなく、19日までは韓国側にいたわけだから感染拡大防止のため経路を辿るだけでなく、迷惑をかけた北朝鮮に対して何らかの形の防疫・医療協力をせざるを得ないだろう。このように考えると、北朝鮮当局が今後、韓国政府に責任を取らせることを大義名分に南北交渉を再開させ、韓国からの医療、人道支援、さらには経済協力を得ることを目論んでいる可能性も否定できない。

(参考資料:土壇場での対南軍事作戦の「保留」は北朝鮮得意の「手のひら返し」外交!

 さらに、非常拡大会議では現在の国家非常防疫体系を最大非常体制に移行し、特別警報を発令し、「非常防疫指揮部の指揮の下、一つになって絶対服従し、秩序を維持する」ことが強調されていたにもかかわらず、相変わらず金委員長を含め非常会議の出席者ら誰一人マスクを着用してないことも気になる。

 北朝鮮ではマスクをしてない乗客のバスや地下鉄の利用を禁じているほど全国民にマスクの着用を義務付けているだけに何とも不自然である。模範を示すべきトップを含む党の最高幹部がこれだと国民に示しがつかないのではないだろうか?

 今回の騒ぎを金正恩政権が深刻に捉えているならば、今日にも平壌で予定されている朝鮮戦争停戦67周年に際しての老兵大会の開催を見送らざるを得ないだろう。朝鮮戦争(1950-53年)に参戦した兵士となれば、80代~90代で、感染すれば危ない年代だ。開城から平壌まで160kmの距離である。

 それでも、開催強行ならば、事態はさほど深刻でないということになる。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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