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摩訶不思議な北朝鮮「コロナ警戒中」に平壌に老兵を招集!「感染者ゼロ」なのにワクチン開発?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
2年前の「老兵大会」で老兵らに囲まれる金正恩委員長(労働新聞から)

 世界を震撼させている「新型コロナウイルス」をめぐる北朝鮮の対応、言動は理解不能である。

 中国の武漢を震源地とした「新型コロナウイルス」はあっという間に中国本土を席巻し、国境を接しているタイ、ベトナム、インドなど周辺国から隣国の韓国や日本、そして欧米へと伝染し、今ではパンデミック(世界大流行)となっているが、中国と1420kmも国境を接している北朝鮮だけは今もって「一人の感染者もいない」と言い続けている。

 北朝鮮当局の発表でも韓国では感染者が8千人を超えていた3月の時点で北朝鮮でも1万人近くが「医学的監視対象者」として隔離されていた。世界保健機構(WHO)によると、これまでに北朝鮮では延べ2万5551人が隔離され、解放されたとのことである。

 北朝鮮の人口は約2500万人なので人口約1千人のうち1人が隔離されていたことになる。それでも感染者がゼロならば、これこそ奇跡に近い。

 北朝鮮の隔離者の解放基準は不透明だ。最近は外国から支援を受けた検査キッドを使って検査が実施されているが、WHOのサルバドール平壌駐在所長によると、それでも7月初旬の時点でPCR検査が行われたのは922人にのみだった。

 北朝鮮のテレビや配信された写真をみると、日本や韓国と同じような体温計を使って検温している場面はあるが、PCR検査をしている映像や写真はない。

 ところが、先週(18日)、北朝鮮の国家科学技術委員会はホームページに新型コロナウイルスのワクチンを開発中との記事を載せていた。医学研究院の医学生物学研究所が動物実験による臨床試験を行い、「安全性や抗体をつくる性質が確認された」とのことだが、事実ならば、これまた驚きだ。検査キッドも国産化できない状況下で「ワクチンを開発中」と言われても俄かに信じ難い。

 本当に世界が待望しているワクチンを開発中で、一定の成果を納めているならば、政治局拡大会議で金正恩委員長自身が言及しても良さそうなものだ。また、労働新聞や朝鮮中央通信で大々的に宣伝しているはずなのにその種の記事も見当たらない。

 さらに不可解なのは、感染者を一人も出していないにもかかわらず、日本や韓国同様に幼稚園や学校を休校させ、全国民にマスク着用を義務付け、マスクをしてない乗客のバスや地下鉄の利用を禁じていることである。また、2月、4月、6月、7月と政治局会議を4度も開き、その都度「コロナ」対策を討議していることだ。金委員長が豪語するように防疫体制が万全ならば頻繁に政治局会議を開いて、討議する緊急性はないはずだ。

 そうかと思うと、一連の政治局会議では金正恩委員長を含め40数人の出席者は誰ひとりマスクをせずに会議に出席していた。ブラジルのボルソナロ大統領に続いてトランプ大統領もマスクをするようになったが、世界の指導者の中でマスクをしてないのはおそらく金委員長ぐらいだろう。

 金委員長が出席した3月の平壌総合病院建設の起工式や5月の順川肥料工場の竣工式には1万人規模の市民が動員されていた。ここでも参加者全員がマスクを着用していたが、金委員長はマスクを使用してなかった。

 先週(19日)も平壌総合病院建設現場を訪れ、また一昨日(22日)も黄海北道・黄州に建設中の採卵・鶏肉加工工場を訪れていたが、妹の金与正党第一副部長ともどもマスクをしてなかった。

 何と言っても奇妙なのは、日本も、韓国も含め世界中が感染を防ぐため「3密回避」や「ソーシャル・ディスタンス」を徹底させている最中に北朝鮮だけは例外で、大規模集会や室内で会合を開いていることだ。韓国の脱北者団体による対北ビラ巻き騒動の時(6月)も数千人の群衆を動員し、全国主要都市で脱北団体を糾弾する集会を開いていた。

 数千人から1万人以上も1か所に集めることができるわけだから本当に韓国のメディアが報じているように新型コロナウイルスが蔓延し、多くの感染者、死亡者が発生しているのだろうか?との素朴な疑問も沸いてしまう。来る27日にも朝鮮戦争停戦67周年を迎え、平壌に全国から老兵を招集し、大会を開催する。

 朝鮮戦争(1950-53年)に参戦した兵士となれば、80代~90代で、感染リスクの最も高い世代だ。それでも老兵大会を強行できるわけだから、もしかすると本当に「感染者がゼロなのかも」と思ってしまう。それが狙いならば、呆れ返るほかないが、さて北朝鮮は一体、老兵大会をどのように開催するのだろうか?興味津々だ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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