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金正恩委員長の思考と言動は理解不能!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
昨日行われた政治局会議での金正恩委員長(労働新聞から)

 北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」は今朝、金正恩委員長が主宰して「党中央委員会政治局会議が開かれた」と伝えた。どうやら会議は昨日行われた模様だ。

 金委員長は今春以降、約3週間置きに公式の場に現れていたが、今回は、党中央軍事委員会拡大会議を招集した5月23日からまだ2週間そこそこしか経ってない。金委員長の「出番」があるとすれば、米朝首脳会談(シンガポール)2周年にあたる6月12日あたりかと推測していたが、予想が外れた。

(参考資料:動静不明」の金正恩委員長の滞在先は江東の「招待所」!

 それにしても現れた所がまた会議室とは意外だった。前回は党軍事委員会拡大会議で、今回は政治局会議(第7期第3次会議)。政治局会議は約2か月前の4月11日に行われたばかりだ。2か月もしない間に2度も行うのはよほどのことである。何事も計画的に行う国としては考えられない現象だ。

 前回の政治局会議では朴正天軍総参謀長が政治局員に、李先建外相が政治局候補委員に選出されるなど人事が行われたが、今回も金英煥平壌市党委員長が政治局員候補に選出されたほか権泰栄上将ら軍人が党中央委員に選出されていた。党及び軍幹部の昇進を二度に分けてやる理由がさっぱりわからない。

 

 また、今回の政治局会議の議題は化学工業を発展させることと首都・平壌の市民生活を保障することがメインだった。

 喫緊の食糧問題を解決するには肥料の増産が切実である。そのためには化学工業を発展させる必要性がある。従って、化学工業の問題を議題として取り上げられるのは十分に理解できる。しかし、平壌市民の生活を保障する問題が議題に上がったのは意外だ。

 最近、平壌が台風や洪水、干ばつ、あるいは大火などの自然災害に見舞われ、大きな被害を受けたならば話は別だが、そうした報道はない。仮に韓国の大統領が、あるいは日本の総理がソウルと東京だけを限定して「生活の保障に力を入れ」と言ったら、他の都市から総スカンを食らうだろう。

 北朝鮮の人口(2500万人)の10分の1が暮らす平壌は北朝鮮では「別世界」と言われるぐらい地方とは比べものにならないぐらい市民生活のレベルは高い。通常ならば、都市と地方の格差解消のため地方の生活向上を優先させるのが筋であろう。それが、地方ではなく、平壌市民の生活向上について言及したわけだからよほど切羽詰まった事情があるのかもしれない。もしかしたら、長引く国際社会の制裁が、あるいは「コロナ禍」の影響が平壌市民の生活に及んでいるのだろうか?

 平壌市は金正恩政権に忠実なエリート核心階層から成っているのは周知の事実である。生活苦による動揺、離反を防ぎ、政権への忠誠を確固たるものにするために彼らの生活を担保しなければならなくなったのか?理由がわからない。

 経済が苦しければ、文在寅大統領が差し伸べている交流の手を握れば済むものをコロナ関連の医療品も含め人道支援まで拒絶するのはどう考えても理解できない。野党や保守メディアから「従北」「親北」を批判されるほど北朝鮮のことを想っている文大統領を袖にする理由も今一つわからない。「我が民族同士」を強調してるだけに矛盾していると言わざるを得ない。

 まして、韓国の宣伝ビラを問題にして金委員長の妹、与正党第一副部長は南北首脳会談の果実である南北軍事合意の破棄をちらつかせているどころか、「金の成る木」である開城工業団地の完全撤去、さらには南北共同連絡事務所の閉鎖までも言い出す始末である。

 喧嘩しては仲良くなり、仲良くなったと思ったらまたいがみ合うのが南北関係であることはわかっているが、それでも今回は一体何を考えているのかさっぱりわからない。どうやら早くも南北共同連絡事務所の電話は不通となってしまったようだ。

 この他にも、「新型コロナ」対策としてソーシャルディスタンスを実施し、間隔を空けさせているのにその一方で群衆を動員しての抗議集会がいたるところで連日開かれている。そうかと思えば、政治局会議では金委員長を含め40数人いる会議出席者は誰ひとりマスクを着用してなかった。

 また、細かいことかもしれないが、今朝、配信された政治局会議の写真を見ると、金委員長のテーブルの前に灰皿が置いてあった。確か、北朝鮮では現在、全国で禁煙キャンペーン中である。新聞やテレビを通じて連日、国民に禁煙を奨励している。最高指導者がこれでは禁煙キャンペーンの効果は期待できないのでは?

(参考資料:北朝鮮で全国禁煙キャンペーン! ヘビースモーカーの金委員長は?

 金委員長のやることなすこと、わからないことだらけだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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