イランと北朝鮮の「トランプ評価」 どっちが正しい?

2017年にイランを訪問した金永南常任委員長とロウハニ大統領(労働新聞から)

 イランと北朝鮮はかつてブッシュ政権からイラクと並び「悪の枢軸」とのレッテルを張られるほど「反米」の絆は強かった。両国は1979年のイラン革命によるホメイニー政権発足以後同盟関係にあり、核とミサイル開発でも協力関係にあった。しかし、昨年からは明かに対米外交(核交渉)では異なるスタンスを取っている。

 北朝鮮が「共通の敵」である米国との交渉を決断し、金正恩委員長がトランプ大統領に米朝史上初の首脳会談を呼び掛けると、イランは「北朝鮮の指導者はどのような種類の人間と交渉しているのか分かっているのか」と不満を示し、さらに金委員長が体制保障を見返りに「完全なる非核化」を約束するや「米国の本質は楽観できるものではなく、注意深く対応すべきだ」と釘を刺していた。

 イランは金委員長が求めた米朝首脳会談について「米国の振る舞いや意図については懐疑的であり、極めて悲観的に見ている」と冷淡な反応を示していたが、1年経っても北朝鮮が首脳会談の果実を手にできてないところをみると、現状ではイランの読み通りとなっている。

 そのイランの最高指導者であるハメネイ師は悪化の一途を辿る米国とイランの関係改善仲介のためテヘランを訪問した安倍晋三総理と会談した際、トランプ大統領への不信を露わにしていた。ハメネイ師は安倍総理が「イランの体制転覆を考えてない」とのトランプ大統領の言葉を伝えると、「それは嘘だ」と全く信用してなかったようだ。

 外電などを総合すると、「トランプ政権はイランと誠実に対話する用意がある」との安倍総理の説明にハメネイ師は「(トランプ大統領の)発言は信用できない」と、これまた米国との対話を拒否したようだ。

 「ちびロケットマン」「病気の子犬」などと揶揄していた老獪なトランプ大統領が掌を返して「金正恩は非常に率直で、とても立派な人物だ」と持ち上げたことに気を良くしてすんなり米国との対話に応じた金委員長とは大違いだ。

 ハメネイ師はまた、安倍総理がトランプ大統領からのメッセージを伝達しても「彼はメッセージを交換するに値する相手ではない」と一蹴し、「私からの返答はない。将来においても返答するつもりもない」とトランプ大統領への「返書」を拒絶していた。

 一方の金委員長は再三トランプ大統領に親書を送っており、昨年7月6日の親書では「大統領閣下に対する(私の)変わらぬ信心と信頼」という言葉を用い、またハノイでの会談で「ゼロ回答」という冷たい仕打ちを受けたにもかかわらず今月11日にもトランプ大統領に「素晴らしい」と言わしめた内容の親書を送っている。それにしても、ハメネイ師の毅然たる対応をみて思うのは金委員長の形振り構わぬ豹変ぶりだ。

 トランプ大統領は昨年6月にシンガポールで初の米朝首脳会談に応じるまで金委員長について「金正恩は頭がおかしい」(2015年8月)「狂人がこれ以上、核を持ってふざけないようにさせなければならない」(2016年1月)「中国を通じて金正恩を早く消えさせなければならない」(2016年4月)「殺人政権を孤立させる」(2017年11月)と罵詈雑言を浴びせていた。中でも、何と言っても堪えがたきは2017年11月8日のトランプ大統領の韓国国会での次のような演説であろう。

 「私がここ(ソウル)に来たのは、北の独裁体制指導者に直接伝えるメッセージを伝えるためだ。お前が持っている核兵器はお前を守るのではない。むしろお前の体制を深刻な脅威に陥れているのだ。暗い道に向かう一歩一歩はお前が直面する脅威を増加させるだろう。北朝鮮はお前の祖父が描いていた天国ではなく、誰も行ってはならない地獄である。しかし、お前が神や人類に対して犯した罪にもかかわらず我々には良い未来のための機会を提供する準備ができている。その出発は攻撃を終息させ、弾道ミサイル開発を中止し、完全で検証可能な相対的非核化だ。歴史に見捨てられた体制は多い。どれも愚かにも米国の決意を試験した体制だ。我々は米国と同盟国を脅迫し、攻撃するのを許さない。我々は米国の都市が破壊の脅しを受けるのを許さない。我々が脅迫を受けることはない。我々は歴史上最悪の残酷がここで繰り返されることはさせない」

 これほどの侮辱を受けたにもかかわらず金委員長は突然トランプ大統領を「閣下」と呼び、「以前から高く評価していた」と言って、首脳会談を申し入れたわけだ。その首脳会談は結果として今のところ、北朝鮮が望むような成果は得られてない。

 北朝鮮は側近のポンペオ国務長官やボルドン大統領補佐官が妨害しているためとして、二人にその非を押し付けているが、北朝鮮がシンガポールで約束した非核化の一環として核実験と長距離弾道ミサイル発射の中止や核実験場の爆破とミサイル施設の一部解体に応じても、朝鮮半島の恒久的平和定着のため平昌五輪に選手団を派遣し、韓国大統領との首脳会談に応じ、軍事的緊張緩和に向けて南北軍事協定を交わしても、また米国との新たな関係を築くため抑留していた米国人の解放や朝鮮戦争で死亡した米軍兵士の遺骨返還に応じ、軍事パレードでの反米色を薄め、極め付きは北朝鮮国内から反米スローガンを撤去したにもかかわらず、制裁解除など北朝鮮が求める体制保障に応じないのは最高指導者であるトランプ大統領の指示によることは誰の目にも明らかである。

 金委員長は年内まで米国の出方を待つつもりだが、果たしてトランプ大統領を相手にした金委員長の選択が正しいのか、それとも突き放したハメネイ師の選択が正しいのか、年内にはわかるだろう。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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