そこまでやる? PTA役員と学校が奔走する一大イベント「周年行事」の謎

式典に祝賀会、記念品や記念誌の作成など、かなり手間をかけている学校も多い(ペイレスイメージズ/アフロ)

 小中学校などで行われる「周年行事」というイベントをご存じだろうか。PTA役員はこの「祝賀会」の準備を担当し、仕事がかなり増えるため、役員を増員して臨むことすらある。

 労力のかかる行事として知られるが、なぜ変わらないのか? 取材した。

祝賀会をPTA役員が担当

 今年も「周年行事」の季節が近づいてきた。聞き慣れない人が多いかもしれない。周年行事というのは、学校創立20周年、60周年など、10年ごとの“節目”に行われるお祝いのイベントだ。式典は10~11月の土曜か日曜に開催されることが多い。

 小学校でよく聞くのは、子どもたちに祝い菓子や記念品、記念誌などを配り、体育館に大人たちが集まって式典や祝賀会(飲食を伴う)を行う、といった内容だ。理由はわからないが、周年行事の記念品は「校庭に並んだ子どもたちを撮影した航空写真を印刷した下敷き」という学校がとても多い。

 式典や祝賀会は、東京都の公立小中学校では大体、学校の体育館で行われるようだが、埼玉県、千葉県、群馬県の保護者からは、祝賀会をレストランやホテル等、学校外で行う例も聞いた。筆者が聞いた範囲では、アルコールが出るところが多いが、ソフトドリンクのみのところもある。

 祝賀会の費用は、参加者の会費制のこともあれば(3,500~5,000円程度)、PTAの周年行事予算から出ていることもあり、それも一部だったり全部だったり、まちまちだ。町内会などがお祝い金を持ってきてくれることも、今でもときどきあるという。

 多くのPTAは、周年行事の予算を毎年積み立てており、このほかにバザーの収益金や、OBや地域からの寄付金、後援会費などを加えることもある。積み立て総額は40万円程度から、多いところだと150万円と大きな幅があり、これを学校に寄付する贈答品や、子どもたちに渡す記念品、その他もろもろの費用にあてている。記念誌代など、部分的に予算がつく自治体もある。

 なお50周年や100周年など、特に大きな“節目”の年は、周年行事の規模がより大きくなり、お金をより多くかける傾向も見られる。

 式典・祝賀会に出席するのは主に、学校関係者(自校の元PTA役員や、近隣校の校長・PTA会長など)と地域のVIPたち(地元議員、自治会長、民生委員、子ども会等々)だ。筆者が聞く限り、一般保護者の参加はほとんどない。そのため、式典や祝賀会のことを知る保護者は少ない。

 ただし、PTAの本部役員(会長・副会長・書記・会計など)は別だ。周年行事のうち、記念品や記念誌、式典などの準備は学校が担当することが多いが、祝賀会については、PTAの本部役員が準備することがほとんどだからだ。周年行事の年度に当たった本部役員の保護者は、通常の業務に加えて仕事量が増大するため、気にせざるを得ないのだ。

 周年行事の年度は、ただでさえなり手が見つかりにくい本部役員が、ますます決まらない、という話もよく聞く。なかには周年行事の年度は役員の人数をふだんより増やしたり、役員経験者で「周年行事実行委員会」を別に立ち上げたりすることもある。

式典と祝賀会に潜入した

 これだけ読んでも、周年行事の式典や祝賀会というのがどんなものか、具体的なイメージが湧かない人は多いだろう。筆者は数年前に一度、知り合いのPTA会長の厚意で、当日学校に入れてもらったことがある。あくまで一例としてではあるが、このときの様子をお伝えしたい。

 控え室の来賓席にお茶を並べる保護者たち
控え室の来賓席にお茶を並べる保護者たち

 11月の土曜、朝9時、東京の下町にある、歴史ある小学校を訪れた。到着すると、校門前に立てられたテントで来賓の受付を行っている。受付名簿は、校長(他校)/地元議員/元PTA役員/他校のPTA会長/地域(自治会長や民生委員など)の枠で分かれていた。

 受付を担当しているのは、役員や手伝いの母親たちだ。駐輪場では「おやじの会」の父親たちが、自転車の整理をしている。来賓は受付で、オリジナルエコバッグにセットされた記念品や式典資料など(式次第、席次表等)を受け取る。

 下駄箱は一つひとつ、来賓の名前を書いた紙が貼られている。スリッパにはきかえて廊下、階段を進むと、あちこちにお手伝いの保護者(母親が多い)が立っており、控え室(教室)に誘導してくれる。筆者が入れてもらったのは、元PTA役員の控え室だった。ご高齢の方が多く、互いに見知った顔のようで、楽しそうに談笑している。

 式典は、体育館で1時間ほど行われた。出席者は全部で150~160人ほどはいただろうか。区長や校長、PTA会長などが壇上にあがり、祝いのスピーチをする(全て男性)。余談だが、最初の方の挨拶はあまりに長かった。最後に子どもたちが登壇して、スライドで学校の歴史を紹介。こちらは、とてもよくまとまった内容だった。

 来賓はその後、いったん控え室に戻る。これから体育館で祝賀会が行われるのだが、その準備を待つためだ。この間、子どもたちが数名ずつ各控え室を訪れ、またもや学校の歴史を、パワーポイントを使ってさらに詳しく紹介してくれた。

ケータリング業者が祝賀会の準備を始めた
ケータリング業者が祝賀会の準備を始めた

 次に来賓は校庭に移動する。子どもたちの「ソーラン節」の演技を観賞するためだ。運動会で披露したものだという。近隣の集合住宅のベランダからは、地域の方が数名、子どもたちの演技を見守っていた。

 お昼過ぎ、祝賀会の準備が整い、再び体育館へ。先ほどの式典のときとは雰囲気がガラリと変わっている。体育館の前方に1つ、左右に3、4つずつ、計8~9つの円卓が置かれ、クロスがかけられている。お茶やビール、コップなどが置かれ、中央のテーブルにはオードブルが並ぶ。立食パーティの形式だ。ケータリング業者のスタッフたちが、忙しそうに立ち働いている。

 壇上でまた、地元議員や元PTA会長たちの挨拶が始まった(またもや全て男性)。元会長のおじいちゃんたちは皆、晴れ舞台での挨拶をとても誇らしく感じているようだった。微笑ましいのだが、皆とにかく話が長い。来賓たちはコップを片手に、辛抱強く待つ。

 やがてようやく乾杯の音頭がとられ、飲食・歓談が始まった。壇上では弦楽アンサンブルや、太鼓の演奏。にぎやかで会話がしづらいが、皆とても楽しそうだ。

 祝賀会の様子
祝賀会の様子

 翌年の周年行事(祝賀会)に備え、近隣の他校から視察に来ているPTA役員の母親もいた。この辺りの学校では、周年行事の前年度のPTA役員は、大体そんなふうに他校の周年行事を見に行って、祝賀会の運営ノウハウを学んでいるのだという。祝いの席の華やかな雰囲気を楽しみつつも、来年度の大仕事を前に、どこか複雑そうな表情も垣間見えた。

そこまでやるのか、という疑問

 この記事を書くにあたって、筆者は約10名の周年行事経験者(保護者)に話を聞かせてもらったが、このうち東京都区部の3例は、筆者が見てきた式典・祝賀会とおおよそ同じような内容だった(細かな違いは多々あるが)。ただし、もろもろの手間のかけ方は、筆者が見た学校が一番大きかったかもしれない。

 参加した来賓たちの晴れがましい笑顔を思い出すと言いづらくなるのだが、さすがに「そこまで手をかけるべきことか?」という疑問は拭えない。いま大人たちが手をかけるべき場面は、もっとほかにもたくさんあるだろうに、と思ってしまう。

 航空写真の下敷きは記念品の定番だ(写真:イマジンズ)
航空写真の下敷きは記念品の定番だ(写真:イマジンズ)

 話を聞くと、地域によっては住民(学校OBと重なる)から周年行事についていろいろ物言いがつくらしく、PTA役員たちはそこでも苦労している。たとえばこんな感じだ。

 「前回(10年前)より規模を縮小するため招待者を絞ったところ、町会長さんから直接ご連絡をいただき、いろいろとご説明することになったのも、今ならちょっと笑える思い出です」(東京都区部・Tさん)

 「地域住民の派閥があるらしく、メインでないほうの方から役員らが呼び出され、長いアドバイスをいただきました」(東京都区部・Nさん)

 「この辺りは学校後援会があるんですが、後援会長の理想があふれ出して、いろいろ言うわけです。これがなかなか面倒で、あぁ、学校も大変だなぁと思いました。後援会の意見を聞くだけ聞いてうまく収める、という作業も多かったです」(埼玉県・Mさん)

 もちろん負担があるだけではない。祝賀会をやって良かった、という声もある。

 「周年行事などに顔を出すことで、学校や保護者のことについて、地域の方たちに耳を貸してもらえることも増えました。転出された先生が、その後、近隣校や不登校児教室の担当になって祝賀会に来てくれたときは、会議の場とは違った交流が生まれたりして、悪いことばかりじゃないのですよね」(東京都区部・Tさん)

 「学校は保護者や教師、地域の方々の協力で整えられてきた歴史があるので、その感謝と敬意を伝える場として役立っていると思います」(群馬県・Kさん)

 このように祝賀会によって、学校関係者や地域関係者の関係が深まるメリットもあるのは事実だが、ただし、「この会に参加できるのはごく一部の関係者だけ」という点もひっかかる。手伝いに来る保護者(多くが母親)たちさえ祝賀会には参加できず、皆忙しいなか、休みの日の朝から学校に来て手伝いをして、帰っていくだけだ。

 お金の問題もある。先ほども書いた通り、周年行事の費用はPTA予算から積み立てていることが多い。そのお金はつまり、会員である一般保護者や教職員たちが払ったPTA会費から出ている。学校によっては、PTAがバザーなどでも費用を捻出しているが、これも結局のところ、保護者(ほぼ母親)の労働力が原資だ。「バザーの準備に手間をかけるより、お金を多く払ったほうがまだマシ」といった声も聞かれる。

 さらに、先生たちの負担もある。多くの学校では、周年行事の記念品(航空写真等)や記念誌、式典などの準備は、先生たちが担っている。筆者が見た式典や待ち時間の子どもたちによる学校の歴史の発表だって、先生がかなりサポートしていたはずだ。昨今、教員の多忙化が問題になっているが、周年行事もその一因となっているのではないか(10年に一度とはいえ)。

 東京都区部のある小学校のPTA役員が、校長に「周年行事はやめられないのか?」と尋ねたところ、「やらないという選択肢はない」と答えたという。この校長は自身も働く母親であり、PTA活動の業務軽減にはとても協力的だそうだ。「その校長が中止したがらないということは、(周年行事をやめるのは)本当に無理なんだなと思った」と、この役員は話す。

時代に合わせた見直しを

 祝賀会にも良い面はあるにせよ、それにしてももうちょっと、保護者や先生の負担を減らすことはできないものか。

 聞いたなかには、すでに規模(来賓の人数)を縮小したり、配膳等を外注したりといった形で手伝いの保護者の負担軽減をはかっているところや、他校のPTA会長を祝賀会に招き合う習慣をやめた、という地域もあった。

 「祝賀会をやめた」という学校も、実はある。以前紹介した元PTA会長の小川利八氏は、「記念誌を子どもたちにつくってもらうなど、周年行事はやりました。祝賀会は、やめようと思えばやめられます」と話していた。

 ほかにも埼玉県の別の市や千葉県でも、祝賀会をしなかった中学校があることを把握している。

 子どもや学校を取り巻く環境は、昔とは大きく変化している。保護者も学校の先生たちも、いまは皆忙しい。周年行事や祝賀会の在り方について、各学校やPTAは、一度思い切って見直しをはかってもいいのではないだろうか。