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【PTAは変われるか】会費ゼロの学校応援団ができるまで(上)委員会をなくし、学校への寄付をなくす方法

大塚玲子ライター
目的はPTAの存続ではないのです(写真:アフロ)

「会費をね、ゼロにしたんですよ」

小川利八さん(50)。埼玉県にある公立中学校の元PTA会長で、現在は「学校応援団」の一員として活動にかかわっています。

筆者が小川さんを知ったのは、朝日新聞の記事(2012.5)がきっかけでした。

小川さんがPTA会長として会費を下げたこと、周年行事の祝賀会をやめたこと、PTAを解散して、地域の人たちが中心となる新たな組織を立ち上げたことなどが掲載されていたのです。

当時取材を申し込んだときにはかなわかったのですが、最近筆者が書いたYahoo!の記事を小川さんがたまたま読んだことから、取材を受けてもらえることになりました。

その後も組織改革を続け、会費ゼロを実現した経緯について、詳しく聞かせてもらいました。

*まずは委員会をやめ、すべてを係の活動に

小川さんがPTAにかかわり始めたのは今から約20年前。3人のお子さんのうち、一番上の子が小学校低学年のときです。このときは会計監査(本部役員)をやりました。

PTA会長になったのは、それから約10年後(H19年度)。2番目のお子さんが中学生のときでした。

それまで約10年、PTAをじっくりと観察し続けてきた小川さんには、変えたいことがいろいろありました。

「会長になってすぐ、委員会をなくしてすべて係活動にしました。委員会は毎年ずっと同じことをやっているので、マニュアルをつくれば係でやれるな、と思ったんです。

たとえば教室のカーテンの洗濯はある委員会がやっていたんですけれど、係活動でいい。係なら委員会と違って集まる日時が先にわかるので、みんなやりやすいんですよね。

そもそもPTAって、事業を無理に作っているところがあります。なぜそうなるかというと会費を集めているから。予算が先にあるから、事業が作り出されて、保護者の動員が行われてしまう。それは本当はいらない事業なんです」

委員会をなくしたところ、年度初めの保護者会のクラス委員決めや、その先の委員長決めもなくなったため、多くの保護者に喜ばれました。

保護者会の出席率も上がり、じゃんけんやクジ引きがないため、活動におけるみんなの「いやいや感」もなくなって、評判は上々。

「そこから僕のなかで拍車がかかりました(笑)。PTAではいろんなことについて“おかしいじゃないか”と思っていたので、それを変えていったんです」

*PTA会費も、学校への寄付金も、ゼロに

PTA会費の値下げにも踏み切りました。毎年使い切れない繰越金が貯まりに貯まって、膨大な額になっていたからです。

「PTAって本会計のほかに、周年行事用とか緊急用とか、いくつも会計(通帳)をもっていることが多いんですね。

なぜかというと、1つにまとめると、繰越金が多すぎて収入を上回ってしまうから。バランスが悪いので目立たないよう、複数の通帳をもっているんです。僕が知っている一番多いところは、7つ通帳がありました。

でも僕はこれ以上繰越金はいらないと思って、会費を下げていったんです」

小川さんは同時に、PTA予算の使い方についても見直しを進めていきました。

たとえばPTAから学校に納める寄付金=“学校協力金”。小川さんがPTAにかかわった当初は、毎年100万円近く渡していたそうですが、徐々に減らしていきました。

「義務教育なんだから公費で賄おう、PTAのお金を使うのはやめよう、ということです。当たり前のことなんですけれど、協力金をやめるためには、学校にそれだけの担保を用意する必要もあります。

僕は議員もやらせてもらっているので(※小川さんは現職の草加市議会議員)、各学校への配当予算を上げました。

たとえば、卒業時に子どもたちに配る証書ホルダーは、以前はどこの学校もPTAが寄贈していたんですけれど、“備品”として教育委員会に予算をつけてもらって、卒業式の会場に飾るお花も“環境整備”で予算をつけてもらいました。

体育館の椅子やスリッパ、緞帳もPTAで買うのをやめて、公費にしてもらいました。緞帳は100万くらいかかるので、年次計画を立てて、2年に1校くらいずつ変えていこうということでやっています。

教育委員会へのお金の申請は、各学校の事務職の人にやってもらうことにしました。事務の人たちも、申請が“通る”とわかっていれば、請求しやすくなるんです」

筆者も取材でよく聞くのですが、学校が教育委員会にお金を申請する作業は、かなり煩雑です。書類をつくったり、さまざまなやりとりをしたりするのが面倒なため、「頼めばすぐにお金が出てくるPTA予算」が重宝されてしまうところもあるのです。

申請作業を事務職員がやるのであればみんな納得できますし、そうと決められれば、職員のほうも動きやすくなるでしょう。

「学校協力金は、教育委員会から『ダメ』って言うほうがいいと思うんです。PTAや学校からだとなかなか変えづらいので、教育委員会がしっかり方針を出したほうがいい。

先生たちだって、本当はいいとは思っていないと思うんですよ。ただ『去年もこれはこうしていたから、じゃあ今年も』ってしているだけで。『それはおかしいよ』って言われれば、『そうですよね』ということになります」

小川さんは、こうして徐々に予算の見直しを進め、H27年度からはついに、学校協力金も会費もどちらもゼロにした、ということです。

(続く)

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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