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加入率3割・活動ナシでも問題はない PTA会長の本当の願いとは

大塚玲子ライター
(写真:イメージマート)

 入会届で加入意思を確認するPTAがようやく徐々に増えつつあります。筆者が聞く限り、任意加入を周知しても加入率は6~8割程度のことが多いようですが、1~3割になった、という話もときどき聞くようになりました。

 先日は「加入率が1割まで下がった後、8割まで回復した」というPTAを紹介しましたが、加入率回復が必須というわけでもありません。3~4割のまま継続しているPTAも見かけます。

 長い間全員加入を前提としてきたPTAが、3~4割の加入率でいいの? と思った方もいるでしょう。今回は、敢えて高加入率を狙わず、ぼちぼちのレベルをキープするPTAの話を紹介します。

活動はほぼナシ、いまのところ苦情もナシ

 話を聞かせてくれたのは、北九州市の公立小学校のPTA会長、田中裕三さんです。田中さんの小学校のPTAでは、コロナ禍2年目となった昨年度(2021年)から加入届を配布し、加入意思確認を始めました。

 このとき、加入率は3割でした。家庭数が300強で、うち100世帯が加入した形です。以前は強制だったとはいえ、全加入から急に7割も減って「正直、びびりませんでしたか?」と尋ねると、「そうでもなかった」とあっさり。前年度に加入届を配り始めた近隣校のPTAも、加入率が3割だったと聞いていたからです。

 「コロナ前までは強制でしたから、やっぱり『入ったら、何かさせられるんじゃないか』と思われたようです。だから、仕方ないかなって」

 田中さんは動じることなく、PTAを継続します。

 委員会は成り立たないのでやめにして、代わりに「サポーター」を募集したところ、5人の保護者(女性2人・男性3人)が手を挙げてくれました。入会届に添えた「サポーターとして参加できるか」という項目にチェックを入れてくれた人たちです。

 ただし、その後は特に活動はしていないといいます。やることは、会長の田中さんが外部団体(北九州市PTA協議会、まちづくり協議会等 *)の会合に行って聞いた話や、校長先生からの連絡、行事のお手伝い要請などをサポーターのLINEグループに流すくらいです。

 「そんなでいいの!?」と目をむいた方もいるかもしれませんが、同小学校の保護者や教職員のなかに、特に異論はないようです。

 「もしかしたら苦情があるかなと思って、去年の春、小学校には『PTAへのご意見があったときは、僕の携帯番号を教えていいです』と伝えたんですが、一度も電話はありませんでした。こわがられてるのかな(苦笑)」

 筆者の印象では田中さんはこわがられる人ではなさそうですが、少なくとも、PTA会長に電話をかけようと思うほど不満を感じる人はいないということでしょう。

 今年度も、状況はほとんど変わりません。加入率は4割、サポーターは7人(女性4人・男性3人)と、どちらも微増しましたが、昨年度と同様、会長の田中さん以外はこれといった活動をしていないということです。

 「子どもが5年生なので、僕が会長をできるのは来年度まで。再来年度の会長がどうしても見つからなかったときは、PTAは休会もしくは解散にして、別の保護者会にしましょう、と話しています。おやじの会もあるし、運動会など行事のお手伝いは学校がお知らせすれば出てくれる保護者はいると思います」と、田中さん。

 なお、北九州市では昨年末、教育委員会が「PTAに名簿(学校が持つ保護者の個人情報)を渡さない」という方針を打ち出し、PTAでの加入意思確認を求めたため、今年4月からは市内のほとんどのPTAが加入届を整備しました。結果、加入率が3、4割のPTAは、去年よりも増えているということです。

PTAを通して改善してもらえないのかなと思った

 講演会の開催や広報紙の作成など、いまだ義務的な委員会や係の活動を続けるPTAも多いなか、「こんなに何もしないPTAなら、なくてもいいのでは?」と思った人もいるかもしれません。

 それでもPTAをなくそうとはせず、続けているのはなぜなのか? 田中さんに尋ねてみたところ、こんな答えがかえってきました。

 「僕がPTAに関心をもった最初のきっかけは、学校の費用がかかり過ぎること、保護者の費用負担が大きいことについて、PTAを通して改善してもらえないのかな、と思ったことでした。やっぱり保護者が声をあげないと、そういうところは変わらないと思ったので。

 PTAって、本当はそういうところで意見できるのが本質じゃないのかな、と僕は思うんです。保護者の意見を集約して、学校に改善を求める。だから、もしそこができる組織なら、PTAは絶対残るべきだと思うんですけれど。でも現実は、声を上げても議論にもならず、うやむやになってしまう。だから『やってる感』だけ、という感じもして…」

 なるほどなと思いました。筆者も、これまでのPTAのやり方には多くの問題を感じていますが、「なくしてしまえ」と言ったことは実はありません。保護者のつながり(PTAも含む)が役立つ可能性がゼロだとも思えないのです。

 淡々と話してくれた田中さんですが、今年の入学式でPTAが任意加入だと説明をしたときは、これまでの経験を思い出して涙声になってしまったそう。一番辛かったのは、委員が定員に満たなかった際、「まだやっていない人を洗い出して鬼のように電話連絡するとき」だったといいます。

 PTAで辛い思いをする人がいなくなることを、田中さんは誰よりも願っているのでした。

  • * まちづくり協議会は、小学校区ごとに組織される自治会などとの集まり。なお同PTAは2022年度からPTA協議会を脱退している

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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